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精霊剣の一閃  作者: ウィク
第一章 聖女(リン・イチノセ)
12/52

11話 聖女と赤毛の少年

誤字や表現のおかしな部分等ありましたら、ご連絡お願いします。

「あ、すみません。帰る前に朝のお祈りだけ、ご一緒していただけませんか?」


 帰ろうとしていると、エドさんは急に思い出したかのようにボクを呼び止める。


「はい、いいですよ。横で一緒にお祈りしていればいいですか?」

「ええ。それとリンさんへ魔法を使わせないよう、皆さんへ念を押さなければなりません。」

「……使わせようとする人、いるんですか?」

「前に回復系の大魔法使いましたよね? それから、傷を治して欲しいと言う人が結構いるんですよ」


 あ〜……あれのせいか。

 確かに、自分の怪我を直せる人がいれば頼みたいよね。

 やっぱりあれは、まずかったかな〜……。


「それくらいならまだいいんですが……中には死んでしまった人を生き返らせて欲しい、と言う人も何人か来ています」

「え……。さすがに無理ですよ!?」

「分かっています。魔法とは言え、死んだ人を生き返らせるなど不可能です。命は一つしかないのは、誰でも知っている事ですから」

「では何故……」

「聖女様ならあるいは……と、亡くしてしまった悲しみを聖女様と言う希望で埋めようとしているのでしょう」

「……」


 分からなくはない。

 大事な人なら尚更、僅かな希望にすら縋りたくなるのは仕方ないよね。


「まあ、どうしようも無い事はあります。今はあまり気にせずに、朝のお祈りを終わらせてゆっくり休んでください」


 そう言うと、いつものように微笑みを浮かべながらボクの頭を撫でる。

 うん……。今のボクは、普通の治癒魔法ですら厳しい。考えても仕方ない。

 ボクは大丈夫だと伝えるように微笑み、エドさんへ頷き返す。

――――ポッ。

 エドさんは頬を赤くして顔を背ける。


「……」

「…こほん、さあ行きましょう」


 エドさんはワザとらしく咳払いをして、部屋から出て行く。

 ボクらも後ろから付いて礼拝堂へと向かう。

 移動しながらふと思う。この教会って何を信仰しているんだろう?


「そう言えば、ここの宗教は何教って言うんですか?」

「おや……知りませんでしたか? パトリア教ですよ」

「パトリア……」


 どこかで聞いた事あるような気がする……なんだっけ。


「軽く昔話しましょう。今から600年ほど前、世界を統一した偉大な王が居たんです。その王は、その頃使われていた魔法とは比べ物にならないくらい強力な魔法を使う事ができたのです。その力を使い、かつてはバラバラだった世界の国々を一まとめにしたのです」

「へぇ……」


 それは凄い……。前世の記憶でも、世界統一を達成した人なんていなかったはず。

 って言うか、それ世界征服じゃない?


「王は全ての街に学校を作り、読み書きや計算はもちろん、言語を統一する事に成功したのです。さらに農業や魔法技術を向上させ、見た事のない食材や調味料等を作り出したと言われています。」

「凄い人だったんですね。では今の暮らしができるのも、その人のおかげですか?」

「ええ、水晶の利用方法や技術を作ったのもその王らしいです。ただ、言語の普及や農業で使われる作物に関しては、彼の魔法の力が大きいと言われています。いくら統一して学校を作ったからと言っても、ここまで言語が普及するとは思えません。野菜に関しても、最初は彼が創り出したといわれています」

「まるで神のようですね……」

「はい。ですので、私たちは彼を神の使いとして信仰しているのです。そしてこのパトリアと言う言葉は、祖国と言う意味があると彼から伝えられています」

「祖国?」

「彼はこの世界ではなく、別世界の人間だったそうです。伝承によると、彼は別世界にある祖国を想い続け、技術を広めたとされています」


 その人……きっと日本人だ。

 でも600年前って……600年前の日本がどうだったかわからないけど、ここまで野菜や調味料って充実していたのかな?

 よく分からないけど、とりあえずその人のおかげで今の暮らしができているみたいだね。日本語に和食にお風呂、彼には感謝しきれない。


「さあ、到着しましたよ。私の後ろをついて来てください。入ったら私の隣で、同じようにすればいいです。お二人は、入ったらドアの側で見ていてもらえますか?」

「はい」

「わかった」

「は~い、リンちゃん頑張ってね!」

「うん!」


 エドさんの後ろから、礼拝堂へと入る。

 すると、そこには既にたくさんの人が並んでいた。

 ボクの姿を人々は


「聖女様!?」

「聖女様だ!」

「本当だ! 今日来てよかった!!」

「可愛い……」


 みんなの視線が一斉にボクへと集中する。

 うあ~……緊張してきた。

 動揺を悟られないよう、微笑を浮かべてやり過ごす。

 この人たちはみんなスイカだスイカ……あれ? かぼちゃだっけ……?


