陛下のお見合い騒動4
ディリアスは星空を見上げていた。
今は視察のため、城から遠く離れたところにいる。
……早くユティシアに会いたい…
あの愛しい存在に触れていたい。早くあの綺麗な瞳に見つめて欲しい。
そう思わずにいられなかった。
ユティシアはどうしているのだろうか。きっと自分ほどに焦がれることはないのだろうと思うと、寂しくなる。
ユティシアはなぜ振り向いてくれないのだろう。…いや、それ以前にディリアスを男として見ようともしていない。
自分の容姿に自信のあったディリアスはどうすれば彼女の心を手に入れることができるのか、分からない。今までの女性はディリアスの整った顔を見るだけで頬を染めていたのに。
ユティシアは容姿で人を選ぶような人ではない。ユティシアは良いのか悪いのか、自分の容姿にも他人の容姿にも無頓着だ。誰にでも笑顔を振り撒き、男女問わず心を掴んでいる。
…その光景を目にするたびに嫉妬にかられずにはいられないのだ。
帰ったら、一番に彼女の顔を見よう。きっと、彼女は「お帰りなさい」と言って自分のもとに駆け寄って来てくれるはずだ。
…一方、ユティシアは、というと…
「さあ、陛下のいないうちに計画を練りますよ」
大臣たちも、おー!とか何とか言いながらユティシアの指示を待つ。
今回、大臣たちが集めた令嬢の情報は、約100人分だった。とはいっても、全員を陛下とお見合いさせるわけにはいかない。
「では、集められたご令嬢の中から、さらに厳しく審査して、20人選びます」
ユティシアは恐るべき速さで審査書類に目を通して行く。
貴族たちも、互いに話し合って候補を外していく。
その光景を見て、初老の大臣はにやにやと笑っていた。
驚くべきは、彼女のカリスマ性だ。気付かないうちに誰もが彼女に従っている。
お披露目では彼女の美しさと高い教養だけが人を認めさせる要素かと思っていたが…彼女の指揮能力は高く、皆自然に彼女について行ってしまうのだ。彼女の才能は国王と同等かもしれない。
―――――彼女は間違いなく人の上に立つ者だ。
この人なら、国を任せていいのでは…と不覚にも思ってしまった。
「彼女は教養も高く、陛下も気に入られるのでは?」
「いや、でも家格は低い方だぞ」
「では、こちらは?見た目もいいし、家柄も保証できる」
「そちらは…」
皆自分の身内を残すはずなのだが、会話の流れからするとそんなことは忘れ去って真面目に選んでいる。
…これも、王妃の力なのだろうか?
「さあっ20人まで絞れました。あとはお見合いの形式ですが…」
ユティシアが考え込んでると…
「では、まず全員で自己紹介するのがいいのではないですか?一人ずつだと陛下が途中で逃げるかもしれません」
「そうだな…どの令嬢にも平等に機会を与えなければ」
「――――――」
「――――――」
周りのものは一斉に意見を出し始めた。
…それはもう、会議ではありえないくらい積極的に。
何度か討論を重ねた結果、完璧なお見合い計画が出来上がった。
ユティシアは満足げだった。
……これほど完璧な計画はない。きっと陛下も良い妃を選んでくれるのではないか…と。
「計画は完成しました。では、陛下のご帰還の翌日にお会いしましょう」
帰還の翌日…それこそがディリアスのお見合いの日だ。
貴族たちはこの計画の完成に満足して喜び合っていて、まさか悪夢を見ることになろうとは思いもしなかった。