10話 魔力濃度
今日はいつもより早く書けたー!
誤字や表現のおかしな部分等ありましたら、ご連絡をお願いします。
「とりあえず、朝食にしない?」
「そうね~。確かにお腹すいたね~」
「そうですね、リディさんお願いできますか?」
「はい、すぐにお持ちします」
あれから、服の話でリディさんを褒め称えたり、ボクに「似合う! 可愛い!」と言いながら抱きしめようとするママ達を避けること10分……ボクは話を逸らす事にした。
抱きしめようとしていたママやリディさんを、エドさんが羨ましそうな目で見ていたけど……気のせいだ.
食事は今いるメンバーでまとめて取る事になった。ちょうどエドさんには相談したい事もあったしね。
少しするとリディさんが食事を運んできてくれた。場所はこの部屋にあった大きな円形のテーブル。
メニューはパンとスープ、サラダにフルーツだ。うちとあまり変らなかったね。
そう言えば、この世界って何気に日本の食事とあまり変らない。
実は普通に和食も出てくる。野菜も大根や人参、玉葱やキャベツ等、同じ名前だったのにはビックリした。違うのは大きさくらいな物で、日本で見た野菜よりも倍ほど大きかった。何でだろうね?
しかも味噌や醤油、塩や胡椒等の調味料も揃っている。コレは日本語が普通に言語として残っているのにも関係してる? 多分、ボクと同じような転生者がもたらした技術かもしれない。
個人的に悪い事ではない、むしろ助かっているので文句は全くないけどね。
……うん、普通にコーンスープだこれ。美味しい。
「さて、食事しながらで申し訳ないのですが……お話をしながらでも構いませんか?」
「はい、大丈夫ですよ?」
スープを飲んでいると、エドさんが話しかけてきた。
「すみませんね、私も割りと忙しいので。一応時間をずらす事もできますが、なるべく時間を有効に使わなければならないのです」
「ボクも聞きたい事があったので、ちょうど良かったです」
「それはよかった。リンさん、前に言っていた家庭教師の事なんですが……」
「はい?」
「すみませんが、しばらく見送りたいと思います」
「え!? どうしてですか?」
突然の事に思わず聞き返す。
何気に楽しみにしてたのに……何でー!?
「それは、今回の魔法練習の件です」
「あ……倒れたから…ですか?」
「まぁ……そうなんですが」
「うぅ……」
思わず落ち込むボクに、エドさんは「それだけではありません」と微笑みながら首を振る。
「昨日、リンさんの体調を診た時に魔力を感じました」
「……?」
「リンさんは、大魔法は使えたけど小さい魔法が上手く使えない……そうですね?」
「……はい」
確かに、小さめの魔法を使おうとするけど上手くいっていない。
どう言う訳か、イメージよりも大きくなってしまう。
イメージ不足だろうか?
「あと、赤石に触れただけで壊れてしまったそうですね?」
「そうそう、何故かリンちゃんが触れると壊れちゃったの~」
「んで……何で知ってるんだ?」
「内緒です」
エドさんは微笑んだまま人差し指を口の前で立て、ウィンクしてきた。
きもっ
あ、何か落ち込み出した。ごめんなさい。
「こほん……。それで昨日リンさんの魔力に触れて、原因が何となくわかりました」
「原因……ですか?」
「ええ。リンさんの魔力量は多めではありますが、それ自体はそこまで異常ではありません。もちろんかなり多い方ですが、ただ……」
「……ただ?」
「魔力が濃い。コレほど純度の高い魔力は初めてですね」
量はともかく、濃い……?
どういう事だろう?
