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精霊剣の一閃  作者: ウィク
第一章 聖女(リン・イチノセ)
19/52

18話 魔力開放

かなり長くなったので、一旦ここで切ります。

続きは明日出す予定です。


誤字や表現のおかしな部分等ありましたら、ご指摘お願いします。

「聖女様、そろそろ複数出してみましょう。」


 ファルコ先生はややため息交じりでリンに提案する。


「……いいんですか?」


 リンはやや疑わしげにファルコ先生に聞き返す。

 昨日はどら焼きを食べて少し元気になっていたが、それでも魔法の授業になればテンションは下がっていた。


「ええ。いつまでも一人で練習されては、授業のペースが悪くなってしまいますからね。」

「……すみません」


 遠まわしに『お前のせいで授業が遅れている』と言われていると思うのは、気のせいではないだろう。

 ファルコ先生の言葉に、周りの二年生達もリンを見てヒソヒソと話し出す。


「聖女様と言っても、こんなもんか」

「もしかしたら私でもなれるかも?」

「授業が遅れるのはやだねぇ」


 普通に聞こえてる。もはや彼ら、隠すつもりは全く無いんだろう。遠慮の無い視線と言葉に、リンはさらに居心地悪そうにする。

 ちらりと見たファルコ先生の表情は、いかにも『全く仕方ないですね……』と言う顔をしている。が、よく見れば右口角が少し上がっていた。


「とりあえず、皆さんの邪魔にならないよう練習をしていてください。後で結果を見ますから」

「はい……わかりました」

「それではみなさん、出したファイアボールを実際に撃ってみましょう!」

「おー!!」


 その場にリンを残し、他のみんなは一斉に練習へと向かっていった。

 リンは今日もまた、隅っこの方で練習を始める。


「まずはイメージから……」


 そう言うと、リンはいつも通り祈るようなポーズとって目を閉じる。まずは自分の周りに炎を二つイメージ……。

 イメージが固まったらゆっくり目をあけ、水晶へ魔力を流す。それも魔力を薄く、ほんの少しだけ……それでいて圧縮するようなイメージも付加する。


「む…難しい……」


 繊細な魔力コントロールをしつつそれを高密度化、それを複数やるとなると相当な集中力と精神力が必要だった。


 ――――ボッ!


 ……出たのは一つだけだった。

 リンは一度火玉を消し、もう一度イメージからやり直す。


 ――――ボッ!


 またしても出たのは一つだけ。

 実際、小さい火玉を出すだけでもかなり集中する必要がある。これを二つにするのはかなり難しかった。

 桶から小瓶一本に水を注ぐのも難しいのに、注ぐのが二本になるのだ。難易度は当然上がる。


 リンはため息を吐き、周りの様子を伺ってみる。

 すると二年生達の何人かが、こちらを見て笑っていた。


「ぷっ……。見ろよおい、一個しか出てないぞ」

「えー? あれはまだ、圧縮の練習しているんじゃないの?」

「さっきファルコ先生が、複数出す練習しろって言ってただろ」

「まさか、練習してて一個だけなの?……ぷっ」

「あははは、あれ才能ないんじゃない?」

「皆さん余所見はいけませんよ? 自分の練習に集中してください。リンさんも、圧縮の練習はもういいので複数出す練習をしてください。授業が進みません」


 ……みんな好き勝手言っている。ファルコ先生も表情はまじめだが、とても楽しそうに感じるのは気のせいではないだろう。

 リンは再度ため息を吐く。

 何かいい方法は無いだろうか……と。


「そうだ……。呪文を使えば出来るかも……」


 呪文はイメージをより具体化する為のものだ。足りないイメージを呪文で補えば出来るかもしれない。そう考えたリンは、早速実行してみる。

(そうだ……呪文どうしよ? とりあえず魔法名だけでやってみよう)

 今更ながら、呪文を言うのが恥ずかしかった。元々詠唱するような習慣は無かったし、そもそも呪文自体教えてもらっていない。……先生のは聞こえていたけど。

 とりあえず、水晶を構えて魔法名を言ってみる。もちろん魔力は薄く少量、さらに圧縮を意識しながら。


「ファイアボール!」


 ――――ボッ!


