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過去の夕日

 窓から夕日が差し込んでいる。ここは何処だっただろう? 気が付いたらこの部屋の隅に座っていた。落ち着いて部屋の中を見回すと、わたしの他にもう一人いる。部屋の真ん中で横になっている。

 どうやら男の人らしい。うつ伏せの格好で、顔はわたしの方からは見えない……。

しばらく警戒して見ていたけれど、全然動かない。かすかに背中が上下しているのが分かるので、死んでいるわけじゃない。

 なんだろう? 感じる雰囲気があの人と違うのに、あの人のような気がする。

 動かないし寝ているのかもしれない。ここは勇気を振り絞って顔を見てみよう! わたしがどうしてここにいるのかも気になるし。

 部屋のすみにいるわたしは、夕日の差し込む窓がある壁を背にしている。部屋の中央はわたしから見て、左前の方向になる。と、自分と対象の位置を……えっと、確認した。

 いざという時の為に静かに立ち上がって足音を忍ばせながら歩く。もし、急に起き上がったりしたら怖いので、この人の頭の方から回り込む。立ち上がった時にその方が距離が出来るはず……。あ、よく考えてみたら、こっちからだと横になったままでも足を掴まれる危険が……。

 なんだかホラー映画のシーンを想像してしまった。ゾンビ的な……。なんだかちょっと面白い。

 結局、頭のほうから回り込んでしまった。特に足を掴まれなかったけど。

 最初は見下ろす感じで……ちょっと失礼かもだけど見ていた。でも夕日の影になって顔がよく見えない。だから、腰を折って少し顔を近づけて見てみた…………、正直、驚いた。だって、この人の顔はあの人だったから……というか、この人があの人で……あれ?

 目を閉じているこの顔は、少し前に見たあの人と同じ顔……というか同じ人だ。でも、やっぱり雰囲気が違う気がする。念のため、少し離れて座りながら様子をうかがうことにする。

 なんとなくかしこまって正座をしている。わたしはどれ位の時間正座をしていられるのだろう? とりあえず起きるまで待ってみようかな。

 壁に掛けてある時計の秒針を目で追ってみる。……一分が長い。

 秒針から視線を戻すと、目が合った。その目はうつろで、かなしそうに見えた。いつもの感じじゃない……やっぱり変だ。

『どうしてそんな目をしているの?』

「……そろそろ行く準備をしないと」

『どこに?』

 って、あれ? わたしの台詞が”二重かぎかっこ”になる。これって使い方合ってるの? というか聞こえてるのかな? 目が合ったと思ったのはひょっとして気のせい?

『ねぇ、聞こえてる?』

「……」

 どうやら、聞こえていないらしい。わたしを無視して荷物をまとめている。ちょっと寂しい。なので、肩を叩いて、振り向いたほほに人差し指を刺してあげよう!

 自分がニヤけているのが分かるけど、こういういたずらをする時はつい笑ってしまう。静かに立ち上がって無防備に向けられた背中に忍び寄り右肩を……あれ? 触れない。すり抜けちゃった?? どういう設定?? さっきは壁を背にしていた。……物には触れる? 本棚にある本を取ろうとしたけど、ダメらしい。すり抜けちゃう。これは…………今のわたしなら壁抜けが出来るかも! 窓からじゃなくても外が見れるはず! ……ダメでした! どうやら、壁はすり抜けられないらしい。床もすり抜けられないらしい。空は飛べないので天井てんじょうは分からないけど。

『これはどういうお話なの?』

「今日も何か失敗して屈辱を味わうのかな。行きたくない……でも、行かないと」

『いつものあなたらしくないよ? どうしたの?』

 わたしの声は聞こえない……これは演技じゃないみたい。

 弱気なことを言っている時も、いつもはどこか余裕がある感じなのに……本当にあるのかは解らないけど。今の台詞から感じるのは、なんだか重い気持ちがこもっていて余裕を感じない。

 出かける支度を終えて、わたしに気付かないまま部屋を出て行ってしまった。追いかけようとしたけど間に合わず戸が閉められた。締まった戸を開けようとするけれど、開けることが出来ない。どうやら、戸もすり抜けることは出来ない。

 これは……閉じ込められた! 開けようにもすり抜けてしまう……のに、壁も扉も通り抜けられない! このお話では、わたしは物に触ることは出来ないらしい。壁に触ってみると、触っている感覚はあるけど、どうも壁に触っているわけじゃないみたい。この空間そのものに触っているような感じがする。

 部屋の中を見回してみると、カレンダーがある。……数年前のカレンダーだ。どうやら、ここは過去が描写された世界みたい。ということは、今のは過去のあの人の姿なのかも……。

 あれ? なんだか時計の音が聞こえなくなっている。これは終わりということなのかも。

 よくわからないけど、たぶんそうなんだと思う。終わり際を親切に教えてくれた……のだと思う。

 さて、この部屋に閉じ込められた……どうしよう? と言いたいところだけど、わたしは帰れる。今度あの人に会ったら聞いてみよう。

 う~ん、結局2分も正座をしてなかったな。

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