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魔封じ4

ディリアスも通常通りの執務に戻り、ユティシアも王妃としての仕事を始めていた。

あれほどの事件があった後なので、民を安心させる意味も含めて二人は精力的に公務を行った。


そんな日々も何とか落ち着き、ディスタール王城には再び日常が戻ってきていた。

いつも通りに執務室に集合する面々。

そして、いつも通りにソファに座りお茶を始める。もちろん、ディリアスはユティシアを隣に座らせて。


のんびりと紅茶を飲むうちに、皆の話は自然とユティシアに関する話題に移っていった。


「まさかユティシアちゃんが、『白銀の舞姫』だったなんてね~」

「『白銀の舞姫』というと、大陸一と言われている魔法師ですね。何というか…想像できませんね」

「俺だって最初は豪傑って感じの女を想像していたな」


ユティシアの可憐な容姿では、戦いの中に身を投じてきたなどとは…ましてや、最強と呼ばれる存在だとは、誰が想像できようか。


「本当に今までよく生きていたものだ」

ディリアスは眉間にしわを寄せながら、言った。

彼からしてみれば、ユティシアの行いは冷や汗ものだ。もし彼女が戦闘で命を落としていたら、今彼女はここにいなかったかもしれないのだ。


「ユティ、魔力の暴走は今まで何度かあったのだろう?魔力切れを起こすことはないのか?」

ディリアスは心配そうに聞く。


魔力切れは、魔法師の命にかかわる問題だ。

実は、魔法師はある一定量の魔力を体にとどめておく必要がある。魔法師の体内には、魔力を貯蓄するための“器”が存在する。人が生命維持に栄養を必要とするように、“器”の維持には魔力を必要とする。

魔法がほとんどなくなると、それを補うために魔法師の命が削られ始めるのだ。

ユティシアのように魔力の暴走が止まらずに、最終的に命までも削っていくことになったら…と考えると、恐ろしくなる。


「ないです。魔力の回復も早いので、騎士団時代には仕事を連続で入れても問題はなかったのです」

…ちなみに騎士団時代のことは、ディリアスの巧みな問い詰めにより皆に全部露見している。


ユティシアの発言に、魔法を使うゼイルとアルは驚きの声を上げた。


それなりに大きな魔力を持っている彼らから見ても、ユティシアの魔力量はおかしい。魔力切れは魔法師にとって心臓と同じくらいの最大の弱点なのに、それがないなどとは…羨ましすぎる。


そうすると、ユティシアは本当に魔法師の弱点を持っていないことになる。


魔法師の弱点と言われるのは、呪文の合間にできる隙、集中力不安定よる魔力の乱れ、近距離戦闘に不向きな点などが挙げられるが、彼女はそれのすべてに当てはまらない。


呪文は詠唱を破棄しているし、彼女は戦い慣れているせいで集中が切れることはない。敵と接近して戦うのは、今までの体術や剣術を見る限り彼女はむしろそれを得意としているようだ。

――――さらに魔力切れがないとなれば、彼女は本当に弱点がない。


しいて挙げるとすれば、魔力の大量消費による暴走。そして――――魔眼だけだ。

しかし、その二つは弱点にもならない弱点だ。

暴走するほど彼女が魔力を消費する機会はほとんどなく、唯一強い魔眼を持つディリアスは彼女の味方だ。


「しかも、魔力の制御については、大量に魔力を消費する機会が増えれば克服可能です」

…大量に使っていくうちに魔力の消費に慣れるそうなので、とユティシアが付け足す。


魔法師の二人は絶句。


「それって…敵なしだろ」

「まさに最強ってやつだよねぇ」

うんうんと頷きあうアルとゼイル。尊敬の念からか、アルはきらきらした瞳でユティシアを見つめている。


「何か、ユティに弱点はあるのか?」

「しいて挙げるとすれば、魔は侮れませんね。精神に作用しますし」

ユティシアは険しい顔をした。


そこでディリアスが思い出すのは元魔法師長が出した黒い玉。

あれは、禍々しい気配を放っていた。この世にあってはいけない物だと、感じ取った。


「でも、最強ランクの魔物にだって、勝ってるし。魔とか敵じゃないでしょ~」


ゼイルがからからと笑い、ユティシアも笑みを浮かべる。だがその瞳は、複雑な色を宿していた。


彼女は、警戒している。それも、魔物を易々と倒してしまう彼女さえも恐れるほど、とても大きな存在に、だ。


元魔法師と騎士団長が言った、あの言葉。

彼らの言う、力を貸してくれた主とは、誰なのか。そして、その主は何故、この国を狙ったのか。


彼女はきっと、何かを隠している。

彼女の澄み切った輝く瞳は、いつも変わらない。しかし、その瞳の奥深くには、ディリアスの知らない何かがある。


あまりに大きなものを背負っている彼女。

これから、逃げ出したくなるほどの困難が待ち受けているかもしれない。

あまりに無力な自分では、彼女の抱えている物を共に背負いきることは、出来ないのかもしれない。


だが、それでも。

彼女を支え続けていたいと思う。共に歩みたいと思ったのだ。


どうか、このまま―――――何も起こらずに過ぎ去ってくれることを、祈るばかりだ。






白銀の華は、闇を打ち払い、咲き誇った



その輝きは――――世界を動かし始める。




闇に咲く白銀の華  ―完―



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