魔物の襲来1
ディリアスはユティシアの帰りを今か今かと待ち望んでいた。
――――魔法学校が、襲撃されたとの連絡が入りました。
先ほど受け取った報告…それは、ディリアスの心を乱した。
幸い、怪我人はいないとのことだったが、ユティシアの無事な姿を見るまでは安心できない。
…アルを、護衛につけたのは間違いだった。もっと信頼できる護衛をつければよかった。
ユティシアに頼み込まれ、安易に了承してしまった自分をディリアスは恨んだ。
「陛下、そろそろユティシア様がお帰りになる頃です」
ローウェにそう伝えられ、ディリアスはユティシアを迎えに行こうと、執務をする手をとめて立ち上がった。
―――その瞬間、ユティシアが移動魔法でアルと一緒に現れた。
「ユティ!…無事だったか?心配したぞ」
ディリアスはその身体をしっかりと抱きしめた。
「それより陛下、魔物の襲撃についての件ですが…」
そう言ってユティシアは自身を抱きしめるディリアスの手を払いのけるようにして魔物の襲撃事件の報告を始めようとする。
「そんなことは後だ。ユティシア、怪我はないか?恐ろしい目にあったのだろう?」
彼女の行為を不満げに思いながら、ディリアスは質問する。
「私のことは、後回しにして下さい」
「そんなことを言うな。俺がどれだけ心配したか分かっているのか」
「お願いです。国の、存亡に関わることなのです!」
痺れを切らしたユティシアが声を荒げた。
彼女が大声を出したことには驚いたが、ひどく焦っているような彼女の表情を見てディリアスもただ事ではないと考える。
「どういうことだ…?」
「まだ、確信はしておりません。とりあえず、過去の魔物の発生件数と、最近の魔物の発生場所、そのことに関する報告書を見せて下さい。…あと、犯罪件数や死亡者数についてもお願いします」
ディリアスは訳も分からないままそれらの資料を引っ張り出した。
「魔物の発生は確かに増えているが…」
「いいえ、それだけではありません。魔物の発生は王都の近くが多いですし、最近犯罪件数も増加しています」
資料を素早く見通していくユティシアは、内容を確認しながら話す。
本当に、ユティシアが何を考えているのか分からないディリアスは、ローウェとアルに視線を向けるが、二人とも分からないというように首を振った。
「それと陛下…以前、魔眼が黒い靄がかかったように見えないとおっしゃいましたよね。それは、今も変わりませんか?」
ディリアスは即座に魔眼を発動させ、周りを見る。
…確かに、黒いものが充満しているようだ。
「以前より、靄が濃くなっているようだ。今は、何も見えない…」
「そうですか…やはり…」
一人で納得しているユティシア。
「一体何だというのだ。魔物と、犯罪件数と、魔眼の不調がどう関係がある?」
ディリアスにユティシアが落ち着いて聞いてくださいね、という前置きをして口を開いた。
「この国に魔物が入り込んでいます―――それも、最強ランクのものが」
ユティシアの一言で、室内に激震が走った。
ようやくいい感じに話が進み始めました。
恋愛はまったく進みそうな雰囲気ではないですが…
質問を頂いたのでちょっと、補足。
話の中で、ユティシアさんに関して“白銀の舞姫”という名を出しましたが、あれは称号とかでも何でもなく、騎士団時代の彼女の異名です。