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5 チートを検証したい

 どうも、あれから祖母にどやされながら料理の練習をしている異世界転生幼女の元おっさん、アシェットです。

 この世界に転生して、随分と時間が経った。

 魔術の制御の練習や、書斎での読書。

 それから最近は料理の練習と、転生直後の暇な時期に比べたら、随分とやることが増えてきた。

 昔は祖母も自分の部屋にこもりっきりで、私が外に出てこっそりチートの練習をする時間もあったのに。

 今ではすっかり、祖母の目が家のいたるところにある。

 ちょっとでもチート――固有魔術の練習をすれば、即バレてしまう状況だ。


 とはいえ、この能力について何も知らないというわけには行かないだろう。

 祖母は祖母で、私の固有魔術について段階的に教えてくれると言うけれど、私は私で祖母に教えていない部分の検証をしたい。

 何のことかと言えば、言語チートだ。

 流石に言語チートのことを話すのは憚られるし、この能力に危険性はない。

 読んじゃいけない禁書とかをうっかり読んじゃう可能性とかはあるかもしれないけど、流石にそれは祖母が排除してくれているはず。


 まずそもそも、固有魔術とは何なのか……という話。

 これに関しては以前、祖母が講義の中で簡単に説明してくれた。


「まず、固有魔術ってのは、特定個人にしか使えない魔術のことさ。ただ、これ以外の定義は非常に多岐にわたる。というのも、一言で固有魔術といってもその効果は様々なんだよ」

「どんなものがあるんだ?」

「本当に無数にあるのさ。一説には、この世に全く同じ効果を持つ固有魔術は存在しないとすら言われている。なんだったら、固有魔術を手に入れる経緯も人によって違うからね」


 そもそも固有魔術は、生まれつきそれを使えるとは限らないらしい。

 途中から後付で付与されたり、他者から受け継いだり。

 中には生まれた時から持っていたけど使うことができず、死の淵に立たされたことで”覚醒”するなんてこともあるそうな。


「あくまで他の人間には使えない魔術を、固有魔術って一括りに呼んでるだけだからね」

「それで結局、私の固有魔術はどんな効果なんだ?」

「そいつはもっと魔術に関する理解が進んでからだよ」


 まぁ、私の固有魔術に関してははぐらかされてしまったけど。

 とはいえこのときの私は、まだ両親の書斎を開放してもらっていなかった。

 現在は両親の書斎から自分の手で情報を集めることも、講義の一つになっている。

 だったら自分で情報を集め、固有魔術に関する理解を深めるのは問題ないだろう、という判断。


 さて、私の固有魔術の効果は二つ。

 一つは光をぶっぱする能力。

 そしてもう一つが言語チート。

 この二つ、正直一見すると何の繋がりもないように思える。

 だけど固有魔術とは一人につき一つしか持つことができないそうなので、この二つは同じ魔術の別側面だ。

 であれば、はたして私の固有魔術はどういったものなのだろう。

 ヒントは言語チートの特性にあると思う。

 言語チートは、言ってしまえば”翻訳”のチートだ。

 この世界には翻訳魔術なんてものが存在していて、私の言語チートはこれとよく似ている。

 だから翻訳魔術の由来を調べれば、自然と言語チートの由来にも行き着くはずなのだ。


「えーと、翻訳魔術に関する本は……これか」


 早速書斎を漁って、目当ての本を見つけることができた。

 分厚い装丁の本は他と比べても何度もこれを読んだ形跡が見て取れる。

 両親は、この本を相当読み込んでいたようだ。


「翻訳魔術は、大精霊が持つ権能の一つを模倣したもの……?」


 大精霊。

 前に本で読んだことが在るけれど、この世界は六人の精霊が創った世界らしい。

 ようするに、精霊とは神のことなんだけど、精霊にも様々な種類がある。

 中にはお菓子でつられて”契約”を結び、人間にこき使われるブラック社畜精霊もいるそうだ。

 ただ、大精霊に関しては、世界の創造主に分類されるとんでもない存在。

 六人いることから六大精霊とも呼ばれるそうな。

 そんな大精霊の権能と同じ物を、私が固有魔術で使っている?

 前世の記憶を持っていることも、そうなってくると無関係には思えない。

 試してみる必要が、ある。


「たしか、普通の翻訳魔術では、あるものが翻訳できないんだったな」


 といっても、検証はこの場じゃできない。

 危険すぎるからな。

 そういうわけで翌日、魔術の講義の時間。

 正確に言うと、講義の時間の一部である魔術制御の時間だ。

 外に出て、祖母の見ている前で魔術を使う。


「ばあさま。少し試してみたいことがあるから、新しい呪文を使うよ」

「試してみたいこと? 言っとくけど、上級魔術はダメだからね」

「違う。翻訳魔術」

「――なるほど」


 ばあさまは、私が何を試したいのかその一言で、即座に看破したらしい。

 というか、私が言語チートに関して色々調べていることも、察しがついていたのか?

