王妃を狙う者7
ユティシアは黒服の男達の攻撃を軽く受け流す。身体には身体強化の魔法をかけているため、簡単に攻撃を避けることができる。
「もう…諦めたらどうです?」
「うるさいわよっ」
「お父様が悲しまれますよ?」
「そんなこと、どうでもいいわ」
令嬢は強気の返答をしながらも部屋の隅で震えている。
男たちは懲りずに何度も襲い掛かってくる。
男のナイフを持った右手を捉え、そのまま力を利用し、投げ飛ばす。
近接戦は苦手だ。魔法は細かい制御が面倒なので使わない。ユティシアは幼い時に魔力の制御が出来なかっただけあって、今も細かい魔法はあまり好まない。
剣があったほうがもう少しまともな戦い方ができるのだろうが、ユティシアはなるべく魔物以外に刃物を向けないようにしている。
ユティシアは人を斬ったことがなかった。怖いのだ、人を傷つけるのが。騎士団“光の盾”で魔物の討伐以外に依頼を受けなかったのはそのためだ。ユティシアは自分の力が並外れていることを自覚している。だからこそ、人をむやみに傷つけてはいけない。自分が本当に刃を向けるのは、魔物のみ。
「さて…こちらも終わりにしましょうかね…」
そう言うと、ユティシアは呪文を唱える。
その瞬間、大勢いた男たちは全員気を失い、床に倒れた。
「やめてっ!来ないで!」
ユティシアはその声を無視して近付いて行く。そして令嬢に向かって手を振った。
「可視」
やはり。令嬢の周りには黒い靄が発生する。
またか…と思わないでもない。以前、騎士団でも同じことがあった。
―――――魔。
どこで魔物と遭遇したかは知らないが、彼女は魔によって暴走し王妃を攫うに至ったわけか。人身売買については魔に憑かれる前からだろう。
「払え」
短く唱えて彼女の魔を取り払う。
「さてと…すべて白状してもらいましょうか…」
ユティシアは令嬢の肩を掴むとにっこり笑う。
「素直に言ってください。全部」
ユティシアの無邪気な笑みに令嬢は不覚にもときめいてしまう。
彼女があまりにも愛らしいのだ。先ほどの圧倒的な戦いが嘘のように、可憐で庇護欲をそそられるような印象がある。
令嬢はもう、彼女に憎しみを向けられなくなっていた。
「いっ、言いますわよっ」
「ありがとうございます」
ユティシアがまたにっこり笑うと令嬢は頬を赤くした。