表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡貴族の日常談  作者: ロイ
7/24

兄妹対双子

 それからも双子とのいざこざは続いた。

 長男トリスが魔術をロイに倣っていると兄としてそれでいいのかと陰口をたたき、二男アレンが晩学に励んでいるとこの程度の物もできないのかと嘲笑を浮かべ、四男レックスの訓練では児戯と笑って見せた。

 この行為には、ロイを除く全員が激怒したがロイだけは別の感情を抱いていた。


 『おかしい』『奇妙だ』『訳が分からない』と。

 彼女たちは父が病魔に蝕まれた末にマーキュリー家に嫁いでほしいと頼ってきた。

 しかし態度を見る限り有効な関係を築こうという姿勢は感じられない。

 どころかあえて険悪な空気にしようとしている節さえある。

 そのことがロイは気になっていた。


 だから罠を仕掛けた。


「そういうわけで、リリア。

お願いします」


「任されました兄様」


 訓練場で稽古義に身を包んだ二人は、一定の距離を取り、そして構えた。

 ロイは布を何重にも巻きつけて作った子供用の訓練剣、リリアはある程度までの出力しか出ないよう調整された訓練用の杖を構えている。

 そもそもリリアのような常識外れの魔術師であれば杖など必要ないが、訓練中は出力の調整のために持たされている。


「では……はじめ! 」


 近くで見守っていた兵士が音頭を取る。

 それに合わせてロイは強く踏み込み、そしてリリアは魔術を展開する。


 次の瞬間にはロイの眼前に数発の魔術が現れ、一つ一つがまるで生き物のようにロイに襲い掛かる。

 それらは一定の速度、一定のタイミングで射出されロイに襲い掛かるがそれを難なく躱してリリアの懐に飛び込む。

 そしてのど元に剣を突き付けた瞬間だった。


「引き分けですね」


 リリアはそう呟く。

 ロイの後頭部には石でできた槍が浮いていた。

 リリアの放った【ロックランス】だった。

 躱したはず、そう思っていたのを逆手に取ったリリアは一発だけ残していた。

 こんな小細工まで覚えてしまったのか、と妹の行く末に一抹の不安を覚えつつ剣を下しリリアの頭を撫でたロイの背後から声が響いた。


「けれど戦場での引き分けは共死に。

命はありませんでしょうに」


 かかった、ロイはそう思いながら声のした方に顔を向けた。

 それはやはりと言うべきか、レイナとリアナの双子だった。

 相も変わらずレイナは赤いドレスを、リアナは黒いドレスを身に纏っている。


「死んでしまっては何の意味もありません」


「そうですね。

だからそうならないための訓練を積んでいるのですよ」


 レイナの言葉にロイは端的に返す。

 それは正論だったのか、レイナは口を閉ざしてしまった。


「そこまでいうのであれば引き分けにならない戦い方を教えていただけませんか」


 かかった獲物に網を投げる。

 その言葉を聞いて双子の口の端が吊り上るのをロイは見逃さなかった。


「あらよろしいのですか」


「私共のような部外者が訓練場を使ってしまって」


 二人の声が弾むのがよくわかる。

 そのことに気付いてなおロイもリリアも顔色一つ変える事無く快諾した。

 そもそもこれは、この二人の本心を引き出すための罠だ。

 もしも暗殺者ならこれ幸いと事故に見せかけて殺すだろう。

 ただの頭が悪いだけのお嬢様ならここで逃げ出す。

 腕っぷしに自信があるなら負けた際にそれ相応の反応を見せるはず。


 もしそのどれでもないなら……その時は別の方法を探すだけだ。


「ではお好きな武器をどうぞ。

なんなら刃引きもいりませんよ」


「御冗談を、そんなものを使ってはすぐに終わってしまうではありませんか」


「ははは、それもそうですね」


 互いにいつでもお前を殺せるぞと暗に伝えながら、木製の訓練用武器を見つくろう。

 

(これはバトルジャンキーが正解かな)


 ロイは内心でこの双子はただいざこざを起こして、実践を楽しみたいだけではないかと考えていた。

 しかしそう思わせることが狙いだったら、と深読みをしてしまい、途中でもう何でもいいやと考えることを放棄した。


 そして、ロイは木剣を、リリアは先程と同じ杖を構える。

 対して双子は訓練着さえ着ていない。

 赤いドレスのレイナは長槍を手にしている。

 また黒いドレスのリアナは腰に一本の短剣を括り付け、両手には長剣を握っている。

 二人の立ち姿からは場馴れしたものを感じ取る事が出来、そして今までの中で最も楽しそうに笑みを浮かべていたことから、ロイは双子がただのバトルジャンキーだと確信した。


「それでははじめ! 」


 準備を終えた四人が所定の位置についたことを確認した兵士が、試合開始の合図をした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