 エドさんは集まっている人々へ一礼すると、祭壇にかけられた十字架に向かって片膝をついて祈り出す。

 ボクは慌ててエドさんの横に並び、同じように祈りのポーズを取る。


「パトリアより見守りし神々よ 我が内に流れし聖なる力を糧に 我が同胞へささやかな祝福を求める ブレッシング」


 エドさんが最後の言葉を発した瞬間、教会内は光の粒が降り注ぐ。

 何か……力が湧いてくる感じがする。

 もしかして魔法?

 驚いている間にエドさんは立ち上がり、集まった人々へと向き直る。

 ボクも慌てて立ち上がり、エドさんの後ろへと少し隠れるように立つ。


「みなさん、おはようございます。今日は見ての通り、聖女様がお祈りに参加してくださいました。」

「おおー!!」

「しかし、聖女様はまだお若い。あまり出歩くような年齢ではありません。これからは半月に一度くらいのペースで通われるご予定です。」


 エドさんの言葉に、集まった人々は頷く。

 思いの他、ちゃんと話聞いてくれている。

 最初に歓声が上がった時はビックリしたけど……。


「それと、皆様にお願いがあります。聖女様はこれからしばらく、魔法を使用させないでください。」

「え……?」

「何でだ?」

「……」


 何か、微妙な空気になっているね。

 表情変らない人も多いけど、2割くらいの人は不機嫌な顔になっている。


「もちろん理由があります。先ほども言ったように、聖女様はまだ幼い。魔法を使えばその反動で、最悪命の危険があります」

「ええ!?」

「なるほど……」

「マジか……」

「まぁ仕方ないよな」

「ですから、彼女が成長してちゃんと魔法を扱えるようになるまでは、無理に魔法の使用を求めないであげてください」

「そんな事言わないって」

「でも、聖女様の魔法で助かる人だって……」

「そんな恐れ多い事……」


 エドさんの言葉に、なるほどと納得する人9割……納得できない人が1割って感じだ。さっきより納得の割合が増えたね?


「特に、亡くなった方を生き返らせて欲しいと訴える方々……気持ちはわかりますが、いくら聖女と言えどそれは不可能です。それは神にしかできません。」

「おいおい、そんな事言う奴いるのか?」

「いくら何でも、そこまでは言わないだろ」

「……」

「ですから、今日の私の話を他の人たちにも伝えてください。聖女様はしばらく、魔法の使用を」

「ふざけんな!!」


 突然、言葉を途中で遮るように大声を上げる赤毛の少年が前に出てきた。

 見た感じ10歳くらい?


