59話 話聞いてくれないと呪われちゃうよ!
広く、そして立派な内装だった。
部屋の端にはいたるところに宝飾品が飾ってあり、天井から吊り下げられたシャンデリアもかなりの迫力がある。
そんな室内の最奥、大きな机に肘をついて、クローヴィス王は座っていた。
その眉間には深いしわが刻まれており、その顔にはもはや「不服」と書かれている。
レイナルトに向ける視線も、ぞっとするほど鋭いし、確実に激おこだ。
「なぜここにいる、レイナルト」
予想通りの問いから入ってくる。
「話があってまいりました」
それにこう答えるレイナルトの声は、少しばかり震えていた。
やはりいざ対面すると、その圧はかなりのものらしい。
「お前には北方での重要な渉外活動を任せていた。それはどうした」
「……お言葉ですが、あの活動に意味があるとは思えません」
「なるほど。勝手にそう判断したわけか」
その怒りは、一向に収まりそうになかった。
クローヴィス王はここで大きなため息をつくと、おもむろに椅子から立ち上がる。
そのうえで、こちらに背を向けて、「出ていけ」とにべもなく言い放つ。
これにレイナルトとリディアは、目を見合わせた。
たぶん、ここまで明白に拒否されることは、想定していなかったのだろう。
どうすればいいのか迷っているようだ。
たしかに、ここまでされてしまったら、どうしようもない。前世での私の母も、よく同じようにして対話を拒んでいたから、その手詰まり感はよく分かる。
これを打開するにはどうすればいいか。
実践したことこそないが、私はその答えも持ち合わせていた。
決意を固めて、前へと勇み出る。
リディアとレイナルトが「アイ」と呼びかける中でも私は足を止めず、クローヴィス王の正面に回り込む。
「話聞いてくれないと呪われちゃうよ!」
そして、こう言い放った。
うん、当然だけど、きょとんとされる。
クローヴィス王は口をぽかりと開け、呆気に取られていた。
「……なにを言っている」
「そのまんまだよ。呪われちゃうの」
もちろん、そんなこと信じてはないんだけどね。
でも、どうにか押し倒す。
いわば、子どもにしか出来ない、無邪気作戦である。
こっちが大人にならなければ、意思を押し通すくらいはできるのだ。
クローヴィス王は私の言葉にまだ戸惑っているようだった。
そのうちに、レイナルトとリディアは、私の後ろへとやってくる。
「父上がどうして一人の女性を選ばせないのかは分かる。あなたの元想い人のことも知っています。その人が母上ではないことも」
そして飛び出すのは、こんな話だ。
「あなたは一人の女性に入れ込み、子もできないまま亡くして、深い傷を負った。私には同じ思いをさせないように、そう言うのでしょう」
納得のいく話であった。
たしかにそんな過去があったならば、レイナルトとリディアが接近するのを止めようとするのも理解できる。
たぶん子を作るためだけに再婚して、レイナルトら兄弟が産まれたのだ。
「……お前、どこでそれを」
「母上が使用人と話されているのを、かつて」
「…………そうか」
「父上。私には、覚悟ができています。たとえばこれからなにが起きても、誰が現れようとも、アイとリディ、二人と共にありたい。そう思うのです」
気持ちいいくらい、まっすぐな言葉だった。
その想いはたしかに胸奥に響いてくる。
「……私からもお願いいたします。なにも、アイを王女にするつもりもございません。ただこの子にも、……私にも、レイナルトは必要なのです」
「私も二人と一緒がいい!」
これ以上ない。
そう思うくらいには、しっかり意思を伝えることができていた。
あとはもう、判断を待つしかできない。
このうえでももし拒否されるのならば、そのときは三歳児らしく駄々でもこねて、イヤイヤ期でも演じようか。
私はそう企んでいたのだけど、結果としてその機会は訪れなかった。
消極的に、でも一応、
「お前の考えは分かった、勝手にすればいい」
そう言ってくれたからだ。




