12話 5年間の軌跡
思い切って書き方を変えてみました。
誤字や表現のおかしな部分等ありましたら、ご連絡をお願いします。
「う~……さむい」
辺りを見渡すと、立っている木はどれも葉っぱが少なく寒そうしている。緑のない木は見ているだけで寒くなるものだ。少しでも暖を取ろうと、縮こまりながら両手で体を隠すが、冷たい風は隙間だらけの木々の間から遠慮もなしに吹きつけて来る。
「部屋に戻ろう……」
誰に聞かせるでもなくリンは一人呟き、ベランダから自分の部屋へと戻る。
お風呂に入って温まったは良いが……むしろ温まり過ぎて逆に暑くなってしまったのだ。そして今更ながらに思う、外に出て熱を冷まそうとしたのが間違いだったと。むしろ湯冷めして風邪を引く。
物語の冒頭のように、ベランダから月を眺めているシーンで始めようとしたのだが、残念ながら現実はそんなに甘くなかった。ベランダに出て1分としない内に寒さで諦め、結局布団に包まりながらこれまでの事を思い返す。
――――あれから5年経つ。
当然ながらリンは7歳になり、4月からはリンが住んでいる街『アストルム』にある学校へと通う事が決まっていた。
今は1月……もう時間的な余裕はあまりない。2歳から始めた属性石を反応させる練習……最近ようやく10回中8回成功するようになった。目を瞑って集中すれば確実なのだが、目を開けたままやるとまだ失敗する事がある。魔法の練習はどうなったかと言えば、魔力コントロールが完全ではないからと、結局解禁してもらう事はできなかった。ただ、学校が始まる事もあり、4月からは自動的に解禁すると言う返事はもらった。
……その為にエドさんへ手作りの料理を持っていったり、お口にあ~ん的な事をしたのは内緒だ。忘れたい、むしろなかった事にしたい。
2歳から始めた聖女としての役割は、実は現在も続いている。リンの年齢がまだ幼い事もあるが、どちらかと言うと元々の女顔のせいで誰にもバレる事なく過ごせている。
リンにとっては、誰も怪しまないこの状況に対してむしろ不満があるのだが……バレたら結局困るので複雑な心境の日々が続いている。きっと伸ばし続けていた長い髪のおかげで疑われていないんだろう、そう自分に言い聞かせているのは内緒だ。
変った事……と言って真っ先に思い浮かぶのは、リンに弟ができた事だろう。
名前はアルヴィン・イチノセ。父であるレヴィンとは名前だけではなく、茶色がかった黒い瞳や髪の色までそっくりだった。アルの属性魔力は水と土で、これは3歳になってから調べに行った。
(ちなみにリンの時とは違って、水晶はただ光るだけだった。2属性持ちなだけでも十分凄い)
年齢は現在4歳で、リンの3つ下となる。リンが聖女として活動して一年後に生まれた子供だった。みんなからアルと呼ばれて可愛がられているが、家族とはどこか一歩引いたような感じだった。しかし、それも3歳を過ぎた頃から家族へも積極的にかかわるようになり、今ではレヴィンと仲良く剣術の練習をしている姿が見られるようになった。
母であるマリナはこの姿を見てようやくほっとしたようで、それ見てハラハラしていたリンも実はほっとしていた。それも、2歳までのアルの様子を知れば無理も無いと思うだろう。寝ている時に突然大泣きする事が多く、時々ガタガタと震えている場面もあった。
何か怖い夢でも見たのかと聞いても、本人は「……覚えていない」とだけ呟くだけだった。まあ夢なんて起きてみると意外と覚えてないものだし、怖い夢を見る事だってあるさと家族は納得するのだった。それも2歳を過ぎてしまえば夜中に大泣きする事もなく、最近は明るくて怖い夢を見ている様子もない。家族もわざわざ怖がっていた時の話を蒸し返す必要はないと、今までの分を埋めるように楽しく過ごしてきたのだ。
ちなみにリンの性別についてはちゃんと話しており、兄の安全の為ならと本人も黙ってくれている。
次にエドさんだが、本名は未だに名乗ってくれていない。ただ、幹部の中でもかなりの権力を持った人間であろう事は想像できた。聖女については独断で決定していたし、教会内部の改装までやっていたからだ。知ってしまうと深みに嵌りそうだから、あえて突っ込まないようにしている。それと、相変わらずちょっと変……。リンは可能な限り接触を避けるようにしている、身の安全の為に。
リンの世話役であるリディさんも相変わらずだ。彼女は青い髪の色と同じく、水属性の魔力を持っていた。一度彼女にウォーターボールを見せてもらったが、こぶし程の水玉を5つ出して見せていた。そして自分が出した一メートル級の水玉がいかに異常か良く分かった。そう言えば2歳児だと成長が早いからあっと言う間に修道服が着られなくなった。しかし、そのたびに何故か嬉しそうなリディさんが作り直してくれていた。ありがたいけど……正直複雑だ。
そして最後にクルト・アカミネ。真赤な髪の色をした彼と出会ったきっかけは「母親を生き返らせろ!」と絡まれた事件だ。……事件と言うほど問題になった訳じゃないけど。何とか命の重さや魔法が万能ではないと言う事を理解してもらい、仲直りしてそのまま友達になった。
あまり外出する事の無いリンにとっては、唯一友人と言える存在だろう。リンが教会へ顔を出す度に現れ、他愛の無い世間話をしながら時間を過ごす。聖女をやっている弊害で、他の子たちはあまり近づいてこない。そんな孤独の中で、クルトの存在はリンにとってありがたいものだった。エドと顔を合わせる度に険悪なムードになるのは正直鬱陶しかったが、慣れていくにつれてそれを面白いとさえ思えるようになってきた。最近ではむしろ、リンを笑わせるためにワザとオーバーな喧嘩をするようになったように思える。
こんな感じで5年間はあっと言う間に過ぎていった。前世の記憶について思い出せた事は無いが……今は今の人生がある。そんなに気にする必要もないだろう。
「すー……」
布団の中で丸くなってるうちに、リンはいつの間にか眠りに就く。今日も教会で聖女として活動をしていたのだ、それなりに疲れが溜まっていたのだろう。
――――――コンコンッ
部屋に小さなノックの音が響く。しかしリンは既に眠ってしまっている為、返事をする事は無かった。少しするとドアがゆっくりと開かれる。ドアの隙間からそっと部屋の様子を覗いたのはマリナとレヴィンだった。下の子のアルがようやく寝付いたので、リンの様子を見に来た所だった。
「ん? もう寝てしまったようだぞ」
「あらあら、今日はよっぽど疲れていたのね~」
二人は音を立てないように部屋へと入り、リンの寝顔を見て微笑みを浮かべる。母親に似た顔立ちと綺麗な金色の髪が体に巻きつき、丸くなって眠る姿がどこか猫のようで可愛らしい。レヴィンは丸くなっているリンを抱き上げると、まっすぐ綺麗な体勢に直してやる。マリナはそれに合わせ、寒くないようにゆっくりと布団をかける。
「おやすみ、リン」
「おやすみなさい、リンちゃん」
マリナはリンの額にそっとキスを落とし、二人で部屋を出て行く。
これまでの5年間を考えれば、3ヶ月なんてあっと言う間に過ぎるだろう。リンは秘かに期待と不安を胸に、夢を見る事もなく熟睡した。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
ようやく話が進みました。
ここから少しずつ登場人物が増えて行き、魔法を使う場面も出てきます。
どうか今後もよろしくお願いします。