新しい魔法師長4
「いいの~?へーか」
「何が、だ?」
「ユティシアちゃんアルに完全に取られちゃってるけど」
「仕方がないだろう。彼を教えられるのはユティだけだ」
「またまたそんなこと言って~。強がってない?」
「ない」
「おーひ様とアルの方が年は近いんだよ?4歳差」
それまでゼイルの言葉を気にも留めてなかったディリアスがぴくり、と反応する。
愛情に年の差なんて関係ない!とか言うかと思ったら、意外と年齢のことは気にしてんだな。ユティシアちゃん16だもんな~。へーかなんて彼女から見たらおっさ…いやいやこれ以上言うと危険だ。
「隙ありっ!」
ゼイルがディリアスに切りかかった。
ディリアスは避けたが間に合わず、胸の辺りを斜めに切られた。
血がにじんできて服が赤く染まっていく。
「そんな動揺してて大丈夫~?」
「貴様…」
「あっほらほらおーひ様が呼んでるよ。早く行ってあげないと」
ユティシアのほうを見ると確かに自分を呼んでいた。
「覚えていろよ、ゼイル」
ディリアスはゼイルの喉元に剣を突きつけて言った。
「あっぶね~」
ゼイルはこのとき本気で命の危険を感じたのだった。
「さて、他にも例を見せましょうか。アル殿、治癒魔法は、使えますか?」
「治癒魔法なんて、特別な奴らしか使えねぇもんだろ?」
治癒魔法を使うにはたくさんの修行がいるため、どうしてもそれだけに特化してしまう。気軽に使える魔法ではない。戦闘用の魔法を学ぶような者には使えないのが一般的だ。
…ユティシアは治癒魔法を使うことができるが。
「そうですね。でも、アル殿でも使える方法があるのです」
「本当か!」
「陛下。ちょっとこちらへ」
ユティシアが呼ぶと、ゼイルとの戦闘を中断してこちらへやって来た。
「何だ?」
「実験台になってもらいます」
「な…」
ユティシアが呼ぶから来てみれば、アルの魔法の授業の実験台か…ディリアスは少し悲しくなった。アルをユティシアから離そうかと本気で考えてしまった。
「では…よく見てて下さい」
ユティシアがディリアスの胸の傷に手をかざし、魔法を唱える。
あっという間に傷は治ってしまった…さらに、破れた服も一緒に直っていた。
「治癒魔法ではない…?」
治療を施されたディリアスは驚いているようだ。
「アル殿。今、私が何をしたか分かりましたか?」
「修復魔法…?」
いまいち確信が持てない。修復魔法は、壊れたものを直すときなどに使う初歩の魔法だ。魔法が及ぶ範囲は…モノだけであるはずだ。人に使用するなんて、聞いたことがない。
「正解です。これも、発想の転換ですね。人をモノとして認識することにより、人への適用が可能になります」
「へえ。お前、本当にすげーな!」
ユティシアはアルの頭を撫でる。
本当に素直に聞いてくれるので、教えているこちらが嬉しくなってくる。
…何だか弟ができたみたいで、アルが可愛かった。
アルは年下だし、まだまだ子どもだ。ユティシアもそういう対象としては見ないだろう…おそらくは。…だが、やはり気に食わない。彼のせいでユティシアとの時間が減るのは確実だ。
ディリアスは軽く苛立ちながらその光景を見ていた。