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精霊剣の一閃  作者: ウィク
第一章 聖女(リン・イチノセ)
15/52

14話 初めての授業

今回は主人公以外の視点も書かれています。


誤字や表現のおかしな部分等ありましたら、ご連絡をお願いします。

 朝、リンは鏡の前で笑っていた。

 いや、正確に言えば笑う練習をしていた。


「……ニコッ」


 何でこんな事をしているかと言えば、今日から本格的に授業が始まるから……友達を作る為だ。

 昨日は一人だけ話しかけてくれたが、今日は自分から話しかけてみるつもりなのだ。しかし、人に話しかけるのが得意ではないリンは、不安を少しでも解消しようと、せめて笑顔の練習をと鏡に向かっている。


「……ニコッ?」

「……ちゃんと可愛いから大丈夫だそ?」

「ひゃあ!? パパ! 何時かららそこに!?」


 声に驚き振り向くと、ドアの陰からレヴィンが現れる。


「3分くらい前だな。さすがにそろそろ飯にしようぜ?」

「あーい……」


 本当はアルもマリナも、鏡に向かっているリンを見かけていたのだが、何か必死な様子だったのでそっと離れていた。この事は言わない方がいいなと、内心苦笑いするレヴィン。

 二人でダイニングルームへ行くと、もうご飯の用意が出来ていた。


「リンちゃん、おはよー!」

「お姉ちゃんおはよう」

「おはよー!」

「さあ、ちゃんと食べて頑張ってね〜?」

「はーい」



――――――30分後



「それじゃ、行ってきます!」

「気をつけてねー!」


 家族に見送られ、リンは家を出る。家の門にはいつも通り、カリーナさんが待っていた。


「おはようございます、リン様」

「カリーナさん、おはよう! 今日もよろしくお願いします」


 二人は一緒に学校へと向かう。

 学校は朝の8時半から始まる。授業時間は4時間程で、午前中で終わるようになっている。これは家の仕事を手伝っている子が多く、あまり長い時間をかけられない為だ。


 ちなみに、この世界は時計がある。動力はもちろん属性石だ。少しお金がかかるが、大体どの家庭も一つは置いてある。

 他に時間を知る手段として、教会の鐘がある。7時、12時、17時になると鐘で時間を知らせてくれる。

 また学校にも鐘があり、授業の終始を知らせてくれる。


 二人が学校へ到着すると、ちょうど10分前を知らせる予鈴が鳴り響く。ここまでくれば遅刻の心配はない。リンは慌てる事なく、校舎に入っていく。

 教室へと近づくにつれ、胸がドキドキしてくるのがわかる。正直言って緊張している。

 扉の前で、リンはゆっくりと深呼吸をする。


「……よし」


 一人気合を入れ、思い切ってドアを開ける。


「お、おはよう!」


 リンは教室へ入ると同時に、笑顔で大きく挨拶をする。

 教室の中にはもう8割ほど生徒が揃っていたが、みんなリンを見て固まっていた。思わずリンも固まる。


 しんと静まり返る教室。


 まるで時間が止まったかのように長く感じる。心臓の鼓動だけがやたら早い……リンは沈黙に耐え切れず、一度教室から出ようと振り向く。すると突然後ろから大きな声が聞こえた。


「おはよう!」


 驚いてもう一度振り向くと、茶色い髪をした男の子が前に出て挨拶を返してくれた。

 それにつられた様に、周りにいたクラスメイト達も一斉に挨拶してくれる。


「おはようございます!」

「リンちゃん、おはよう!」

「ちょっとあんた、馴れ馴れし過ぎ!」

「いいじゃん、クラスメイトなんだし」

「じゃあじゃあ、私も! リンちゃん、おはよう!」


 みんなが挨拶を返してくれた、そう気づいた瞬間自然と笑みがこぼれる。

(良かった、ちゃんと挨拶返してくれた。)

 リンは嬉しそうに自分の席へと座る。するとクラスメイト達も一斉に集まって来た。


「ねね? リンちゃんって呼んでいい?」

「あ、私も私も!」

「うん!」

「ちょっ……ずりぃ! 俺も呼んでいい?」

「みんなもボクの事、名前で呼んでくれると嬉しい!」

「やったー!」

「できれば、聖女様なんて絶対言わないでね?」

「アハハハハ!」

「おう!」

「りょうかーい!」


 その後は、みんなで趣味や美味しいお店の話等で盛り上がった。




「みなさん、おはようございます」

「ロレーナ先生、おはようございます」


 話に夢中になっている間に先生が来ていた。いつの間にか始業のベルが鳴っていたようだ。

 リンの周りに集まっていたクラスメイトも、一斉に自分の席へと戻っていく。みんな席に着いたことを確認したロレーナ先生は、出席を取っていく。次にお知らせや授業時間の説明をしてくれた。

