少年少女の邂逅録
「…………僕は一体、何なんだろうな………。」
雨が降りしきる中、少年は血だまりの場所でそう言った。
「貴方は何でも無いわ」
ふと、声の聞こえた方を向くと金髪の少女がいた。
…………否、少女と言える様な雰囲気では無い。
まるで何か途轍もない存在を前にした様な感覚が少年を襲った。
―――少年はちいさな声で少女に聞いた。
「……君は、誰?」
少女は、「ふふっ、貴方には誰に見える?」と笑って聞いた。
「僕達は何だか似てるね」
「当たり前よ。私は貴方の鏡なんだから」そう少女は答えた。
「僕の、鏡?」
「そう、君の鏡」
二人はしばらく見つめあった。
「君は怖く無いの?僕の事。」
「どうして?貴方が血だまりの中に立っているから?」
「・・・・・・。」
少年は黙って頷いた後俯いた。
「私は怖く無いわ。だってそれが貴方の心でしょ?」
「心?」
少女が何を言っているのか少年は理解出来ていなかった。
「私はね。人間で言う神様見たいな存在なんだ。」少女は語りだした。
「神、様?」
「そう、神様。私は何時からそうなったのか分から無いけどそう成ってた。
私は色んな人の心を見てきた。優しい人や、歪んだ人も、人から外れた人も居た。
君みたいにね?でも私はそんな人達の事を理解出来ずに、人間の心の何がそうさせるかがわからなかった。」
「どうして?」少年は少女に問た。
「さぁ?私にもわからないわ。でもね、私は空っぽなの。
その私の空の心が駄目だったんだよ、きっと。」
少女はいつの間にか少年の隣に来て心臓のある場所に指を指し、こう言った。
「君の心も空なんだよ?気づいてた?」
「え?……………ううん。僕は知ってた。誤魔化してた。僕の心はいつも空っぽで真っ黒で、真っ黒で心に色が欲しくていつも赤を、紅を求めていた。 ………まあ、それでも僕の心はいつも空っぽだったけどね。」
そう言って、少年は少女に向かって自称気味に笑った。
「なんだ。分かってたんだ。まあ、私は逆だけどね。
私の心は輝いてた、自分で嫌悪する程に真っ白に。だから私は汚した。
心が鈍色に輝くまで、黒く色に染まる為。私達は似て非なる存在なの。」
ーまあ、戯言だけどねー
二人はそういい笑い合った。
「うん。話して良く分かった。僕達はとても似てるよ。僕の話聞いてくれる?」
「ええ、いいわよ」
「世界ってさ、結局嘘とまやかし、虚言と偽りで出来てるんだよ。
僕らだって会う筈が無いのに関わらずこうやって合っているんだ」
「ふふっ、そうね。だからこそ私達はこうやって合っているんだけどね。」
「「まあ、結局は全部戯言なんだよ」」
まるでザーザーと降る雨も覆う様に二人は笑った。
「「それじゃあ、また今度。気がついた時に」」
そう言い二人は反対方向に向かって歩いて行く。
ザーザーと降りしきる雨が止む頃には二人がいた
赤い
朱い
紅い
緋い血は消えていて、二人の足跡も無くなっていた。
まるで世界が二人の会った事を覆い隠す様に………。
…二人は似て非なる合わせ鏡の存在で、絶対に会う事は無い二人。
それでも世界は案外適当だ、またいつか自分達の存在に気づいた時に会うだろう。
これは、そんな二人の始まりと終わりの邂逅だった。