 すると、元々出ていたファイアボールの隣にもう一つの火玉が現れる。

 とりあえず火玉が二つになった事に、リンはホッとする。


「ようやく二つ出せましたか」

「ひゃあ!?」


 突然の声掛けに驚き、リンは思わず声を上げて振り向く。するといつの間に近寄ったのか、ファルコ先生が後ろに立っていた。


「ですが、まだまだ練習が必要ですね。まあ精々頑張ってください。ほら、みなさん! 聖女様がやっと二つ出せましたよ! 皆さんも負けないように頑張ってください。」

「……」


 ファルコ先生はわざと大きな声を出し、リンの成果を発表する。その言葉を聞いた生徒達は一斉に笑い出していた。

 その様子に満足したファルコ先生は、他の生徒達の所へ戻っていく。

 二年生達の様子を見ると大体つ出す事が出来ており、中には四つ出している生徒もいた。

 リンは何も言えず、こぶしを握り締めながら地面を見る事しかできない。

 気を取り直してもう一度練習しようと顔を上げた瞬間。


 ――――バンッ!


「これは一体どう言う事ですか! ファルコ・ゲルスター先生!!」


 強く開かれた扉が激しい音を立て、尻尾のように緑色の長い髪を靡かせた男が入ってきた。

 その姿を見たファルコ先生は、酷く狼狽した表情を見せる。


「り、理事長……」


 理事長? そう言えばあの姿見た事がある。きっちりとスーツを着こなした端正な顔つき。そう言えば入学式で挨拶していた。名前は確かセルギオス……だったかな?

 リンは突然の訪問に唖然としていたが、理事長の後ろについて歩いてきた人物を見てさらに驚く。


「エド……さん?」


 エドさんは目が合うと、いつもの微笑みを浮かべたまま静かに手を振ってくれた。


「えっと……理事長、ただいま授業中でして……」

「話を逸らすな! 何故この授業にイチノセ君がいるのだ!」


 理事長は見るからに怒っていて、鋭い目つきでファルコ先生を睨みつけている。

 ファルコ先生は目を合わせる事が出来ず、言い訳しようと考えているのか視線が泳いでいた。


「何故二年生の授業に、イチノセ君がいるのか説明したまえ!」

「それは……その、聖女様は大変才能溢れる方だとお聞きし……その才能を伸ばす手伝いをと……」


 強い口調で追求する理事長に、ファルコ先生は震えた声が段々と小さくなっていく。

 まあ、怖いよね普通に。

 直接追求されていないリンでさえ、思わず萎縮してしまうほどなのだ。二年生達ですら、居心地悪そうに下を向いていた。


「才能を伸ばす手伝い……だと? それは誰の許可を得て行ったのだ? そもそも、イチノセ君からお願いされたのか!?」

「それは……私の独断でですが…。聖女様も進んで授業に参加されています……」

「ふざけるな! 出張でいなかったから何も知らないと思っているのか? 授業のたびにイチノセ君を迎えに来ていると聞いているぞ。自主的に授業へ参加するなら、こんな事をする必要は無かったはずだ。」

「えっと……二年生の教室へは、一人で行きにくいかと配慮をして……」

「ストレスにさらされると理解した上で、イチノセ君を授業に参加させていたと言うのか!」

「えと……」


 追及の手を緩めない理事長の言葉に、ファルコ先生は言い訳が続かなくなってきた。

 そんな怖い顔の理事長の後ろで、エドさんだけは微笑を浮かべたままこちらに向かって手を振り続けている。

 ……マイペース過ぎるでしょ。


「それと、何故イチノセ君だけ端っこで練習させていたんだ?」

「それは…魔法の課題が上手くできず、個別で練習してもらっていたのです……」

「どこが出来てないと言うのだ?」

「……え?」


 そう言うと理事長は、今度は視線をリンへと向けてくる。リンは思わずびくりとしてしまうが、それを見た理事長は先ほどとは打って変わって柔らかい笑顔を向ける。

 そのままリンへと近づき、腰を落として目線を合わせた。


「イチノセ君、すまない。私の配慮が足りないばかりに、君に迷惑をかけてしまった」

「いえ! 大丈夫です!」


 突然謝罪してきた理事長に、思わずリンは緊張して答える。


「それで申し訳ないのだが、君のファイアボールを見せてもらえないだろうか?」

「ボクの……ですか?」

「ああ、是非頼む」

「あまり……上手じゃないですが。」

「大丈夫。あくまで練習中なんだから、失敗しても気にする事はない」


 さっきまで大声で追及していたのに、今はとても優しく話しかけてくれた。理事長のお願いにリンは頷き、少し離れる。

 理事長とエドさんは微笑みながらこちらを見ている。ファルコ先生と二年生達は訝しげに見ていた。


 リンは構え、イメージする。魔力を薄く少なく……圧縮された火玉二つ。

 目を開け、水晶に魔力を流し込む。


 ――――ボッ!


