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記憶にある橋

 歩いている。

 夢の始まりが思い出せないように、わたしはなぜ歩いているのかわからない。これが夢なら、この歩いているところが始まりなのだろうか。

 わたしの前を歩く人がいる。その後姿は昔のあの人……彼なのだろう。……念のため確認する為に早足で前に回り込むことにする。

 追い越すとき、その横顔を見て彼だと確信を持った。回り込む必要は、その時点でなくなったけど、わたしは回りこんで正面から彼を見た。

 彼にはわたしの姿は見えない。後ろ向きに歩きながら目を見つめてみた。うつろな様にも見えるけど、その目は、かなしみに染まっている。

 なんとなくその目に、わたしを映して欲しいと思って後ろ向きに歩くのをやめて立ち止まる。わざわざ邪魔になる感じに……。わたしの目には彼が映っている。

 しかし、彼はわたしに気付かずにすり抜けて、そのまま歩いて行ってしまった。わかっていたけど、寂しく感じた。この世界にわたしは干渉出来ない。

 振り返って後姿を見たけど、すぐに追いかけて歩き出すことが出来ない。彼との距離が少しずつ離れていく。

 恐らく、彼が進むにつれてこの空間の壁も移動しているのだろう。見えない壁が迫って来る気がする……。ここで立ち止まっていたら、その壁が来てわたしは押されながら歩くことになると思う。それはなんだか微妙なので、歩くことにした。

 とりあえず回りの景色を眺めながら歩こう。右手には大きめな川が流れている。歩いているこの道は川の堤防……。少し向こうに橋が見える。

「あの橋……確か小学校3年か、4年生の頃、学校の授業で絵を描いたな……いや、もうひとつ向こうの橋だったか? まぁ、どちらにしても。今はその頃じゃない。記憶にある橋が本当なのかの証明にはならない……。俺は昔、本当にここで絵を描いたのか? 記憶にあるからといっても、本当にあったことなのか怪しい……自分の記憶なのにぼやけていて信用できない」

 わたしは彼の独り言を聞いていた。彼にわたしの地の文は読めない……わたしに聞かせる為の台詞じゃない。

 橋の近くまで行くと彼は立ち止まったので、わたしは追いついた。

「確か、あまり上手く描けなかった。……憶えているのに、何でこうも疑わしく思う? ぼやけているけど思い出せるのに……思い出せるのに……元に戻りたい。もう、無理なのかな」

 わたしは隣に立って彼の横顔を見ていた。かなしそうな目は今にも泣き出しそうだ……。

(わたしの知っているあなたは、元に戻っていると思うよ)

 わたしの声は彼に届かない。それでも……。

(なんとも、彼には負い目を感じてしまう)

 後ろから声が聞こえてわたしは振り返った。そこにはあの人がいた!

(えっと、空模様は……青いから晴れた昼間。……こんにちは)

(こんにちは。地の文もねるの大変かな?)

(どうかな? 上手く出来てるといいんだけど)

 わたしは、あの人……あなたの問いに答えながら彼を見る。

 彼は一度俯うつむいてから再び歩き出した。

(私は昔、この橋の絵を描いたよ)

(彼の記憶は本物なんだね! それを教えてあげられないかな?)

(この世界でそれは出来ない……いや、難しいだろうね)

 台詞の言い回しから、それが出来ないことをわたしは知った。

(わたしたちも歩こう。おいていかれちゃう)

 わたしたちは並んで彼の後について歩く。

(今の私の視点で見ると、彼は私に取り憑かれている。過去の亡霊に……)

(今のあなたは亡霊じゃないでしょ?)

(まぁ、復活できたからね)

(どうすれば彼は、あなたを蘇らせることが出来るの?)

(……それは私にもわからない。私が復活できたのは偶然だと思っている)

 嘘をついるわけでは無いように見える。まじめに考えてるみたいだし……。

(偶然なんだ。もし、その偶然が起こらなかったらあなたはいなかったってこと?)

(そういうことになるだろうね)

 肩をすくめて、少し困ったような笑みを浮かべている。

(彼はこのまま生きて行く可能性もあるんだね……)

(そうだね。でも、この彼はなかなか侮れない。いずれ私を超える自分になることを望むのだから)

 わたし達は話しながら彼の後を歩く。そして、歩く先に橋が見えてきた。

「記憶にある橋はこちらだろうか……」

 彼は再び足を止めて少し先にある橋を見ている。

(さっきの橋が記憶にある橋だよ!)

 彼には聞こえないけど、わたしは伝えたくて台詞にする。そして隣にいるあなたを見た。

(……彼に代わってお礼を言うよ。ありがとう)

 あなたから彼に視線を戻すと、彼はわたし達……わたしを見ているように感じた。気のせいだけど……。彼の視線の先には、さっきの橋がある。

「やっぱり、あっちの橋だ。……確信は持てないし、意味も無いけど……きっとそうだと思う」

 目を閉じて満足そうな笑みを口元に浮かべると、彼は消えてしまった。

(わたしの声……届いたのかな?)

(届いたのかもね)

(そっか)

 彼は消えてしまったし、その答えはわからないけれど、わたしは彼の満足そうな笑みが見れて良かったと思った。あなたがわたしの台詞を否定しなかったことも嬉しかった。

(さて、では戻ろうか)

(うん)

 わたしは差し出された右手を見ながらうなづいた。

 彼が消えた今、このお話の今回は終わり……。わたしは差し出されたあなたの右手を握った。

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