 授業時間の割り振りだが、出席点呼のホームルームが10分、休憩も10分、授業は60分となっている。つまり

 ホームルーム → 休憩 → 1時間目 → 休憩 → 2時間目 → 休憩 → 3時間目 → 休憩 → ホームルーム で合わせて4時間になっている。


 ホームルームが終わり、休憩を挟んで授業が始まった。


 1時間目。

 算数の授業は数字の計算ではなく、数字の書き方練習から始まった。数字も日本で使われていた物と全く同じだった為、今のリンにとっては暇以外の何物でもなかった。一応、他のみんなとペースを合わせてひたすら書く練習をしていった。


 2時間目

 国語の授業。当然ひらがなの書き取り練習。こちらも日本の文字と全く一緒だった。簡単ではあったが、ひたすら文字を書くのはなかなか大変だった。


 3時間目

 実技の授業。この授業はリンがもっとも楽しみにしていたものだ。何せ5年間封印していた魔法の練習を再開できる。

 この授業は全クラス合同で行われており、それぞれ自分に合った授業へと移動する事になる。

 ちなみに一学年は全5クラスあり、それぞれ1クラスにつき30名程いる。5クラス合わせれば150名くらいだろう。この内、魔法を仕えるのは大体50名ほどしかいないらしい。魔法を使えない人は剣の授業へ、魔法を使える人はそれぞれの属性魔法の教室へと移動する事になる。


 先生が集合教室を生徒に伝えると、みんな一斉に移動を始めようとする。すると教室の扉が急に開き、20半ばほどの赤毛の男が入ってきた。


「ロレーナ・アスコート先生、こちらに聖女様がいると聞いて来たんだが?」

「ファルコ・ゲルスター先生。確かにリンさんはこちらにいますが、何の御用でしょうか?」


 今入ってきた先生はファルコと言う名前らしい。同じ教師なのに何でわざわざフルネームで呼ぶのだろうか。

 ファルコと呼ばれた先生は妙に威圧感のある人だった。丁寧なのにそれが妙に癇に障る言い方だ。いつもニコニコしているロレーナ先生も、どこか嫌そうな顔で対応している。


「その聖女様に、私の授業へ参加してもらおうと思っているのです」

「……彼女は今日初めて魔法の授業を受けるのですが?」

「ふん、聞いた話では大魔法まで使うような天才だと聞いている。初級の授業ではつまらないと思いましてね、それなりの才能がある者にはそれなりの場を提供しようと言う話ですよ」

「しかし……彼女は今まで魔法の使用を禁止されていた身です。いきなり魔法を使う事などできないと思いますが?」

「教会ではかなりの魔法を使ったらしいじゃないですか、伸ばせる才能は最大限伸ばすのが教師としての役目だと思いますが?」


 何故かリンの授業に関して揉めているようだ。リンとしては、せっかく授業受けるなら知っている人と一緒に受けたいと思っていた。……正直、この赤毛の先生は何となく苦手な感じがする。


