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魔封じ2

風に舞うが1000P、闇に咲くが800Pに到達していました。また減るかもしれませんが…。

感謝をこめて(?)、ユティシアを除く皆さんが暴走します。


ユティシアの願いにより、ミーファの補助付きで入浴と着替えを許可し、それが終わるのを待っていたディリアスだったが――――。


「陛下、仕事に戻ってください…とローウェ様が」

リーゼがローウェの愚痴を伝えにやって来た。


ディリアスは心の中で舌打ちすると、着替え終わったばかりのユティシアを抱き上げて部屋を出た。


「ちょっと、陛下?どこへ行くつもりです」

「執務室だ」

「では私を置いて…」

「三日間分の掃除をしなければならないので、部屋には戻らないで下さい」

ミーファが逃げ道をふさいだ。…これでも二人の仲を応援しているのだ。



ローウェは悩んでいた。

他でもない王妃様の体が心配ではあるのだが…だが、王妃様にかかりっきりになると、きっと陛下は日が暮れても戻ってこないだろう。そうすると、この大量の書類をどうすればいいのだろうか。

実は、シャラ様の“面倒くさい書類は息子にでもやらせましょう”の一言が発端で陛下が城にいなかった際の書類が未処理のままで、しかも先ほどシャラ様が陛下の机の書類の間にその未決済分をこっそり忍ばせておいた――――だなんて言えはしないが。


先ほどリーゼに陛下をお呼びするよう言っておいたが…ゼイルもアルも執務室で休憩している現状を見たら、怒髪天を衝くのは間違いなさそうだ。


そんなことを考えていると、陛下が返ってきた―――王妃様を大事そうに腕に抱いて。


「陛下!?何をなさっていたので…」

ローウェはぎょっとした。

王妃様を見ると、ひどくぐったりとしていて、僅かに身じろぐ程度だ。これはまさか…。

ゼイルを見ると、同じことを考えているようだ。いつも能天気なはずのゼイルの顔は青くなっていた。

アルは…さすが10歳。全く分かっていないようで、首をかしげている。


「何か問題でもあるか?」

「大ありですよ!王妃様に何したんですか?」

「は?何のことだ?」

「へーか、俺はしょーじきに言った方が良いと思うね」


ディリアスは二人の会話に首をかしげるばかり。

ああ、狼の手から王妃様を取り戻したい―――ローウェとゼイルは心の中でそう叫ぶ。


そんな騒ぎを繰り広げていると、ドアがばんっと開け放たれる。


「ユティシアちゃんが回復したんですって?」


…そこでシャラは固まってしまった。


「いやぁぁぁぁ!何してるのよ、馬鹿息子!可愛いユティシアちゃんに…」


―――誰が見てもそうとしか見えないらしい。

現に、主人の危機を察知したのか、シルフィとアルヴィンが毛を逆立てていつの間にかディリアスの前に立ちはだかっている。


シルフィの攻撃にディリアスが気をとられている間に、アルヴィンが自由自在に伸びる尾を駆使してユティシアを取り戻す。


取り戻されたユティシアは、シャラに抱きしめられてローウェやゼイルに囲まれる。

「おーひさま、無事?」

「馬鹿息子に何されたの?私の部屋で心の傷を癒しなさい」

「王妃様、とりあえず陛下から離れましょう」

そして、四人と二匹はディリアスをきっと睨みつける。

アルも、状況が分からないながらも、師匠の危機に立ち上がったようだ。


ディリアスは意味の分からないまま、立っていた。これでは、自分が悪者のようではないか。

「ちょっと待て。落ち着いて話せば…」


その時、ディリアスに救世主が現れた。


「お父様~!!!」

険悪な雰囲気をフィーナの元気な声が打ち破る。


「お母様、元気になったの?」

空気を感じ取れない幼いフィーナは、目をキラキラさせてディリアスを見上げながら尋ねる。

「ああ、魔法の使い過ぎですごし疲れているようだけどな」

「疲れているの?」

心配そうな顔で、ディリアスを見る。

「大丈夫だ、すぐに良くなる」

「本当に?」

「ああ」

頭を優しく撫でられてフィーナは恥ずかしそうに笑みを浮かべた。


「…て、おーひさまへーかに襲われたんじゃないの?」

つい心の内を暴露してしまったゼイルを筆頭に、皆がディリアスに疑いの視線を向け続けている。

「誰が襲うかっ」

信用ならないディリアスの言葉は無視して、シャラはユティシアに尋ねる。

「ユティシアちゃん、本当に?」

「………は、い」


ユティシアに事実を確認すると、皆ほっと息を吐いた。


「魔力の暴走の後遺症で、倦怠感があるだけだ。変な誤解をするな」


まったく…とか言いつつも、そのままディリアスはユティシアを取り返し、膝にのせて執務を始めた。


ユティシアは困っていた。

先ほどの騒ぎから抵抗する気力もなく、状況に流されるしかないの、だが…。

それにしても、執務中の陛下の膝に乗っているなんて、邪魔になっているとしか思えない。しかし、陛下が離してくれる様子はない。

仕方なくユティシアはペンを持つ右手の邪魔にならないよう、陛下の左側の方に体をもたせ掛けた。そして、こてんと首を傾けて完全に体を預けると、ディリアスが笑って胸元にユティシアの頭を引き寄せた。


そのまま上機嫌な陛下は高速でペンを動かし、判を押していく。

…それこそ、シャラが入れた書類の存在に気づかないほどに。


「やっぱりすげーな、王妃様は。さすが俺の師匠」

「そうですね。最初は陛下が仕事を放棄されるかと気が気でなかったのですが、王妃様のおかげで逆にはかどっていますね」

「おーひさまは、へーかの原動力だねぇ」

3人は口々に感想を述べ合い、ユティシアを称賛している。


ちなみにシャラは騒ぎが収まると「つまんな~い」などと言いながらフィーナを連れて出て行った。…たいそうこの騒ぎを楽しんでいたらしい。


「そろそろ、休憩にするか」

席を立ちあがったディリアスが言った。

お前たちはすでに休憩しているようだが…などと、普段の調子なら嫌味の一つも飛び出しそうだが、ユティシアのおかげでそんなこともない。


「陛下、お茶を飲むときくらい下ろしてください」

「良いじゃないか、三日ぶりに顔を見たんだぞ。ユティは、寂しくなかったのか?」

「それは…陛下にはお会いしたかったですけど…」

「なら、口づけも許してくれるよな?」

とかなんとか、ソファの片側では甘い展開が繰り広げられている。

―――――もう片側のソファでは、二人の時間を邪魔しないようにと男三人が身を寄せて座っているのだが。


「おれ、砂糖いらねえわ」などとアルは紅茶にそのまま口を付け始める。二人も同意して紅茶に手を伸ばす。―――だって、目の前が激甘なんだもん…。


そんなこんなで、執務室の騒がしくも平和な時間は過ぎていく。


平穏で、明るい日々…それは、いつまで続くのか――――。






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