魔法学校1
「本当に良いのですか?」
「ああ」
そう言って、ディリアスはユティシアに数枚の紙を渡す。
その紙には『魔法学校訪問』と書かれてある。
初めて、王妃としての仕事をもらったのだ。
ユティシアの誘拐事件などがあり、周りを警戒していたディリアスは、なかなかユティシアが王妃として人の前に立つことを許してくれなかった。
「そろそろ良いのではないかと思っていた。最近は貴族も落ち着いてきたしな」
…ユティシアのおかげで。
ユティシアは気付いていないが、貴族たちは先日のお見合い騒動でユティシアに従う存在となっていた。王妃に心酔している貴族たちはもう彼女を利用して、どうこうしようとは思わないだろう。
「内容は書面の通り、魔法学校の訪問だ。ここなら警備もしっかりしているし、問題ないだろう」
ディリアスの言葉を聞きながら、ユティシアは魔法学校の紹介が書かれた冊子に目を通す。
魔法学校―――魔法師を育成するための王立学校で、魔法の才能がありさえすれば身分に関係なく入れるらしい。生徒はだいたい6歳から10代の年齢の者たちらしい。魔法師の数は国内にまだまだ少なく、この学校から巣立って行く生徒たちは国で重宝される存在となる。それだけに魔法師の卵たちは大切にされ、学校の警備も厳しいらしい。
「ありがとうございます、陛下!」
ユティシアは嬉しそうに言った。
その笑顔に、ディリアスも嬉しくなる。
正直、安心した。ユティシアはディリアスに子が出来ないことを告白して、精神的に不安定になっているかと思ったのだが、そんな様子はなさそうだ。
…そうか、王妃になった当初から悩んでいたのに、今さら気にすることもないか。
ずっと悩んできて、夫にも気付いてもらえなくて。そんな辛い状況を乗り越えてきたユティシアにとっては、今さら落ち込む必要などないのかもしれない。
「俺はついて行けないが、ゼイルを護衛として随行させるからな」
「ゼイルどの…ですか?」
「ああ、何か問題でも?」
「正直、アル殿のほうが良いのでは?護衛などの経験を積むことも大事ですし、何よりこの年で異例の出世をしているアル殿は生徒たちの憧れです」
「そうか…それもそうだな…」
ディリアスはしばらく考えて、アルを同行させると言った。
「…俺?」
魔法の訓練をしていたアルは、驚いた様子で言った。
最近はユティシアに指摘された魔法の制御に力を入れているようだ。まだまだ制御は甘いが、徐々にその術は精密なものになってきている。
自分の教え子なだけあって、その進歩は嬉しい。
「はい。私が推薦しました」
自分が抜擢された上に、王妃自身が推薦したと聞き、さらに目を丸くする。
「よろしくお願いしますね、アル殿」
ユティシアがにっこり笑って言った。