 言語チートについて話せないから、説明を求められたら秘密としか言えなかったんだけど。

 だったら、もっと素直に祖母から話を聞いても良かったかもしれない。


「”(こと)ほぎの魂魄”」


 現在、私は魔術制御が上手く行っていない。

 だけどそれは、あくまで魔力を込めすぎてしまうことが原因だ。

 だからあくまで制御が上手く行かないのは攻撃系の魔術だけ。

 たとえばこれが破壊を伴わない魔術であれば、効果が強すぎるだけで発動しても周囲を爆破したりはしない。

 翻訳魔術も、問題なく効果を発揮する。

 そのうえで私は、自前の言語チートをオフにした。


「ばあさま、ちょっと見てて」

「あいよ」


 うん、問題なく会話ができている。

 そのうえで今回、私はある魔術を言語チートなしでも使うために呪文を覚えてきた。

 そう、翻訳魔術で翻訳できない言葉とは、すなわち――


「”■■■■■■(営みの灯火)”」


 呪文だ。

 この世界において呪文は、既存の言語とは全く違う別の言語らしい。

 だから翻訳魔術でも翻訳できないのだが、私の言語チートではばっちり普通の日本語として聞き取る事が可能。

 そしてこの全く違う別の言語を誰が使うのかと言えば――大精霊だそうな。


「威力は弱いが、着弾地点がズレてるね。呪文の詠唱が正確じゃないよ」

「普段なら威力が高い代わりに、着弾地点は正確。だったら普段通りに呪文を使ったほうがいいな」


 私の固有魔術が大精霊に由来するものであることは、わかった。

 ばあさまに聞けば、その事を詳しく説明してくれるだろう。

 でもそれに関しては、既に知っていることを改めて整理してくれる感じになるはず。

 なので、私は別のことを続けて検証することにした。

 もう一度、魔術の行使を行う。

 今度は――


「”営みの種火”」


 言語チートありで。

 すると発動した魔術は、威力が弱く着弾地点も正確だった。

 というよりも――これがおそらく、本来の生活魔術の効果だろう。

 一見すると私は、魔術の制御に成功したように見える。

 ただしこれは正確じゃない。


「ほぉ、固有魔術で新しい魔術を創ったか。なかなかいいところまで理解が進んでるじゃないかい」

「私には魔術の呪文が普通の言葉に聞こえるんだ。だから、その言葉を少し別の言葉にした。効果が下がりそうな言葉に」


 灯火を、種火にしてみたのだ。

 火の勢いは明らかに種火の方が弱そうで、実際魔術の効果も減衰している。

 ただ――


「でもダメだね、それを人前で使ったら大騒ぎになるよ。お前さんの固有魔術を人に喧伝してるようなものでもある。いくらなんでも、使っていいとは言えないね」

「だよなぁ」


 ――バレバレである。

 まぁ、明らかに呪文の単語が普通とは違うからな。

 この世界だと、呪文を作ることはほぼ不可能といってもいいらしい。

 そもそも呪文に使われている言語が、人間には理解できず、効果のあるものを何とか解析して使っているにすぎないから当然だけど。

 とはいえ、これに関しても解決策はある。


「でも見てて」

「あん?」


 私はもう一度魔術を使う。


「”営みの灯火”」

「……っ!?」


 再び、普通の火を生み出す生活魔術を行使し――今度は、小さな火を生み出すことに成功した。

 その時、祖母は珍しく目を見開いて驚きを見せる。

 なんとなく、普段は私のやることを概ね見通しているように思える祖母が、だ。


「な、なにをしたんだい!?」

「意訳したんだ」


 意訳。

 それはすなわち、言語チートの特性を活かした方法。

 言語チートは割とざっくり、この世界の人の言葉を私に理解できるよう翻訳してくれる。

 具体的には、祖母の「適当(アシェット)」という言葉と「適当()」という言葉をいい感じに使い分けてくれるのだ。

 だったら、私にとっては「種火」という言葉だけど、周囲には「灯火」に聞こえるよう言語チートへ変換を頼むこともできるだろう。

 制御の難しい光線ぶっぱとちがって、こっちはかなり自由自在に扱えるのだから。


「は、はは……こりゃ驚いたね。流石にそれはあたしも考えたことなかったよ」

「これなら、下位互換の呪文を用意すれば私も、魔術を制御できたって言えるよな?」

「あたしとしちゃ、その乱暴すぎる案はとうてい認め難いが……そうだね、仕方ない。確かにそれなら、魔術の制御はできる」


 そして、祖母は諦めたように嘆息してから、笑みを浮かべた。



「少しはマシになったじゃないか、アシェット」



 それは、なんというか。

 祖母にとっては――ばあさまにとっては、ごくごく普通の称賛だったのかもしれない。

 でも、どうしてか――この時私の心に浮かんだ嬉しさは、とてもじゃないけど言葉にできるものではなかった。


「ばあさま!」

「うお、なんだい急にこっちに飛び込んできて、危ないじゃないかい」


 ばあさまは、いつも通りのお小言を口にしつつも、ばあさまにだきついた私を抱きとめる。

 その声音は、普段よりなんだか明るいものに見えた。

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