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51話 レイナルトに会いに行きます!(道は険しいです)


ずいぶん北方まで来たこともある。

身体が芯から寒くなるような冷え込みだったから、私は宿に着くなり、ベッドに飛び込み毛布にくるまり、頭だけを出す。


「ふふ、確かに寒いわよね。それ、あったかい?」

「うん。ママもやってみて」

「そうね。せっかくだし」


そう言うとリディアは私の真似をして、毛布にくるまる。


その状態でお話をしていたら、部屋の扉が一つ叩かれた。


「リディア、少し話をさせてくれ」


エレン爺だ。

二人用の部屋しかないから、彼は一人で泊まっているのだ。


リディアは出られなくなってしまったのだろう。毛布を頭に被ったまま応じる。


「……なにをやっているんだ?」

「アイが教えてくれたんですよ」


リディアとともに、部屋の中にエレン爺が入ってくる。


そうして私を一目見た彼はと言えば、しばし口を半開きにしたまま固まって……


「かわいい〜」


いつぞや見たふにゃふにゃモードになっていた。

いつもは鷹のような鋭い目線をしているのだが、喩えるならば、ふやけきったおでんのお麩みたいな目だ。


「爺もやる? 毛布あるよ」

「よし、やろう。どうすればいい」


そうしてエレン爺も、毛布を被って、白いお団子が三つ誕生する。


あまりにも顔と不似合いなその格好に、私は大きく笑ってしまい、リディアもそれに釣られる。


そうしてしばらく、途中でエレン爺は用件を思い出したらしい。

毛布にくるまったまま、彼は表情を真剣なものに変えて、リディアに向き直る。


野武士みたいと思ったが、余計なことは言わない。


「レイナルト君だが、幸いまだスオーにある王家の屋敷に滞在をしているとのことだ。ただ、どうもかなり警備が厳重らしい。誰も入れないように、外が固められているそうだ」

「……かなりの警戒ですね」

「うむ、よっぽど誰にも会わせたくないと見える。配達員を装った部下を行かせたが、追い払われた」

「しかし手紙は届いていましたが」

「その理屈は分からないなぁ。ただ、いずれにせよ正面から訪問して許されるとは思えない」


ただ、とエレン爺は付け加える。


「ずっと屋敷の中にいるわけでもあるまい。なにかの目的を持たせて、ここに送り込んでいるはずだ。必ず、屋敷から出るタイミングがくる」

「……しかし、それを待っても結局は」

「うむ。ある程度の護衛は突破しなくてはなるまい」

「逆に言えば、どうにか屋敷の中に忍び込むことさえできれば、護衛は手薄の可能性もありますね」


なんだか物騒な話になり始めていた。


どうやら国王は私たちが会いに向かう可能性まで考慮していたようだ。

子ども一人と会わせないためにここまでするとは、なかなかの徹底ぶりである。


「一応、城の横手は山になっている。魔物も出るそうだ。立ち入るのはハードルが高いが、護衛はあまりいないだろう」

「ありがとうございます、お父様。少し考えてみます」

「……無理だけはするなよ、リディア。とくに魔法はーー」

「人には向けないようにいたしますよ」


リディアの返事にエレン爺は一つ首を縦に振って、それから毛布を頭に巻いたまま出ていく。


そのすぐあと、「ひっ」と悲鳴が聞こえたのは、たぶん宿の従業員さんのものだ。

いかつい顔のおじさんがそんな格好してたら、たしかに怖いよね。


そんなことを私が思う一方で、リディアはといえば、真剣そのものの顔で考え込んでいた。


「アイは、パパに早く会いたい?」


それからこう尋ねてくるから、私は半ば反射的に首を縦に振る。


もしかして、どんな方法を取ろうか、私の反応で決めようとしていたのかも。

そう気づいたのは、少し遅かった。


「そうよね、分かった。じゃあママが連れて行ってあげる」


リディアはもう心を決めたようで、私にこう言い残すと、一度部屋を出る。


たぶんエレン爺に報告をしに行ったのだろう。


実際そのすぐあと、私はリディアに連れられて、外へと出た。


「爺は?」と聞けば、「山に入ったら腰が終わるそうよ」とのこと。


それはたしかに、無理しないほうがいい。

というか、山の中で歩けなくなっちゃったりしたら、それこそ一大事だ。

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― 新着の感想 ―
大中小の毛布お団子…客室メイドさん さぞや驚いたでしょうね…
囚われの姫君…じゃなかった、王子の救出ミッション
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