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精霊剣の一閃  作者: ウィク
第一章 聖女(リン・イチノセ)
14/52

13話 入学式

ギリギリ間に合いました。


誤字や表現のおかしな部分等ありましたら、ご連絡をお願いします。

「ん〜……」


 カーテンの隙間から溢れる太陽の光を顔に浴び、リンは目を覚ます。正直まだ眠い。なぜなら、昨日は興奮してなかなか寝付けなかったからだ。いつもならマリナが起こしに来るまで二度寝するのだが、今日はそんな余裕はない。

 なぜなら、今日から学校が始まるからだ。

 温かな布団が少し名残惜しいが、思い切って布団を取っ払う。そのまま体を一気に起こし、気合を入れつつ無理やり体を覚醒させる。立ち上がった勢いそのままに、部屋を出る。一度洗面台へ移動し、顔を洗って寝癖を整える。すぐにまた部屋へと戻り、寝巻きから今日の為にママが買ってきた服に着替える。

 最後にもう一度、鏡で自分の姿をチェック。


「よし、オッケー! 」


 確認し終わると、今度はダイニングルームのある一階へ移動する。


「ママ、おはよう!」

「リンちゃん、おはよ〜!」


 テーブルにはすでに、良い匂いのする朝食が用意されていた。ちょうど準備していたマリナがいたので、リンは元気よく挨拶をする。


「ママ、どうかな?」

「可愛い〜! よく似合ってるよ!」


 一回転して見せるリンに向かって、マリナは笑顔で答える。可愛いと言われたリンは「えへへ〜」と、嬉しそうに笑う。5年も女のフリをしているうちに、だいぶ板についてきたようだ。


「アルとパパは?」

「庭で剣術の練習してるみたい。丁度いいから呼んできてくれる〜?」

「はいはーい」


 適当に返事をしつつ、リンは庭へと向かう。庭に近づくにつれて、風を切る様な音が聞こえてくる。扉を開けてみると、そこには素振りをしているアルとレヴィンの姿があった。


「アルー!パパー!ご飯できたよー!」

「おう!すぐに行く! アル、行くぞ」

「はい、父さん」


 二人は持っている木刀を腰にさすと、額についた汗を腕で拭う。深呼吸をして軽く息を整え、リンの方へ向かって歩き出す。


「お疲れ様~」

「おう、その服似合ってるぞ」

「ありがとー!」

「アルの剣術は順調?」

「うん、だいぶ振れるようになってきたよ」

「いいな~……ボクも剣術やりたかった~」


 魔法練習が禁止された後、リンは剣術を習いたいと言ったのだ。しかし、周りからの反対があったので泣く泣く断念した。理由として、「聖女が剣を振るのはイメージが崩れる」とか「剣を振ってる姿を他の人に見られるのはよくない」等があった。


「大丈夫だよ、おねえちゃん。僕が強くなって、お姉ちゃんを守るから」

「ありがとう。でも、ボクもちょっと位やってみたかったな~」

「まあ、学校に行けば多少は教えてくれるさ」


 3人は会話しながらダイニングルームへと移動する。

 中に入ると、ちょうどみんなの食事を運び終えたマリナが待っていた。


「リンちゃん、ありがとう。さあ、みんな座って~」

「はーい」






 食事を終えた後、レヴィンとアルは軽く水浴びをして着替えをした。

 今日はリンの入学式なので、家族全員で出かける事になっている。二人が準備を終えて玄関に出てくると、既に準備が終わっていたリンとマリナが待っていた。


「二人とも遅いよ~! こんな日くらい練習お休みすればよかったのに」

「すまんすまん、だが毎日練習する事が大事なんだ」

「そう言うなら、準備もちょっと早くして欲しいな~?」

「いや、マジですまん。今日は入学祝に何か買ってやるから、許してくれ」

「やったー!」


 レヴィンの言葉に、リンはあっさりと機嫌が良くなる。レヴィンは心の中で「やられた……」と思ったが、言ってしまった以上は仕方ないとこっそり財布の中身を確認する。

 4人で家を出ると、門の所に女性が一人立っているのが見えた。


「おはようございます、聖女様」

「おはようございます、カリーナさん」


 リンの護衛である、カリーナ・コレット。茶色い髪をした長身の女性で、剣がとても似合っていてカッコイイ。腕前もかなりあるらしく、教会専属の騎士だ。


「聖女様、いつも言っていますが私の事は呼び捨てで構いません」

「カリーナさんも、ボクの事をリンって呼んでくれるならいいですよ~?」

「聖女様に対してそのような言葉遣いは……」

「じゃあ、ボクもカリーナ様って呼んでもいいですか?」

「聖女様!? そ、それはダメです!」

「リンって呼んでくれるならいいよ~?」

「……せめてリン様で、お願いします。これ以上は無理です……」

「う~ん……とりあえず今はそれで」

「ほっ……」


 実は、リンとカリーナはいつもこんな会話をしていた。リンは聖女様と呼ばれるのが恥ずかしく、カリーナは騎士として仕える立場上それは無理だと。

 しかし、今日ばかりは譲る事ができなかったので「カリーナ様」と言う切り札を使ったのだ。何故なら、これから学校に通うのにクラスメイトの前で「聖女様」と呼ばれるのがどれだけ恥ずかしいか……想像するだけで嫌だった。とりあえず名前で呼んでくれるだけ、マシと言えるだろう。