「まあとりあえず、今日一日だけでもこちらを受けさせてみてください。私が見てみますから」

「そうは言っても、そちらは2年生の授業ではないですか? いきなり1年生の彼女を入れるなんて、不安にさせるだけだと思いますが?」

「それは私にお任せください。ちゃんとフォローしますよ。それに2年生達にとっては後輩です、優しく接してくれるでしょう。それとも生徒達を信じられませんか?」

「……」


 ロレーナ先生がちょっとキレそうになっていて怖い。

 普段優しく笑っているのに、この時ばかりは怒っていた。しかし、さらに反論しようとした所で授業開始の鐘が鳴り響く。


「ほら、移動時間が終わってしまったじゃないですか。とりあえず今日一日見て、その後本人に決めさせればいいでしょう。さあ聖女様、こちらへ来てください」

「あっ……」


 ファルコ先生は強引にリンの腕を掴み、教室の外へと引っ張っていく。

 ロレーナ先生は止めようとしたが、待っている生徒がいた為仕方なく自分の担当教室へと移動した。





 ――――――――――カリーナ・コレット視点


 今日からリン様の学校生活が始まる。自分以外の護衛はもちろんいるが、実際に学校内で護衛するのはカリーナだけだった。

 あまり過剰に護衛がついていると、リン様の学校生活を阻害する可能性がある為だ。これは我々に護衛を命じたえどわ……エド様から伝えられた事だった。


 私が学校内で護衛に選ばれた理由は、女だからだろう。もちろん剣の腕も買われているが、筋肉ムキムキで強面のおじさんが護衛では、リン様にとっては邪魔な存在になってしまう。……友達ができなくなる。もちろん私も邪魔をしないよう、極力存在感を薄くして行動する。


 授業が始まった。私は教室のすぐ横で待機している。可能な限り教室内の気配を探りながら……不穏な空気を感じたら飛び出せるように。

 二時間目までは特に問題なく終わった。リン様もクラスメイトと仲良くなれたようで、楽しそうに過ごされている。その様子を見ていると、いつの間にか口元が緩んでしまったが慌てて引き締める。

 そして休憩時間。赤毛の教師が教室へと入っていった。パッと見ただけだが、あまりいい感じはしない男だった。


 教室の様子を探っていると、どうやらリン様を2年生の授業に参加させるつもりらしい。

 私は止めようか迷ったが、学校生活についてあまり口出しする事はできない。一応何かあったらすぐ飛び出せるよう、しっかりと付いていく事にしよう。


 しばらく待っていると、教室を出てきた教師とリン様を見て驚いた。リン様は腕を引っ張られるように教室から連れ出されていった。

 どうしようか、こいつ斬っていいのか?

 一瞬殺意を覚えるが、何とかとどまる。とりあえずは様子を見るとしよう。もしリン様に何か危害を加える様子があるなら、即座に首を撥ねるとしよう。


 そんな恐ろしい感情を隠しつつ、赤毛の教師を睨みつけながら後をついていく。


(とりあえずその手を離せ、殺すぞ)



 ……隠せてない。





 ――――――――――ファルコ・ゲルスター視点


 私は一流の魔法使いだ。別に大げさに言っている訳ではない。冒険者としても中級者以上、むしろ上級者と言っていい実力があるはずだ。ただ単に、冒険者ランクを上げるのが面倒だったからあげていないだけなのだ。


 王国魔法騎士団に推薦を受けた事だってある。しかしどう言う訳か、実力の無い二流が受かって私が落とされると言う信じられない選考があった。選考担当員は目が曇っているとしか思えない。まあ二流程度で受かる魔法騎士団など大した事はない。私は優秀なのだから、欲しがっている所など数え切れないほどある。


 そんな中、私に教師にならないかと言う誘いが来た。優秀なあなたのお力で、生徒達を導いて欲しいと。そこまで言うならやってやろうじゃないか、私の指導があれば、生徒達は王国魔法騎士団にすら引けを取らない存在になるだろう。


 そして教師になって1年経った。今日からまた新入生が来る。

 しかも、今年はあの聖女様まで入学したと聞いている。

 噂では教会で大魔法を使い、人々から聖女様と崇められているらしい。

 全属性魔力を持ち、あっと言う間にたくさんの人を癒す奇跡の聖女様。


 正直気に入らん。

 私は元々才能に溢れてはいたが、それなりに努力をしてきたのだ。

 初めて使った魔法が大魔法だと?

 そんな事あるわけが無い。

 どうせ、教会が信仰心を持たせる為についた大嘘だ。

 化けの皮を剥いでやろう。



 さっそく、魔法授業のある3時間目になると聖女のいる教室へと向かう。

 担任とは少し口論になったが、とりあえず連れ出す事は成功した。

 あとは実際に魔法を使わせてみれば分かる。


 ファルコはニヤニヤ笑いながら、リンの手を引きながら教室へと向かっていくのだった。


「……むっ? 何か寒気が……」


突然の寒気に、ファルコは身震いをする。

何か殺気のようなものを感じたのだが、気のせいだったか?



いつもお読み頂き、ありがとうございます。

少しずつですが、ブックマーク登録者が増えていて嬉しく思います。


精霊についての話は、まだ少し後になる予定です。

そしてしばらくは魔法についての話が続くと思いますので、よろしくお願いします。

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