「聖女様ならできるだろ! 俺の母ちゃんを生き返らせてくれ!!」


 少年はまっすぐボクの目を睨みつける。

 思わず一歩下がってしまうボクに、横から出てきたリディさんが庇うように前へ出る。


「人を生き返らせるのは無理です。神父さんが言っていたでしょう?」

「嘘だ! 本当は魔法を使いたくないだけなんだろ!?」

「魔法と言っても、そう万能な物ではないんですよ。人の復活などは神による奇跡でなければ不可能です」

「できるはずだ! お前は自分の安全ばかり考えて使いたくないだけじゃないのか!? 聖女と言うなら人の為なら自分が傷つくのなんか気にしないはずだ!!」

「ふざけんなガキ!」

「でもこいつの言う通りできるかもしれねえだろ!」

「何言ってんだ! お前一人のために聖女様を失う訳にはいかねぇんだよ!」

「あんたが自分勝手じゃない!」

「お前らはこいつの気持ちが分からないだけだろ!」


 リディさんとエドさんの言葉を聞いても、少年は全く引こうとしない。

 周りの人も、それぞれの意見に同調する人が出てきて混乱気味だ。

 ボクの周りにはいつの間にか護衛が集まっていて、誰も手が出せないようガードしている。

 どうしよう……この少年の気持ちも分からなくはない。自分ではどうしようもない母親の死と、抑えようの無い気持ち。想像するだけでも涙が出てくる。

 でも、その感情を誰かにぶつけていてはダメだ。この少年が前に進めなくなる。

 ボクは何を言えばいいのか考えがまとまらないまま、少年に向かって歩き出す。


「ちょっ……聖女様!?」

「お待ちください! 危険です!」


 ボクは周りの声を無視して少年へと近づく。

 歩き出したボクに気づいた人々は、一斉に声を出すのをやめて静まり返る。

 少年も気がつき、こっちを見た瞬間ビックリしたように目を見開く。


「な、何で……泣いているんだよ?」

「ごめん……ごめんね…………」

「何で謝るんだよ! 生き返らせるのがイヤだってのか!」

「違う、できるなら生き返らせてあげたいよ。でもボクにはできない、無理なんだ……ごめんなさい」


 ボクは涙を流しながら、少年に向かって頭を下げる。

 それを見た少年は、首を激しく振りながらさらに大きな声で訴える。


「そんな事ない! この前の光の羽を見たんだ! あんな凄い魔法が使えるならできるだろ!?」

「できないよ……命は一つしかない……」

「でも……でも!!」

「死んでも簡単に生き返れるほど、命は軽い物じゃないよ……。だからみんな大事なんだ」


 ボクは気持ちや考えを上手く表現できないまま、何とか言葉を紡ぐ。稚拙な言葉ではあるが何か感じ取ったものがあったのだろう、周りにいた人たちが一斉に俯くのが見える。

 誰も何も言わない時間が静かに流れ、少年は肩をがっくりと落としてぽつりと呟くように話し出した。


「……分かってたさ、分かっていたけど……希望があると信じたかっただけなんだ」

「……」

「ごめん! 俺の勝手な我侭だった。……母ちゃんだって、誰かを犠牲にして生き返ったって喜ばない」

「……うん。ごめんね……」

「謝らないでくれ。俺が謝るべきなんだ、本当にごめん」


 少年は立ち上がり、ボクに向かって頭を下げた。

 すると、その様子を見ていた周りの人から拍手が沸き起こる。


「聖女様! すみませんでした!!」

「さすが聖女様だ!」

「頑張ったな坊主!」


 響き渡る拍手の中から、一緒に野次を飛ばしていた人たちの謝罪と、少年を励ます声が僅かに聞こえた。


「はぁ……一時はどうなるかと思いましたよ」

「聖女様、急に前へ出たのでビックリしました。もうあんな危険な事はやめて下さいね?」


 エドさんとリディさんが安堵のため息を漏らす。

 パパとママも、後ろのほうから微笑みながら手を振ってくれていた。

 ボクはもう一度少年へ向き直り、手を差し出す。

 少年はどうしたら良いのかわからないようで、ボクの手と顔を交互に見ている。


「ボクはリン・イチノセ。あなたと友達になりたいな? 名前を教えてくれる?」


 少年は少し驚いた表情をしたが、すぐに優しい笑顔を見せる。

 この場所に来て初めて見せた笑顔だ。


「俺の名前はクルト・アカミネ。よろしくな、聖女様」


 クルト君が自己紹介をして、ボクの手を握る。

 すると周りの人から一斉に、大きな拍手と歓声が上がった。

 ボクは大きな音にビックリしたが、すぐにクルト君へ笑顔を向ける。


「友達になった以上、聖女様って呼ぶのは禁止ね?」

「……ああ」


 クルト君は照れたように頭を掻きながらそっぽ向く。

 その様子が面白かったボクは、つい笑ってしまった。


 すると今まで黙っていたリディさんが近づいてきて、ボクの耳元でボソッと呟く。


「……フラグ立てましたね?」

「え……?」


 その言葉を聞いて、ボクはゆっくりとクルト君へと視線を移す。

 ……顔を赤くし、少し潤んだ瞳でこちらをじっと見ていた。なんか……ボクの手を握る力が強くなっているような。


「あ~ぁ…………ぷっ」

「笑った!? リディさん今笑ったよね!?」

「リンさん……あまり無防備に笑顔を振りまいてはいけません」

「振りまいてませんよ!」

「何だこの神父! リンをいじめるなら許さねぇぞ!」

「はっ! あなたこそ、軽々しく聖女様を呼び捨てにしないでください。」


 何故かエドさんとクルト君が険悪になっている。

 リディさんは顔を背けたまま肩を震わせている。絶対笑ってるよね!?

 もう帰りたいよー……。


 その後もしばらく、礼拝堂は大きな拍手と歓声が続くのであった。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


気づいている方もいると思いますが

パトリアはラテン語から取りました。

この作品で出てくる名前は、捩ったラテン語やら英語やらを混ぜています。


次回か、その次あたりから年齢を上げていきます。

更新頻度は1・2日に1回できるように頑張りますので、よろしくお願いします。

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