 ちなみに、護衛についているのはカリーナだけではない。彼女は護衛がいますよとアピールする役目も持っているのだ。見える範囲にはいないが、聖騎士達がリンを中心に警戒態勢でついて来ている。


 5人はゆっくりと歩きながら、街の中心地へと移動していく。

 辺りを見渡しながら進んでいると、どうやらリンと同じように学校へと向かう人たちが見えてきた。格好はそれぞれバラバラで、貴族のような格好している子から普通のシャツとズボンの子まで様々だ。この学校は7歳になると身分に関係なく子供たちを集める為、洋服等の制限はない。

 それからしばらく歩くと、ついに学校が見えてきた。運動場らしき広場の隣に大きな建物が建っている。5人は立ち止まる事無く、校舎内へと入っていく。


 建物に入るとすぐ目の前に受付があり、名前を伝えると講堂がある場所を教えてくれた。

 まあリン達と同じく、入学式に参加するであろう人がたくさんいるから迷う事は無いが……。


 講堂へ到着すると、既に集まっていた生徒たちが椅子に座っている。大体100人前後と言うところかな?在校生の姿は見えないから、今いる子たちは全員同級生と言う事だろう。

 5人揃ってぼーっと立っていると、横から受付らしき女性職員が声を掛けて来た。名前を伝えると、リンの席と保護者用の席をそれぞれ教えてくれたのでそのまま二手に分かれる。


 正直リンは友達がいない。聖女として活動していた為に、話しかけてくれる同年代の子は居なかったのだ。既に友達と楽しそうに会話している人たちを見て、羨ましく思いつつ「私は別に寂しくない」と言うオーラを強がって出してみる。

 しばらくすると入学式が始まった。内容的には前世のものと変らない。お偉いさんが何人か祝辞を述べて、生徒会長の挨拶やらなんやらを話して終わった。まあ結局1時間近くかかったけど、こう言う場面は私語をする人もいないので割りと楽な空気だったりする。

 式は順調に進み、最後に各担任が引率して教室へ。

 父兄はそのまま講堂に残り、何か話をするようだ。


 リンは教室に到着すると、自分の席に名前が書いてあったのでそこへ移動する。席は窓際……なんて都合の良い事はなく、教室のど真ん中であった。正直、友達もいないのにど真ん中はきつい……。

 そんな事を考えている間に、担任らしき人が挨拶を始めた。


「私はロレーナ・アスコート。一年間、あなたたちの担任になります。何か悩みや相談事があるなら、いつでも来てください」


 ロレーナ先生は金髪でふくよかな女性だ。優しい笑顔にあふれ出る包容力が感じられ、安心感を持たせてくれる。リンは先生の感じにほっと一息を吐く。

 後は他のクラスメイトと上手くやっていけるか……。

 先生の自己紹介が終わると、予想通り自己紹介タイムがやってきた。内容は名前と、趣味または特技を一つ。入り口の一番前に居る人から順に自己紹介を促される。

 リンはど真ん中だから、どちらから始まろうと関係ないけど……。とりあえず自分の番が来るまでドキドキしながら待つ。正直、他の人の自己紹介なんて聞いている余裕はない。


「私の名前は、エレナ・バリエールです。特技は……まだ練習中ですが剣術です。よろしくお願いします」


 リンの前に座っている子が終わった。心臓がドキドキしているのが良く分かる、周りに聞こえていないか心配になるほどだ。軽く深呼吸をして落ち着き、顔をちゃんと上げる。


「私の名前は、リン・イチノセです。趣味は読書です。よろしくお願いします」


 リンが自己紹介をしてペコリとお辞儀すると、周りが少しざわつく。


「あれって、聖女様……だよね?」

「うんうん、私見た事あるよ」

「あれが聖女様……確か全属性持ちだろ?」

「らしいな……てか可愛い」


 みんなは小声で話をしているが、これだけの人数が一斉に喋れば小声では収まらない。

 リンは聞こえてくる声に顔を赤くしつつ、聞こえないフリをして座る。


「おーい、次の人自己紹介するぞ。みんな静かに」


 ロレーナ先生が注意すると、話し声はピタッと止んだ。それからは淡々と自己紹介が続いていく。

 自己紹介が終わり、明日から授業をするからノートと筆記用具を持ってくるよう伝えられて今日の授業は終わった。

 担任はさっさと教室から出て行き、残された生徒たちは新しくできた友達と会話をしている。

 リンは周りの視線を感じつつ、とりあえず家族と合流する為に教室を出る事にした。


(別に寂しくなんか無いんだからね……なんちゃって。ぼっちきつい、友達作らないと……どうすればいいんだろ)