「濃い……ってのは、まずいのか?」
「魔力を使わない範囲でなら、今の所あまり問題はないですね」
「リンちゃんは、魔法が使えないって事~?」
「いえ、そう言う事ではないでしょう。実際に教会で魔法を使っています」
「何が問題なのでしょうか?」
「とりあえず、分かっている範囲でお話しましょう。私の推測ですが」
「それで構わない。教えてくれ」
「お願いします」
ボクとパパのお願いに、ママも頷いてエドさんを見る。
エドさんは腕を組んで少し考え込むと、まっすぐボクの方を見て口を開く。
「まずリンさんの魔力………詳しい数値までは分かりませんが、予想では普通の魔法使いの10倍ほどです」
「10倍!?」
「ええ。量自体は一人前よりちょっと多いくらいですが、濃度が10人分の魔力を圧縮したような感じでしょうか?」
「それじゃ……魔法を普通の人よりも10倍多く撃てるって事か?」
「まぁ……そうなんですが、ちょっと難しいと思います」
「どう言う事ですか?」
「単純に計算すれば魔法一発撃つのに対して、他の魔法使いよりも量は10分の1で済むでしょう」
「いい事じゃないのか?」
「これを数値に変えましょう。魔力が10ある人が、ファイアボールを一発打つのに魔力を5消費するとしましょう。リンさんが使う場合、その10分の1ですから必要魔力は0.5です。これだけ少量の魔力を調節して出せますか? 大きな桶から小瓶に水を注ぐようなものですよ?」
「難しそう……」
頑張ったとしても、小瓶から水はあふれてしまう……。
ましてやそれを、イメージと感覚でコントロールしなければならない。
考えただけでもイヤになる難易度だ。
「10倍あるから魔力が10分の1で済む……何て簡単な話じゃないんです。それを操る集中力と、精密なコントロールが必要になります」
「それじゃあ、教会で大魔法を使えたのは~?」
「魔力が10分の1で済むなら、大きい魔法ほど扱いやすいのです。大きな桶から別の桶に入れる分には、それほど難しくはないでしょう?」
「なるほど……」
「もしかして、赤石が壊れたのもそれが関係しているのか?」
「でしょうね、強すぎる魔力が赤石を壊してしまったのでしょう」
「うぅ……」
つまり……ボクは大魔法くらいしか使えないって事?
使い勝手が悪すぎる……。
しかも、属性石は触れるだけで壊れると……魔道具が使えない。
落ち込んでいるボクの肩にポンッと手を置かれる。振り返ると
――――ぷにっ
人差し指がほっぺにめり込む。
「ぷーっ! リンちゃんひっかかった~」
「ママ……」
「そんな落ち込む事はないと思うぞ?」
「ええ。それにまだ、魔法や魔道具が使えないと決まった訳ではありません」
「……え?」
エドさんの言葉に、思わず顔を上げる。
まだ希望はあるって事?
「ウォーターボールを出せたと聞いていますが?」
「はい、イメージよりもかなり大きくなってしまいましたが……」
「それでも、コントロールして小さく出そうとしたんですよね?」
「はい」
「それなら、魔力を細かくコントロールする練習をすれば……」
「できるかもしれない?」
「はい。ただ、かなり神経を使うと思います。それにリンさんは、年齢的に魔法の反動を抑えるのはまだ難しい。しかも、魔法を使えば小さめにしようとしても、かなりの魔法になってしまう。」
「どうすればいいでしょうか……?」
「とりあえず、しばらく魔法禁止ですね」
「え……」
「そんなに急いで魔法を使わなくても大丈夫ですよ。普通、子供たちは学校に入ってから練習するものですから。」
「そうなんですか?」
「ええ」
それなら、今は無理に魔法を使う必要もないのかな?
確かに今魔法を使えば、小さい魔法を使おうとしても高出力の魔法になってしまう。……ウォーターボールを使った時に倒れたくらいだし。
両親を心配させるくらいなら、我慢した方がいいか。
でも……。
「本当は、ケガで苦しんでいる人を一人でも多く助けたかったんですが……」
「リンちゃん……」
「リン……」
「すみませんエドさん、ボクはあまりお役に立てないかもしれません」
「そんな事気にする必要はありません。それに、あなたは居て頂けるだけでも人々の希望となります。……治療院もお仕事なくなりますしね。」
「あっ……すみません。」
そう言えば光の羽を使った時にかなりの人を治したけど、治療院の仕事を邪魔しちゃったかも……。
「大丈夫です。治療院は教会が運営しているので、資金面は問題ありません。それに、毎日忙しい職員がやっと休めたーって喜んでいました。それに治療薬や包帯などは冒険者が買っていってくれますし、病気の人もまだ居ますから」
ボクが一人焦っていると、エドさんが微笑みながら教えてくれた。
とりあえず一安心。
でも、この人本当に人の心読めるんじゃ……やっぱり不安倍増。
「あと、魔道具が使えない問題が残っているんですが……」
「ああ、それなら何とかなるかもしれません」
そう言うと、エドさんは青色の石を10個ほどテーブルに乗せる。
属性石……だよね?
