王妃を狙う者1
初めて読む方はある程度、前作「風に舞う白銀の華」を読んでおいた方がいいかもしれません。
大陸で広大な領土を持ち、強い力を持つ大国ディスタール。王妃を亡くした国王ディリアスは、新しい王妃として側妃であるティシャールの元王女、ユティシア・ティシャールを選んだ。彼女は4年前にディスタール国を飛び出し、消息不明となっていた姫だった。国王の深い寵愛を受ける彼女の評判は非常に悪く様々な噂が流れていたが、彼女の本当の姿を知るものはいなかった。国王はお披露目によってようやく彼女の姿を人々に見せたのだった。
ユティシアはお披露目を無事に終え、自室にいた。お披露目は、うまくいったと思う。貴族達への評判は、多少は改善されたのではないかと。
…とはいっても、元々醜聞の多いユティシアの評判がそう簡単に改善されるはずもない。
お披露目を何とか乗り切り、疲れているので休むのかと思いきや…机の上にどさっと大量の本をのせ、その一つを手にとり読み始めた。
ユティシアは騎士団の転移門から大陸中を駆け回り仕事をしていたので、色々な国の書物をたくさん持っている。最近はお披露目などで忙しくて読む暇がなかったので、徹夜で読破するつもりだった。
ユティシアは時間も忘れ、ひたすら本に没頭していた。
コンコン、とノックの音が響き、がちゃり、と扉の開く音がした。その扉は、王妃の間から王の間へと繋がっているものだ。
――案の定、姿を現したのは王だった。風呂あがりのその姿はご婦人が見れば卒倒するだろう。濡れた茶色の髪に、強い輝きを放っている王家特有の金の瞳。あまりにも整った彼の容貌は、女性的な美しさではなく、男性らしい精悍さがある。
ディリアスはユティ、と声をかけるが、ユティシアは本を一生懸命読むあまりか、王の方を向こうともしない。
「ユティ、もう寝るぞ」
ディリアスの存在に気付き、ユティシアはやっと顔を上げた。
ディリアスはもう一度、寝るぞ、と言った。
「?どうぞ、お休みになってください」
それならば、休めばいい。陛下はお披露目のために今まで睡眠も削って頑張ってきたようなのだから。ユティシアはそう思ったのだが、ディリアスが眉をひそめているところを見ると、そういう問題ではないらしい。
ディリアスはきょとんと首を傾げるユティシアを見て、ため息をついた。
…お披露目で正式に王妃として認められた今日の夜は、ディリアスにとって初夜と同等の意味を持っていたのだが、ユティシアはまったくそんな気がない。まあ、期待はしていなかったが。…でも、王妃の部屋を訪れた時点で少しでも察して欲しかった。
「そうではなく、一緒に寝ようと言っている」
ディリアスがベッドに腰掛ける。…が、いつも従順なはずのユティシアは動こうとしない。
ディリアスはむっとした様子でユティシアの元に歩み寄る。熱心に読んでいた本をユティシアの手から取り上げた。
「陛下…」
抗議の声をあげようとしたユティシアは、体がふわりと浮き上がるのを感じた。
「ちょ、ちょっと…陛下!?」
ユティシアはディリアスに抱き上げられていた。ユティシアはとっさにディリアスの首に抱きついた。
「さっさと寝るぞ」
とさ、とユティシアをベッドに下ろすと、ユティシアを抱き込んで布団に潜る。
「お休み、ユティ」
ディリアスが額にキスをすると、ユティシアは諦めたのか、静かに目を閉じ眠りについた。
再び、白銀復活です。
また、前回同様短く区切って話を載せていきたいと思います。
短くて満足できない方や、1話が短すぎると話の流れが分かりにくい、という方、それとも短い方が読みやすいのでこのままがいい、という方がいらっしゃいましたら、ご意見ください。
作者は、その辺よく分からないので、どうやって載せようか正直迷っています。