 ……火玉が一個でた。

 横目で周りの様子を見ると、ファルコ先生はどこかホッとしたような顔をしていた。

 リンはイメージをそのまま保ち、魔法名を口にする。


「ファイアボール!」


 ――――ボッ!


 すると先ほどの火玉と並び、もう一つ現れた。大きさはどれも40センチほどだったが……。

 リンは思わずため息を吐く。

 顔を上げると二年生やファルコ先生はまた、見下すような視線を向けていた。


「まあ、こんな感じなのですよ」


 急に微笑みだしたファルコ先生は、理事長に向かって話しかける。

 理事長とエドさんは、唖然とした顔をリンに向けていた。

 ……落胆させてしまっただろうか。

 リンは思わず肩を落とす。


「す……素晴らしい! これほどの魔法が出せるとは!」

「さすがリンさんですね。私もビックリしてしまいました」


 突然、何故か理事長とエドさんはリンを褒め出す。

 その様子を見ていた二年生達は。


「聖女様だからって贔屓するのか……」

「あれくらいで驚くか?普通……」


 またヒソヒソとリンを侮辱していた。ファルコ先生もガッカリと言う表情を向けている。

 その話し声が聞こえた理事長は立ち上がり、鋭い眼光で二年生達を睨みつけた。


「この中で、イチノセ君と同じ事が出来る者はいるのか?」


 理事長の発言に、生徒達は一斉にしんとなる。しかし、どの顔も『出来るに決まってるだろ』と言う顔をしていた。

 静まり返る生徒達を代表し、ファルコ先生が前に出てくる。


「理事長、お言葉ですがこの子達はみんな火玉を三つは出せています。優秀な子達が揃っていて、中には四つ出せる子も……」

「なるほど、君は無能と言う事だな」

「なっ……!?」


 ニヤニヤしながら話していたファルコ先生を、理事長が冷たく切り捨てる。

 あまりの言葉に、ファルコ先生も思わず絶句してしまった。しかし、すぐに我に返って反論し始める。


「理事長……。この大きさを見てください、圧縮すら出来ていません」


 リンの出した火玉を指差し、ファルコ先生はさらに批判する。それに合わせて二年生達も一斉に頷く。

 その様子に理事長はため息を吐き、教室内にある的を指差した。


「イチノセ君、あの的に向かって撃ってくれないか?」

「いいんですか? でも、圧縮できていないとスピードも威力も出ないって……」

「大丈夫だ。……もしかして、一度も撃っていないのか?」

「……はい」


 ボクの言葉に理事長はじろりとファルコ先生を睨みつける。

 そしてもう一度ボクに撃つよう指示してきた。リンは頷くと、的に向かって左手を向ける。

 教室の奥に置かれた的は土魔法で作られた物らしいく、ファイアボールのように圧縮された土壁が五枚重ねられていた。厚さは1メートル近くあり、魔法の的にされてたせいで所々焦げてはいたが……しっかりと形を保っている。かなり頑丈なようだ。


「……撃ちます」


 言葉と共に、ファイアボールが的へ向かって飛ぶイメージをする。圧縮されていないと速度が出ないと言っていたので、可能な限り早いイメージをした。


「行け!」

 ドバアアアアアン!!


