新しい魔法師長3
試合が終わると、ユティシアはさっそく指導を始める。
ディリアスとゼイルは剣で模擬試合をすると言って他の騎士たちに混ざって剣を振るっている。
「てか、魔法の試合なのに最後のあれは無しだろ!」
アルが叫んだ。
「すいません」
「まあ…いいけどよ」
ふんっとアルがそっぽを向く。
「これから、どんな戦闘にも対応できるように私が育ててみせますよ」
「は?魔法師は後方支援が主だろ?何言って…」
「他人に守ってもらわなければ魔法が使えないなんて、悔しくないですか?」
「………」
これは肯定だろう。
「いずれは、魔物も倒せるようになってもらいますね」
ユティシアはふふっと笑った。
「さて、アル殿は魔法の制御が少し苦手ですね。それに、攻撃魔法以外は苦手でしょう?」
アルには決定的な弱点がある。攻撃魔法以外使えないことだ。今までは彼より強い者がいなかったから圧倒的な力で押し切ることが可能だったが、自分より同等かそれ以上の者と対峙した時は防御の魔法が必要不可欠だ。
「ああ…防御とか幻術とかそんな魔法は性に合わない」
確かにアルは正面から突っ込むほうが似合うと思うが…それだけでなく、魔力が大きいことも起因していると推測する。ユティシアも同じだが、魔力が大きいと魔法の扱いが難しくなる者がいる。
アルは魔力を持て余しているのが分かる。魔法を使う際に魔力を無駄に消費しすぎている。そのために魔力の消耗が激しく、一度の戦闘で使える魔法が減ってしまう。
「ではまず、防御の方を何とかしましょうか。アル殿、私に炎の魔法を放ってください」
アルは、上級魔法を使って炎の玉を放った。
ユティシアは手を振り上げて呪文を唱える。
ユティシアは別に呪文を唱えなくても魔法を使える。最上級の強さの魔物と対峙する際に悠長にそんなことをしている暇はない。
別に呪文無しでもいいが…呪文を使ったほうが確実だし苦手な術の制御もちょっとはましになる。
水の滝が現れ、ユティシアに向かって飛んできた炎を防いだ。
滝にぶつかった瞬間水蒸気が上がったが、それ以外変化はなかった。
「おおっ!」
アルが感嘆の声を上げる。
これは普通、攻撃魔法として使われるものだ。
ユティシアは水の滝によって自分への攻撃を阻むようにした。
「何事でも、発想の転換が必要なんです。分かりますね?」
「ああ!」
「アル殿は攻撃魔法が得意でしょう?わざわざ苦手なものを使って失敗する危険を伴うよりは、攻撃魔法を生かして戦闘を組み立てていけばいいんです」
「お前、すげーな!」
アルの目がきらきらと輝く。
アルは教えがいのある生徒だと思う。すごくよく話を聞いてくれる。正直、指導などしたことがなかったのでうまくいくか心配だった。
本当にこの子は、魔法のことになると目が輝くな。普段も自分の感情に素直になればいいのに…ユティシアはそんなことを考えていた。