2 魔術を学ぶことになった!
どうも、あのあと般若と化した祖母に叱られた異世界転生幼女の元おっさん、アシェットです。
祖母いわく。
「その適当極まりない制御がなんとかなるまで、お前さんの固有魔術は使うんじゃないよ!」
とのこと。
適当極まりないなんて、私のことをよく解ってらっしゃる……
普段は自分の部屋に籠もって何かしてばっかりだと思っていたけれど、祖母は私のことをよく見ていたようだ。
しかしそうやら、私のチートに対するアプローチは色々と間違っていたらしい。
まず、私は人と比べて魔力量が膨大であるらしい。
そこに加えて、固有魔術という「自分の意志一つで起動できる魔術」を扱える特異体質。
私が使っていたあの光は、固有魔術の効果だったわけだ。
まぁ、やっちまったのはそこじゃない。
出力を絞ろうとしたことが問題らしいのだ。
というのも、私は普段からあまり器用な方ではない。
感覚でやろうとして、上手く行かねぇなこれ……みたいなことが多々ある。
そんな人間が感覚だけで出力の調整なんてできるはずもなく。
私のやっていたのは出力の調整ではなく、手から放たれようとする高出力の魔力を、体内の別の魔力で強引に抑えていたらしい。
こうすると、それはもうすごい勢いで魔力が消費されていく。
魔力は消費すればするほど成長するから、私の魔力は倍々に増えていき――
――ちょっとその総量は、祖母でも計測できないほどにまで達しているらしい。
やば……
とか思いながら話を聞いていたら、頭をチョップされた。
これは……痛い。
「いいかい、アンタに必要なのはその固有魔術を操る方法じゃない。制御する方法さ! そのためには魔術の基礎をしっかり体に叩き込んでもらうよ!」
「わかった、ばあさま」
心のなかでは祖母、と呼ぶことが多いけれど、祖母の前では私は彼女をばあさまと呼ぶ。
白髪に染まった長髪と、きつい目つき。
ゆったりとしたローブを来た、如何にも厳しそうな魔女の老婆。
ばあさまという呼び方が、一番しっくり来るのだから仕方ない。
「それにしてもばあさま、魔術を教えてくれるのか? 私もやっと魔術がつかえるんだな」
「まったく、魔術って聞いただけで現金だねぇ。一体だれに似たんだか……それと、あくまで教えるのはお前さんの制御のためだ。その適当極まりない制御を、少しはマシになるようにしてやるから、覚悟しときな!」
「はい、ばあさま!」
普段の話し方は、あまり性別を意識しない話し方を心がけている。
男っぽい口調を避けて、さりとて女性らしい口調で通すこともできず。
だからなんとも野暮ったい話し方になってはいるけれど、幼子が舌っ足らずに喋っているとなればそこまで変なことではない。
成長しても、ちょっと変な女性程度で通せるだろう感じで落ち着いていた。
それはそれとして、魔術だ。
魔術といえば、オタクの夢と憧れ。
異世界に来たからには、一度は学んでみたい分野。
それを、プロの魔術師であろうばあさまに教えてもらえるなんて。
これは適当極まりない私でも、異世界転生で少しはマシになれるんじゃないか?
