46話 ここ王城だし。
彩り豊かな食事も、目にするだけで明るい気分になれる装飾も、そしてプレゼントの準備も、ほとんどすべてが完璧に整っていた。
今日はきっと、すごく楽しい一日になって、幸せな気分で年を越せる。
私はそんなふうに思っていたのだけれど、それは脆くも崩れ去った格好だ。
遅刻しているというわけでもない。
レイナルトのかわりに、一枚の手紙が届いて、そこに行けない旨が記されていた。
どうやら国王から急な出張を命じられてしまったらしい。
「……しょうがないわね」
と。
リディアは淡々と言いながら、その手紙を封筒へと戻す。
そのうえで私に視線を合わせるようにかがみ、ぽんと一つ私の頭を撫でやる。
「そんな顔しないの。代わりに、ママと素敵な時間を過ごしましょう?」
たしかに、ここで落ち込んでいてもしょうがない。
王子という立場にある以上、こういったことがありうるのは理解している。
だが私は、リディアが今日のためにたくさん準備をしたのを見てきた。
レイナルトだって、今日のために色々なことを考えていて、リディアへのプレゼントも真剣に悩んでいた。
二人の気持ちは同じ方向を向いていたことを知っているからこそ、簡単に気持ちは割り切れない。
「パパもきっと楽しみにしてたと思うよ」
私はレイナルトの気持ちを少しでも伝えようと、リディアにこう言う。
それに彼女は「そうね」と首を縦に振り、
「だから、アイはそのぶんも楽しまないと! パパも悲しむわよ」
私をこう慰めてくれるが、そうじゃない。
「ママは悲しい?」
私は思い切って、こう尋ねる。
それに彼女は目を見開いたあと、一つ息をつく。
「そうね。アイが悲しそうな顔をしていたら、私も悲しいわ」
聞きたいことはそれじゃない。
たぶんリディアは、私がなにを尋ねたいのか分かっていて、こう誤魔化したのだ。
とすれば、これ以上の追及もできなかった。
こうして、リディア邸の面々だけでのパーティーが始まる。
レイナルトがいないくても、賑やかな場だった。
途中、遠征中のエレン爺から大きすぎる猫のぬいぐるみが届くなどして、なんだかんだと盛り上がる。
リディアは私にプレゼントとして、絵の具と筆のセットをくれた。
カラフルなそれらの絵の具は、間違いなく高価なものだ。
少なくとも前世みたいにその辺の文具屋に売っている代物ではなく、魔石や植物をもとに作られており、希少価値がある。
それはゲーム内でも言及されていたから知っていた。
もしかすると、リディアは例の粘土人形に色を乗せるために、とこれを買ってくれたのかもしれない。
「これでたくさんお絵描きする!」
と私はリディアに言いつつ、その粘土人形へと目をやる。
二人により仲良くなってもらうため、とわざわざ寝室から運んできたのだ。
その時はもう幸せ気分だったし、粘土人形の二人も楽しそうに見えたのだけれど、今は笑った顔がむしろ寂しげに映る。
リディアへのプレゼントも私は用意していた。
ただそれは、レイナルトもいるところで渡したかったし、絵の具をもらえたなら改善の余地もある。
だから私は、ポケットに隠したまま、パーティーを終えた。
ただまたすぐに機会はくる。
レイナルトが帰ってきたら、その時にでも渡せばいい。
そのときの私は、そう軽く考えていた。
ただ年が明けて一ヶ月半ほどしても、レイナルトは帰ってこない。
手紙だけは届いており、そこには私やリディアを気遣うような言葉が並んでいた。
ただそれだけでは、そろそろ納得がいかない。これまではここまで長期の外出はなかったのだ。
リディアは変わらず「仕方ない」と説明するけれど、私としては、なにか裏があるんじゃないかと勘ぐりたくなる。
それで王城での勉強会に参加した際にも私がついつい考え込んでしまっていたら、
「……んだよ。朝からすごい顔して。怖いぞー、アイ」
「怖くないわ。どんな顔でもアイちゃんは可愛いから!」
横でジェフとビアンカちゃんが言う。
いつのまにか、二人も来ていたらしい。
それで私は二人に、レイナルトがなかなか帰ってこないことについて話をしてみる。
「んー、なんか分からないけど、誰かに話聞けばいいんじゃね? ここ王城だし」
そこでジェフから出てきたこんな意見に、私は思わず手鼓を打った。
たしかに、それなら誰か教えてくれる人もいるかもしれない。
10万字越えました〜!!
不穏な空気ですが、アイは無敵ですので!!
引き続きよろしくお願いします。