「それでは、やってみましょうか」
「え? 壊れちゃいますよ?」
「これは、もう魔力が殆ど残っていない青石です」
「何か魔道具に装着しなくていいんですか?」
「用は魔力を送る事で反応させればいいんです。ですので、この青石が光れば問題ありません」
なるほど、光れば魔力が作用したと判断できるわけだ。
それに、魔力切れ寸前の青石なら練習にもちょうど良い。
「はい……でも触ったら壊れないですか?」
「そうですね。ですから、触らないでください」
「……どうしたらいいんですか?」
首を傾げつつ、エドさんを見る。
するとエドさんは頬を赤く染めて視線を逸らす。
……またかよ。
もういちいち気にしない方がいいなこれ。
「こほん……。人は意識していなくても、体の表面から魔力が出ています……かなりの少量ですが。その魔力が体全体を覆うほど強い人は、筋力や運動性能がかなり高いようです……ごく一部の人間ですが。」
「ああ。確かに俺は属性魔力がないが、身体能力が他の冒険者よりは高い。もしかして、無属性魔力が高いのか?」
「そうだと思います。リンさんは特に魔力濃度が濃いので、触れずとも作動させる事ができるかもしれません」
「つまり、手を翳すだけでいいって事でしょうか?」
「そうですね」
なるほど、それならボクが魔道具を使える可能性がある。
とりあえず、やるだけやってみよう。
ボクは差し出された青石に向かって手を近づける。
――――――パキッ
「あっ……」
「近づきすぎたみたいですね。ですが、手が触れる前に壊れました。気にせずにもう一度して見ましょう」
「はい」
もう一度……今度はゆっくりと近づける。
……反応しない。もうちょっと近づけて……。
――――――パキッ
「うぅ……」
「リンちゃん、頑張って!」
もう一度……ゆっくりと手を近づける。
まだ反応しない…………もうちょっと?
――――――ピシッ
……ヒビが入った。
「う~……」
「リン、まだ青石があるぞ。大丈夫だ」
「うん」
「はい、どうぞ」
「ふぅ~……」
息を吐いて体の力を抜く。
イメージしてみよう、手の表面からでる魔力を。
なるべく魔力の濃度を薄くするイメージ。
よし……いける!
――――――パキッ
「うにゃあああああああああああ!!!」
「リンちゃん!?」
「落ち着けリン! 大丈夫だ! 気にするな!」
「ふぇ~ん……うぅ……」
勝手に涙が出てきた。
思わず奇声も上げてしまう。
だってなかなか上手くいかないし、もしかしたらこのままできないんじゃないかって……。
涙の出てくる目元をこすりながら、みんなの顔を見る。
パパとママは必死に励ましてくれてる。
リディさんは握りこぶしをグッと出して、ボクを応援してくれている。
エドさんは……頬を赤くしたまま口元を隠したまま視線を逸らしている。
「もう一回……」
――――――パキッ
「くっ……」
「リンさん、大丈夫。そんなすぐできるようになったりしませんよ? そもそも、体の表面から強い魔力が出ているだけでも凄いんです。もしコントロールできるようになれば、一流冒険者のような運動性能が手に入るかもしれませんよ?」
「……うん」
もう一度だ。
ゆっくり目を閉じる。
そのまま、自分の手の平から出ている魔力を意識する。
そして、周りの魔力を探る。
――――自分の前に、青くて小さな魔力を感じる。……これが青石の魔力?
目を閉じたまま、青石から出る僅かな魔力の端に手の平を近づけていく。
自分の魔力が青石から出る魔力に触れた瞬間……青石の魔力が強くなったのを感じた。
「光ったわ!」
「リン! やったな!」
二人の喜ぶ声が聞こえ、目を開けてみる。
そこには、青く輝く青石があった。
「でき……た?」
「ああ! ちゃんと光ってるぞ!」
「リンちゃん凄い!」
「こんなに早くできるなんて、予想以上ですよリンさん」
「さすが聖女様です!」
みんなが喜ぶ姿を見て、ようやく実感できる。
できた……できたんだ!
