王妃を狙う者4
ユティシアは中庭に向かって歩いていた。今は、お披露目の後で城の中には賓客がたくさんいるのでにぎやかである。そんな中で、ユティシアがくつろげる場所は誰も人がいない中庭だった。
ディリアスは部屋を出る時に護衛をつけるよう言ったが、自分の散歩だけのために護衛などつけられない。
廊下を歩いていると、たくさんの人に視線を向けられる。お披露目以前に使っていた変身の魔法はディリアスによって禁止されたため、使えない。あれがあれば、誰にも見られずにすむのに。
「あら、あなたが噂の王妃様?」
中庭で花を見ていた時に声をかけてきたのは、知らない令嬢だった。昨日のお披露目にはいなかったはずだが。
その容姿は美しく、華やかである。着ているものを見ると、少なくとも中流以上の貴族家の令嬢のようだ。
「あの、どなたでしょう…?」
「私、体調不良で昨日のお披露目に出席できなかったんですの。でも、一目でも新しい王妃様にお会いしたいと思って、参りましたの」
口元に、美しい笑みを浮かべる。
普通、王妃に問われて名乗らないなどというのは無礼である。その態度だけで、自分がどれほど下に見られているのかが分かる。
「まさか、王妃様がこんなに素敵な方だとは思いませんでしたわ」
そう言ってユティシアの手を取り、強く握った。
「ありがとうございます」
令嬢の態度は明らかにおかしいが、何も気付いてないふりをして普通に接する。
「あなたは、もしかして陛下の側妃候補の一人ですか?」
「まあ、知っていらしたの?そうよ。昨日のお披露目で敵は消えたから、私が側妃に選ばれるのは、確実ね」
彼女の敵というのは、お披露目でユティシアに暴言を吐き、殴りかかろうとした女性のことだろう。
「どう?そちらでいっしょにお茶でもしませんこと?私が側妃として陛下のお傍に上がる前に、ぜひ親交を深めておきたいもの」
ユティシアは、中庭にあるテーブルで彼女と一緒にお茶を飲むことになった。
「どうです?これは、私のおすすめの茶葉ですのよ?」
令嬢はユティシアに紅茶を勧めてきた。礼を言って受け取った。
「では、私の作ったお菓子でもいかがです?」
ユティシアが取り出したのは、フルーツのパイだった。
「これは、他国で仕入れた珍しい果物が入っています。私のお気に入りなのですが…」
「まあ、王妃様の作られたものなの?嬉しいわ。ぜひ食べたいわ」
そう言って、令嬢はユティシアの手からそれを受け取り、口に含む。
「おいしいですわ。こんなの、初めてですわ」
そう言いながら、どんどん口に入れていく。
ユティシアはそれを見ながらユティシアはパイを一口、口に含む。そして、いい香りのする紅茶を飲んだ。
―――その瞬間、嫌な味が口の中に広がる。
ユティシアの身体は傾き、椅子から崩れ落ちた。
「ふふっ、うまくいきましたわ。馬鹿な女ね」
女は、先ほどとはまったく違う、嘲るような笑みを浮かべてユティシアを見ていた。