「え……?」


 リンが言葉を発した瞬間、土壁は激しい爆音と共に吹き飛んだ。……かろうじて床から10センチほど残っているが、もう的とは言えない。

 あまりの威力に、みんな口を開けたまま固まっている。撃った本人も含めて。


「お……おい」

「ああ……」

「見えたか……? 今の」

「いや……」

「圧縮して無いとスピードも威力もでないって……」


 ファイアボールは飛んでいく姿が全く見えず、突然轟音がした場所を見た時にはもう的が存在していなかった。

 かろうじて見えた者でも、僅かに赤い線のような光が一瞬見えただけ。

 我に返った二年生達は一斉にざわつく。その声にファルコ先生や理事長、エドさんもようやく動き出す。


「す、素晴らしい! 正直これほどとは!!」

「さすがリンさんです。いつも私の予想を越えますね」

「ば、バカな……」


 二人は驚き顔ではあるが、手を叩いてリンを褒める。ファルコ先生はまだ信じられないと言う顔をしていた。


「さて、改めて聞こう。イチノセ君と同じ事が出来る者はいるか?」

「……」


 理事長の言葉に、誰一人目線を合わせず口を閉じた。

 その様子に頷いた理事長は、ファルコ先生へと向き直る。


「さて、ファルコ・ゲルスター先生。今のを見て、何か気づいた事はあるか?」

「まさか……あの大きさで圧縮できていた…と言う事ですか?」

「そうだ」


 ファルコ先生は信じられないと言う顔をしたまま、リンを見る。


「それと、イチノセ君は無詠唱でファイアボールを出していたね?」

「はい」

「その後、ファイアボールを唱えていなかったかね?」

「はい……。一回で一個しか出なかったので、詠唱してもう一つ追加しました……」

「なっ……!?」


 リンの言葉を聞いたファルコ先生はさらに驚く。


「つまり、ファイアボールで火玉を二つ出したのではない。ファイアボールを二回出したのだ。」

「馬鹿な! そんな事出来る者など聞いた事がない!」

「多重詠唱……だな」


 理事長の言葉に、ファルコ先生は目に見えて狼狽していく。

 リンは魔法の基礎も習っていない状態の為、何に驚いているのか分かっていなかった。

 首を傾げているリンに、エドが近づいて一つの提案をする。


「リンさん。注ぐ魔力量を無理に少なくせず、出して見てもらえませんか?」

「……はい?」


 突然の申し出に、リンは意味が分からなかったが従う事にした。

 リンは今まで以上にみんなから距離を取り、水晶を構える。

 目を閉じてイメージする……自分の頭上に一つの火玉を。

 目を開け、魔力を適当にちょろっと注ぐ。今までは溢さないように一滴ずつ流すイメージだったが、今度は適当にざぱっと水を注ぐ。


 ――――ゴオオオオ!!!


 現れたのは150センチにも及ぶ巨大な炎。

 あまりにも大きく、圧倒的な存在感に誰もが口を半開きにしたまま引きつった顔を見せる。

 唯一、笑顔を崩さずにいたエドは暢気に話し出す。


「五年前よりもさらに大きくなっていますね? それに、体の方もちゃんと耐えられているようです」

「ホントですか!? じゃあこれからは無理に魔力を抑えなくても?」

「ええ、大丈夫ですよ。」

「やった! あれは凄く疲れるので助かります!」

「ただ……使う場所は気をつけてくださいね?」

「はい!」


 今までは体が魔法の反動に耐えられないから、無理やり抑えてきた。しかしこの必要が無くなった今、魔法を使う際過度に加減をすると言うストレスから開放されたのだ。

 嬉しそうに万歳するその姿に、エドは一人微笑んで見ていた。……他の人たちはまだショック中だったから。


「あ、圧縮するの忘れてた」

「これを40センチ近くまで小さく圧縮していましたよね? 信じられない程の集中りょ」

「縮んで」


 リンが一言呟くと、大きかった火の玉が一気に圧縮されて50センチ程になる。


「はっ……?」


 その様子に、みんなさらに口を大きく開けて固まった。


「ど、どうしました?」

「リンさん……。普通は一度出したファイアボールって、撃つか消すかしか出来ませんよ?」

「へ?」

「出したファイアボールを保持し続けるだけでも、結構魔力が減るはずなんですが……それをさらに操作するとなるとちょっと……」


 その言葉にリンは驚く。五年前は水玉を少しだけ動かした事もあったのだ。確かに魔力の減りが早くなったけど、それほどとは思わなかった。

 ちなみに、何で今まで出した火玉を縮めなかったかと言うと、精一杯圧縮した状態で出して40センチだったのだ。これ以上は無理だったから、元の火玉の大きさをさらに減らす為にやり直していたのだ。


「あ、そうだ」


 一度出した魔法を操作できるなら、好きに変化させる事も出来るかも……?

 思いついたリンは、水晶を構えてさらにイメージと魔力を伝える。

 すると、大きかった火玉が二つに割れ…割れた二つがさらに二つに割れ……それがまた二つに割れて……最終的に8つの火玉になった。


「やったー! 大きさも先輩達と同じ位になりました!」


 八つの火玉はそれぞれ20センチくらいになり、大きさだけは二年生達と同じになった。……数は倍以上あるけど。

 一度出したファイアボールを割って複数の火玉を生み出す……あまりの出来事にもはや誰もリアクションを取る事ができなかった。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


ようやく主人公が、思うとおりに魔法の力を使えるようになってきました。

次回も魔法回になりますので、よろしくお願いします。


あ、精霊はもうちょっと待ってください……もうしばらく先です。

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