思わず笑顔になり、近くに居たママへ抱きつく。ママもボクの頭を撫でて褒めてくれた。
「それではリンさん、もう一度やってみましょう」
「はい!」
さっきの感覚を思い出しながらもう一度やってみる。
――――――パキッ
……え?
――――――――――――10分後
結局、あれから一回も成功しなかった。
イメージ不足かと思って慎重にやったけど、ダメだった。
難しすぎる……何でだ。
「まあそう落ち込まないでください。まだ今日始めたばかりですよ?」
「そうよ、リンちゃん。また次に頑張ろう?」
「最初から上手くいく事なんて、本当に稀なんだ。努力すればちゃんとできるさ」
「聖女様、私はずっと応援しています。だから諦めずに頑張りましょう?」
「みなさんの言う通りです。来週また属性石を集めておきますので、頑張りましょう」
「はい……」
うん……また頑張ろう。とりあえず一回でもできたんだから、きっとできるようになる。
ボクはみんなに見えるよう、笑顔で大きく頷く。
「とりあえず、今後の新たな方針が決まりましたね」
「方針?」
「ええ。しばらく魔法は禁止で、属性石を作動させられるように練習しましょう」
「魔法禁止は……いつまでですか?」
「最低でも……属性石を目を開けた状態で普通に作動できるようになるまで」
「ええ!? 難しいですよ!?」
「これができれば、ある程度魔力の操作ができるようになっているでしょう。それに魔法だと意思的に魔力を放出しなければなりませんので、その分体への負担が大きい。属性石は無意識に放出されている魔力なので、体への負担がありません。魔力の練習には最適だと思いますよ?」
「……そうですね」
魔力のコントロールが上手くなれば、自然と魔法も使いやすくなるはず。
よし、まずは言われた通りに練習してみよう。
「じゃ、そろそろ帰りましょ~?」
「そうだな、いつまでも家を留守にする訳にはいかないしな」
「うん!」
「そうですか、少し名残惜しいですが……来週のこの時間にまた来ていただけますか?」
「はい、属性石の練習ですね?」
「それもありますが、前に言っていた聖女様としての活動をしましょう」
「あ、そうですね」
「その格好で来てくださいね?」
「……やっぱり?」
「当然です。」
「うぅ……」
正直仕方ないと言う気持ちもあるけど、やっぱり男だからこの格好は……とも思う。
「まさか……せっかくリディアさんが作ってくれたその修道服がイヤなんですか!?」
「……え?」
「そ、そんな! せっかく……せっかく頑張って作ったのに……うぅ……」
エドさんの言葉を聞いた瞬間、リディさんは両手で顔を覆ったまま地面へと崩れ落ちる。
「ちょっ……!」
思わずエドさんを見る。
だって「リディアさんが作ってくれた」の部分が明らかに大声だったし、ショックを受けましたってポーズがオーバーリアクションだったし。
計画的犯行だこれ!
ともかく泣き出したリディさんを何とかしないと!
「いやそんなことないです! とても素敵な服ですよこれ! 凄く嬉しいなー!!」
ボクはリディさんに聞こえるよう、大きな声で喜んで見せる。
ちょっとワザとらしかったかな……?
するとリディさんが指の隙間から目を覗かせる。
「……本当に?」
「はい!」
「ちゃんと着てくれますか?」
「もちろんですよ!」
「よかったー! 約束ですよ?」
肯定した瞬間、リディさんは両手をぱっと離して立ち上がって笑顔を見せる。
そして口を開けたまま固まるボクの右手を捕まえ、上機嫌に指切りして部屋から出て行った。
はめやがった……。
言葉を取り消そうにも、本人の姿はもうない。
……まぁ一度言ってしまった以上、手遅れだけどね。
あっけに取られたままのボクの肩に、ポンッと手が置かれる。
「……帰るか」
パパの言葉に、ボクは頷く事しかできなかった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
タイトルが『精霊剣の一閃』なのですが、もうしばらく精霊はでてきません。
早くそこまでストーリーを勧めたい所ですが、色々事情があるのでもうしばらくお付き合いください。