魔物の襲来9
ゼイルはディリアスの側に付き添いながら、戦いを見ていた。
突然消えたと思ったユティシアとアルヴィンはいつの間にか魔物の近くに移動し、攻撃を開始していた。二人はすぐに魔物を圧倒し始め、その戦いぶりは見事なものだった。
アルヴィンがその素早さで魔物の攻撃をうまく避けながら注意を引き付け、ユティシアの剣が魔物を切り裂く。
アルヴィンの攻撃は俊敏で苛烈。
――一方、ユティシアの攻撃は美しく、流れるようだ。
彼女たちの織り成す戦いは、まるで優れた芸術作品の様だった。
ゼイルとディリアスはその美しい光景から目が離せなくなっていた。
ただ単純に強さに感嘆した訳ではない。彼女の動作の一つ一つから感じられる、何者にも侵しがたい美しさ。それは、神秘的ですらあった。
彼女が駆け巡る戦場の空気は、彼女の研ぎ澄まされた雰囲気によって、血生臭い戦いをしているとは思えないほど清廉に感じる…それこそ、神域に足を踏み入れたかのような。
二人の息の合った無駄のない戦いは、徐々に魔物を追い詰めていった。
「ユティシアちゃん、戦い慣れてんね〜」
ゼイルは目の前の光景が信じられず、見当違いの感想を述べた。
「白銀の舞姫……」
突然、怪我で喋る余裕もなかった筈のディリアスが呟いた。
「聞いたことがある…。かの者の戦いは舞姫の如く美しいものだと…」
――華麗に舞う剣は、見る者の心を奪ってしまうのだ…と。
黒い魔の霧の中で銀の魔力を纏い優雅に舞う彼女の姿は――闇に咲く一輪の華のようだった。
誰も払えなかった闇をいとも簡単に打ち負かしたその姿は、気高く、まさに高嶺の存在。
ディリアスは初めて彼女の存在が今までよりずっと遠くに、本当に手の届かない場所に行ったかのように思えた。彼女に近付けたと思ったのは、何だったのだろうか。
自分の無力さに苛立つより先に、最強と呼ばれる魔物をいとも簡単に倒したその強さに、畏怖の念を抱いた。
「それにしても…白銀の雪姫に、白銀の舞姫……か。似たような名をつけられるな」
「何で今まで気がつかなかったんだろうね〜?」
ゼイルが不思議そうにする。
「だが―――どちらの名も…ユティシアらしいな」
ディリアスはふ、と笑った。
ユティシアはユティシアだ。彼女自身に変わり無い。
―――自分が、一生涯愛すと決めた、望んで止まない存在に。