試合からの
最初に動いたのは長剣を構えたリアナだった。
左右の手に持った長剣を、その場で振るう。
ロイ達とは数メートル離れているため、当たるはずがないにもかかわらずだ。
しかしそれはすぐに答えが出た。
身の丈に合わない長剣をふるう事でわざと重心を崩し、それに身を任せる。
完全に体が倒れきる前に衝撃を受け流して、そのまま勢いを利用してリリアめがけて剣を構えた。
リリアもその異様な行動と、見たこともない動き、そして鬼気迫る表情のリアナに気圧されて硬直してしまっていた。
「もらった! 」
リアナが叫ぶ。
しかしそれはロイによって阻まれた。
右手でリアナの左手首をつかみ剣を止め、リアナの右手に握られた木剣は受け流してその腹部にけりを叩き込む。
「そう簡単にうちの妹を上げるわけにはいきませんよ」
「……あら残念」
リアナは腹部の痛みに顔をしかめながらも笑みは崩さない。
ロイがちらりとレイナに視線を向けると、槍を振り回してにぎりなどを確認している。
「攻められるばかり、というのも面白くないのでこちらからも行きましょうか」
まだダメージの残るリアナめがけてロイが剣を突き出す。
当然レイナへの警戒はしたままだ。
リリアも自身の周囲に魔術を待機させ、いつでも攻撃、防御に回れるようにしていた。
「甘い」
しかしロイの突きは、いつの間にか接近していたレイナによってかち上げられる。
それにより腹をさらけ出す形となってしまい、リアナがそこを狙う。
「くっ! 」
ロイは肘と膝で剣を挟み込むことでそれを防いだが、時間差で襲い掛かったもう一本を脇腹にまともに受けてしまった。
だがリアナもただでは済まず、ロイが受け止めた長剣は半ばから折れ、リリアが放った魔術が腕に命中していた。
加減されたとはいえその一撃は相応の威力があったらしくリアナは腰の短剣を抜けずにいる。
「げっほ……女性の力じゃないですよそれ」
せき込みながらロイがいう。
口の端から血が流れているが、それどころではない。
目の前にいる二人のバトルジャンキーは、この試合殺す気でいるという事が容易に理解できたからだ。
「あなたの妹さんも、こんな馬鹿気た威力の魔術人に向けるとか教育がなってませんね」
対するリアナも、よろめきながら皮肉を返す。
しかしながら、リリアは頭はいいが理解力という点では少々お粗末だ。
つまり彼女にとっての皮肉は、皮肉ではなくそのままの言葉として受け止めてしまった。
教育がなっていない、それはつまり兄であるロイの教えが悪いと考えてしまった。
「殺す」
敬愛するロイを馬鹿にされた、それはリリアにとっては殺害理由としては十分すぎるモノだった。
先ほど待機させていた魔術とは数も質も桁違いの物が展開されていく。
その威力に耐えきれず、リリアの握っていた杖がはじけ飛ぶが手に残った残骸を投げ捨ててそのまま魔術を行使し続ける。
「殺す殺す殺す殺す殺す! 」
叫びながら数千数万の魔術が展開される様を、ロイは苦笑いしながら眺めるしかなかった。
「あーリアナさん、レイナさん……逃げましょうか」
ロイの提案に、二人は無言で頷いて訓練場を後にした。
ロイもそのあとに続き、訓練中だった兵士たちも各々逃げ出す。
それから30分ほど、訓練場では轟音が響き渡った。