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平凡貴族の日常談  作者: ロイ
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魔術

「炎の精霊、我が手に集いて敵を撃つ。

素に風、素に風、素に風、敵を穿つは炎の槍。

【フレイムランス】」


 訓練場でロイが魔術を行使する。

 炎の中級魔術、【フレイムランス】。

 槍の形の炎を相手にぶつける技であり貫通力が高く前進を鎧で包んだ相手に有効な魔術とされる。

 ロイの放ったそれは的として用意された案山子を打ち抜き、対魔術加工の施された壁に当たり霧散する。


「【フレイムランス】」


 続いて詠唱を省略して魔術を行使する。

 先ほどの物と比べて多少威力は落ちているものの、十二分に実践んで使えるレベルの物だ。

 先程とは別の案山子に当てたそれは、貫通することはなかったがそれでも人間であれば致命的であろうダメージだ。


「……」


 最後に一切の詠唱をせずにイメージだけで魔術を発動させる。

 それは、詠唱を省略したものの半分程度の威力しかなく案山子には小さな焦げ跡を残しただけだ。

 鎧すら着ていない案山子にこの程度の威力では対人戦では県政程度にしかならないだろうことがうかがえる。


「まだ足りませんね……」


 そう言って、ロイは近くに積んでいた廃材を一つ手に取る。

 それには油がしみ込んでいた。


「せいっ」


 手に持った廃材を、大きく振りかぶって的の案山子に向かって投げつける。

 それと同時に炎の魔術を行使して、火をつけた。


 それは無言で発生させた【フレイムランス】と同じ程度の炎であり、さほど参考になった様子はなく顎に手を当て考える。

 どうすればより強い威力を出せるか。

 どうすればより強いイメージができるか。

 どうすれば、より早く打てるか。

 ロイの頭の中はどうすれば、という事ばかりが浮かんでいた。


「威力だけを見ると失敗だな」


 うなりながら頭を抱えていたロイの背後で、いつの間にかアレンが立っていた。

 その表情は、苦々しい物だった。


「あれならば撃つだけ無駄だ」


「ですよね」


「……油は残っているか」


「ここに」


 少し考えた後、アレンはロイから油を受け取った。

 そして訓練場の隅に転がっていた訓練用の槍の先端に油を塗り、簡単な魔術で火をつけた。

 そのまま燃え盛る槍を案山子に突き立てる。

 それは火力こそ低いものの、貫通力という点ではアレンの実力も合わさってすさまじいものとなっていた。

 そして、案山子に突き刺さった槍をそのままに、炎が広がらないうちに水をかけて消化した。


「……手は大丈夫ですか? 」


 直接炎をつかんだわけではない、更に言えば訓練用の槍は木製のため熱が伝道することもそうそうない。

 けれど、間近で燃え盛る炎が熱くないわけがない。


「問題ない」


「ありがとうございます兄さん」


「いつもの礼だ」


 そっけない態度を見せるが、それがアレンの照れ隠しであることはロイには見抜かれていた。

 けれどもロイも深く追及することをせずにアレンの背中を見送った。


「さて、火力が弱くても貫通力があり、そして体内から焼く……【フレイムランス】の互換になるわけだ」


 今しがたアレンが物理的にやって見せた攻撃を頭の中で思い返す。

 それは炎の魔術だけでは実現不可能だといえる。

 なぜなら炎の魔術には実態がない。

 故に貫通力を上げるという事と火力を上げるという事は同義である。

 

 つまるところ火力を上げて、当たる前に相手の肉体にダメージを与えることが炎の魔術の極意であり基本である。

 対してアレンがやって見せたことは貫通力に重きを置いている。

 その際に火力はおまけ程度の扱いでしかない。


「けれど……」


 それはロイにとって新しい道を見出させることとなった。

 すべてを高めることはできない、ならば一点特化でいい。

 器用貧乏と揶揄されたロイにとってそれは全く新しい観点だった。


「土系魔術の【ロックランス】、炎系魔術の【フレア】、風系魔術の【ブロウ】これらの複合を……」


 複数の魔術の同時展開、それはイメージのみで魔術を放つこと以上に難易度が高い。

 早い話が、右手で食材を刻み左手で炒め物をするかのごとく複数のことを同時にこなさなければいけない。

 しかしロイは筋トレを行いながら学術書を読み漁るなど、並列して何かをこなす事には慣れていた。


「複合魔法【フレアランス】……って所かな」


 宙に浮いたそれは、ロイの右腕程度の長さの石の塊が浮いている。

 それは炎をまとっている、というよりは火中の炭のように赤黒く燃えている。


「射出! 」


 それを打ち出して、ロイは気付いた。

 力を籠めすぎたと。


 打ち出された【フレアランス】は、まっすぐ突き進み的の案山子を貫き、それでも速度を衰えさせる事無く、背後の壁にぶつかる。

 先ほどの【フレイムランス】と同様に霧散すると思われたそれは、数秒の拮抗の後に崩れ去った。

 壁には魔術がぶつかった跡というよりは槍を突き立てたような跡が残っている。


「……しまった、また父さんに怒られる」


 うっかり、とはいえ訓練場に傷をつけてしまったことは褒められたことではない。

 そもそも対魔術加工が施された壁を傷つける事など通常ありえない事態なのだが、リリアという規格外がいるためロイ程度の傷ではよく有る事と片づけられている。

 その為、ロイが怒られることはほとんどないのだが、それでも義務的に叱られることもある。


「けど成功みたいですね」


 傷ついた壁を見た後に傷ついた案山子に目をやる。

 その案山子は腹部に焦げた穴が開いている。

 それは詠唱をして放った【フレイムランス】よりも小さいものの、威力という観点では【フレアランス】の方が優れているといえる。

 この魔術は後の世で、複合魔術の基礎として名を広めることになるが、ロイが知る余地はない。

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