新たな襲撃者1
騎士団の行動力とリンの指揮のおかげで復興作業はすぐに取り掛かられ、順調に進んでいった。先ほどは、多くの村人の命も助けられたとの報告があった。
「陛下、私少しあちらの方も見て参りますね」
「ああ、気をつけて行って来い」
ディリアスはユティシアの頭を撫でて言った。
ユティシアはディリアスの視界から自分が消えたことを確認すると、人気のない森の方へ向かって歩いて行った。
するとそこにはおかしな模様の描かれた灰色のマントを身に纏っている一人の男が立っていた。
「また、我らが主の邪魔をしてくれたな、貴女は」
「やはり、貴方たちが関わっていましたか」
ユティシアは男に鋭い視線を向ける。
「まったく、主の野望は毎度毎度あなたによって阻まれる」
男は困ったように呟いた。
「―――――だが、今回はこれで終わりだと思うな。今回はとびきりの舞台を用意して差し上げた。貴女は、どうする?」
男は口の端を吊り上げ、にやりと笑った。
―――――――今頃、王都では何が起こっているだろうな?
男はそう言い残し、消えた。
ユティシアは慌てて森を抜けて皆のところへ戻った。
「ユティシア、どこに行ってたんだ?心配したぞ」
「それどころではないのです。今すぐ、王都に戻りましょう、陛下」
「ちょっと、落ち着け。いったい何が…」
その時、王都からゼイルの部下がシャラとローウェの命でやってきた。
「た、大変でございます。王都に、敵が攻め込んできております。シャラ様が、今すぐお戻りになるように…と」
「敵の数は?」
「約一万ほどです」
その数を聞いた途端ディリアスは目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「ユティシア、ゼイル、帰るぞ」
「ああ。アルヴィンは、どうする?」
ゼイルがいつもとは違う真剣な表情で、ディリアスに視線を向けた。
アルヴィンは戦力として手放せないところだが、ユティシアの話によるとアルヴィンは人を傷つけないようにしつけられている。連れて行ったところで、アルヴィンは人を攻撃できないだろうし、ユティシアが絶対に対人戦には手を出させないだろう。
「アルヴィンはこのまま魔物の駆除のためにこちらに残しておく。リン殿、こちらの復興はすべて任せた」
「分かったから、急いでいるなら早く行きなさい」
ディリアスは頷くとユティシアに目を向ける。
「ユティシア、魔力はあとどのくらい残っている?」
「まだ、全然大丈夫ですよ。3日以上戦い続けることもあるのですから」
ユティシアはにこりと笑った。
本来なら、最強ランクの魔物は今回の魔物よりも強い。何日も魔法を使いながら戦い続けることもあるのだから、それと比べれば今回の消費魔力はとても少ない。上級ランクから上がったばかりの魔物は、ユティシア相手にはあまりにも弱すぎた。
「だが、今回は戦う前にも魔力を消費しているだろう」
浄化や結界を張る魔法は、大量の魔力を使ったのではないか…ディリアスはそう考えると、ユティシアにはこれ以上魔法を使わせる訳にはいかないと考えていたのだが…。
「大丈夫です。だから早く行きますよ」
ユティシアはディリアスの心配をよそにさっさと呪文を唱えると、転移魔法を発動させた。
転移した先は、王都の広場だった。敵はもう、すぐそこに迫ってきていた。
そこで、敵のリーダーとしていたのは――――。
「元、魔法師長と騎士団長…か」
ディリアスが呟いた。
「お久しぶりですな、陛下…と王妃様?」
魔法師長が口端を吊り上げ、にやりと笑みを浮かべた。
ユティシアたちの目の前には、新たな敵が立ちはだかっていた。