そんな期待に胸を膨らませて、私は祖母と魔術の練習を開始した。
◯
――が、祖母の見立てはちょっと甘かったらしい。
「”営みの灯火”!」
私がそう言って、家の外に設置されていた火のついていない焚火の種……なんていうんだこれ……? に手をかざして、魔術を行使する。
すると――
一瞬にして、木の束が燃え尽きて灰と化した。
「…………」
「…………」
祖母と二人して沈黙する。
あきれた様子の祖母と、何とも言えない顔の私。
しばらくお互いにそうした後、ほとんど示し合わせたようにお互いに顔を向けあって。
「……へへ」
乾いた笑いを浮かべた私の頭に、祖母の紙の束によるチョップが降り注いだ。
パコン。
その紙の束は、私が魔術を勉強するために祖母が一から書いた教科書だ。
今は実践の場なので、祖母が手に持っているけど。
「……んで、なんだい今のは。あたしゃね、生活魔術を使えって言ったんだよ。木の束を一瞬で灰にする上級攻撃魔術を使えとは言ってないんだ」
「い、今のは上級攻撃魔術ではない……生活魔術だ……?」
パコン。
オタクのよくないところを、祖母に叩かれてしまった。
あまりいたくはない頭をさすりつつ、私は祖母に魔術を使った感想を伝える。
「私は普通に魔術を使っただけのつもりだったんだ……」
「今のお前さんに、普通なんて感覚あるわけないだろ。いいかい、魔術ってのは繊細なんだ」
――そもそもこの世界における魔術というのは、体内の魔力を物理現象に変換する行為をさすらしい。
起こせる変化は多岐にわたり、火をおこしたり傷を治したり、時には無数の素材から一つのアイテムを作り出す錬金なんてことも可能。
ただその発動には、魔術を発動するというイメージが非常に重要になってくる。
「いいかい、魔術には様々な呪文が存在するけどね、それは言ってしまえば一つの金型にすぎないんだ」
祖母の言う生活魔術は、生活で使うのに便利な火を起こしたり水を出したりする異世界モノだとよくあるやつ。
他にも魔術はその効果によって様々な分類分けがされる。
攻撃魔術とか、治癒魔術とか。
さらには強さによっても中級とか上級とか頭についたりして、なんにもついてない一番したの等級は無印とか下級とか呼ばれたりもするそうな。
「その金型に精密に魔力を注ぎ込み、そして呪文を口にすることで正確な魔術行使が出来るってわけさ。お前さんの場合は、発射のタイミングで金型が魔力の量に耐えきれず爆発してるね」
「なるほど……」
「まったく。魔術そのものを発動できない人間はそこまで珍しくもないけど、発動できるのに制御ができないなんて初めて聞いたよ」
それは多分、私の中にある数多のファンタジー世界の知識のおかげで、大雑把な魔術のイメージをきちんと形成できているからだろう。
漠然と魔術を使うことはできても、根本的なイメージがこの世界にアジャストされていないうえ、私自身の適当さがそれに拍車をかけている、と。
「とにかく、基本的な部分の理屈は解ってんだ。その年にしては少しはマシなもんさね。だからその適当極まりない制御を少しでも安定させんだよ!」
「どうすればいい、ばあさま」
「反復しかないのさ。何度もやって体に馴染ませな。とりあえず……十二……十三……十五……十二までには一端の魔術師にしてやるよ」
「だいぶ妥協しようとしている」
うっさいね、と言われて私は魔術の反復練習へと戻される。
やっていることは、結局以前の出力を抑える練習と変わらない。
何度も何度も同じ事をして、少しずつ制御方法を覚えていく。
その間に、祖母の講義を聞いて魔術への理解を深めていくのだ。
講義は聞いていてたまに話についていけないこともあるけれど、なんとか祖母は丁寧に解るまで教えてくれようとしている。
学生時代の授業や会社の研修を思い出して、時折なんとなく気だるさを覚えることもあるけれど。
まぁ、何とかかんとか、私は魔術の勉強を進めていた。
で、そんな私が魔術を盛大に暴発させている横で、祖母は何やら腕を組んで考え事をしていた。
「……この子の魔術制御は本当になんでこんな雑なのかってくらい雑だけど、まぁあのバカ息子と違って発動できてるだけ十分見込みはある。というかこれくらい雑なら普通は発動できないはずだよ。そう考えると……むしろこの子の才能は異常とすら言える」
ばあさまばあさま、聞こえてますよ。
と言おうかと思ったけど、なんだか面白そうな話なので沈黙を選ぶ。
「何よりおかしいのは、魔術の制御は味噌っかすなのに、魔術の発動には全く難儀してないことだ。流石に危なっかしくて使わせらんないけど、多分上級攻撃魔術も発動だけならすんなり成功する。とすると――」
なんだか少し照れてしまう部分と、思いっきり貶されてる部分でどう反応すればいいのかわからない。
聞こえていることがバレないように、反応を極力示さないほうが無難だな。
「――使えるかもしれないね。この子なら……聖級魔術が」
おお、なんかそれっぽいワード。
「…………この子の固有魔術の方が、聖級よりよっぽどおかしいしね」
な、なるほど……とりあえずこの話が発展することはなさそうなので、私は制御の練習に戻るのだった。