 これまで同年代の子と遊んだ経験も無い為、正直どう関っていけばいいのか分からなかった。

 もしかしたら誰か話しかけてくれるかも……何て都合のいい事を考えていたが、聖女と言う事もあり遠巻きにされているのが分かる。

 まあ自分から話しかければ変わるかもしれない……そう思ってはいるが、踏み出す勇気が出なかった。

 少し落ち込み気味で教室を出ようとする。


 ――――トントンッ


 不意に、後ろから肩を叩かれる。

 ビックリした後ろを振り向くと、女の子が一人立っていた。

 緑色の短い髪に青い瞳、少し気が強そうな印象だが口元には柔らかい笑みを浮かべて話しかけてくる。


「あなたが聖女様? 私はセシリア・ルミエール。同じクラスメイト同士、仲良くしましょ?」

「ボクはリン・イチノセ。できれば名前で呼んでもらいたいです。こちらこそよろしくお願いします」


 一瞬身構えたリンだったが、普通に話しかけてきてくれたので少しほっとする。セシリアから差し出された手を握り、握手を交わす。


「それじゃあ、リンって呼んでいい?」

「うん! 是非それでお願いします」

「じゃあリンも敬語やめてね? 私の事はセシリアで」

「分かった! よろしくね、セシリア」


 とりあえず、一人でも名前で呼べる相手が現れてよかった。嬉しくて思わず笑顔になる。その様子を見ていたクラスメイト達が一斉にざわつく。


「可愛い……」

「私話しかければよかったー!」

「しまった、せっかくのチャンスだったのに俺って奴はー!」


 しかし、セシリアと会話できて喜んでいるリンの耳に届く事は無かった。


「リンって可愛いね。自分の事をボクって言うんだ?」

「あ、うん。……変かな?」

「そんな事ないよ! 可愛いと思うよ!」

「小さい頃からの癖で……何故か直そうとすると周りの人が反対するから……」

「あー……うん。何か分かる気がする」

「……?」


 二人が会話をしていると、廊下の向こうからマリナとレヴィンの姿が見える。マリナはリンの姿を見つけると、大きく手を振って呼びかけてきた。


「リンちゃ~ん!」


 正直恥ずかしい。こんな人が多いところで、人の名前を大声で呼ぶのは……。

 リンは顔が赤くなるのがわかり、思わず頭を抱える。


「リン……お母さんだよね?」

「うん……。できれば他人のフリしたい。」

「無理でしょ……顔がそっくりだし。」

「うぅ……」

「ほら、早く行っておいで。このままここにいると余計に恥ずかしいよ? 明日また学校で!」

「うん! また明日ね!」


 リンはセシリアに別れを告げ、母の元へと走っていく。


「ママ~! 恥ずかしいから大声で呼ばないでよ~!」

「ごめんごめ~ん」

「さ、帰るぞ」

「あれ? でもアルとカリーナさんは?」


 リンはマリナ達が来た方向を探してみるが、二人の姿が見えない。


「ここにいますよ?」

「こっちだよ? お姉ちゃん」

「わっ! ビックリした!!」


 振り向くと、何故か後ろにアルとカリーナが立っていた。


「いえ、私はリン様の護衛ですから。ずっと教室の外にいましたよ?」

「僕は退屈だったから、カリーナさんと一緒に護衛してた」


 まあ、確かに護衛としては間違ってはいないけど……いるならいるって言っておいて欲しかった。

 あと、アルは護衛しないでいい。


「とりあえず帰るぞ」

「は~い」


 5人は家へ向かって歩き出す。


「リン、学校はどうだった? 楽しめそうか?」

「うん!」

「そっか、明日から頑張れよ」

「もちろん! あ、パパ。今日のお祝いにケーキ買ってー!」

「おう! 任せろ、一番高い奴買ってやる」

「やったー!」


 ちなみに、この後寄ったケーキ屋さんで一番高いのが銀貨2枚だった。

 パパの引きつった顔を見るに、予想以上に高かったのだろう。

 だけど、約束は約束。リンは笑顔で「ありがとう」と言うと、レヴィンは若干泣きそうな顔で笑っていたのは内緒だ。

 とりあえず、一日目無事に終了。明日から頑張ろう!





いつもお読み頂き、ありがとうございます。


ようやく入学まできました。

次回から魔法を取り入れていこうと思います。

あと、貨幣価値についても説明入れられたらと思っています。

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