表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/54

47話 潜入調査でばったり。



授業開始まではまだ、三十分近くの猶予があった。


終わってからはすぐにリディアが迎えにくるといっていたし、チャンスは今しかない。


「じゃあちょっと聞いてくるよ!」


とだけ言って、私はすぐに立ち上がり、そそくさとのその場を後にする。


たぶん二人なら、「ついてくる」と言ってくれると思ったからだ。


ただ時間がなかったし、二人がいたら魔法も使えない。



実際問題として、聞いて教えてくれるわけがないし、誰も彼もが知っているものではない。


レイナルトは王子であり、その居どころはトップシークレットものだ。


だからやるなら、盗み聞きするほかない。


とりあえず授業の行われる講堂を出た私はそのすぐ手前に広がる庭を抜けて、裏手へと向かう。


そこには、壁があるだけの、なんにもない空間がある。

この壁の奥が、政務エリアだ。


ゲームでは主人公・エレナが、何度もここを飛び越える形で、出入りしていたのだから間違いない。


ただ子供の背からすれば、壁は三倍か四倍近い高さがあった。

普通ならどうしようもないが……そこは魔法がある。


私はまず小さな風の渦を作り出すと、それを椅子のような形に変える。


そのうえで、そこにちょこんと座ったら、魔力を強めてゆっくり高度を上げていった。


そうして壁を越えたら、じわじわと力を抜いていき、ゆっくりと降り立つ。

体操競技だったら満点を取れる、完璧な着地だ。


「ふふ、やっぱりいい感じね」


私はそう小さく一人呟きながら、慎重に動き始める。


なにせここからは、誰かに見つかったら、即お縄だ。

ただ誰かを見つけないことには、盗み聞きもできないのだから、気配を殺すほかない。


とりあえず建物の中に入るため、私はその隙を伺い、少し先から建物の扉を確認する。


すると、中までは人が来ないと思っているのか、意外と警備は緩い。

衛兵が立っているものの、その気は抜けている。


私は扉のすぐそばにある草陰まで移ってきて、チャンスを伺う。


そして、よそ見をしていた一瞬で、ついにスタートを切ったのだけれど……


その一歩目で足音が大きく鳴ってしまった。

私はすぐに草陰へと戻るのだけど、


「なんだ……?」


気になったのだろう警備兵がこちらへと近づいてくる。


まずい、どうにかしなければここで終わってしまう。

ただ下手に動くこともできずに、なにかが起こることを祈る。


と、そのときだ。

身体から魔力が抜けていく感覚があったかと思えば、すぐあとに私がいる方とは反対側の木々がわさわさと大きく、しかも順番に揺れる。


「な、なんだぁ?」


と、その警備兵が呟きつつ後ろを振り向いたところに、襲いかかったのは小鳥たちだ。


どういうわけか小鳥たちは、警備兵に向かって飛んでいく。


……また勝手に発動した。

なんなんだろう、これ。


私は疑問に思いつつも、警備兵が小鳥を振り払おうと必死になっている隙に、再スタートをかけた。


重たい扉をどうにかこじ開け、中に入る。


それでほっと一息つくのだけど、しかし。

顔を上げたすぐそこで、ばったり目が合ってしまった。


「おや、君はたしか……。なにをしてるんだ? どうやってここに入った」


ジョルジュ先生と。


完全に終わりだ。やってしまった。続くのは一本道の廊下で、回避することはできそうもない。


外へ逃げたって捕まるだけだろう。


「えっと、ちょっと迷っちゃって」


と、私がどうにか言い訳を口にするのに、


「迷って、ここに……。ふむ、まぁないことではないかもしれないが、警備もざるだなぁ」


ジョルジュ先生はふさふさの髪を掻きむしる。


とりあえず怒られ展開は避けられるかも……? 私が勝手にそんなふうに安堵していたら、


「君、もしかして魔法使いましたか?」

「え」


降ってきたのは、それ以上に面倒な話だ。


もしかすると、魔力の残滓のようなものが、私の身体の周りに漂っているのかもしれない。


「ううん、使えないよ。まだ三歳だし」

「……たしかに、まだ三歳ですか。いやだが、君のような天才ならありえなくもないではーー」

「天才じゃないよ。ただの三歳だもん」


これで、ごり押すほかない!

私は指で三本を作ってみせて、超絶子どもっぽく振る舞う。

そうして無理に通そうとするのだけれど、ジョルジュ先生は一人、ぼそぼそと呟く。


「この感じ、どこかで……」


そのなかでこんな言葉が聞こえてきたから、ほっとした。

誰か他の、似たような魔力を持った人と勘違いしてくれているようだ。


ジョルジュ先生は思考に入ると、纏まるまでなかなか動かない。

その間、私はたっぷり数分待つ。いや、むしろこの隙に奥にいけるのでは?


なんて、よぎったところで、先生が私を抱え上げた。


「とりあえず、今回は迷い込んだということで、不問にしましょう。行きますよ、そろそろ授業です」


先生は扉の外へと出る。

そこではまだ鳥に襲われている警備兵がいて、ジョルジュ先生は立ち止まる。


「やはり同じ魔力……」


また思考に入っていきそうだった。

それも、私の仕業だとバレる線もある。


「授業は?」


それで私がこう言えば、ジョルジュ先生は焦ったように動き出した。



そうして私はジョルジュ先生とともに、教室へと入る。


「アイ、なにしてんだ!?」

「アイちゃん!?」


私のこの登場には、ジェフとビアンカちゃんも驚いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アイちゃん ジョルジュ先生も懐柔しますか? ▶はい  いいえ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