42話 雪だるまづくりで手を重ね合わせます!
そこからも私は、攻勢を止めなかった。
なんとかして建国祭までに二人をくっつけたい!
ひとえにその一心で、行動をする。
幸いなことに、レイナルトがリディア邸を訪れることが増えていたから、チャンスはいくらでもあった。
とある雪の日、私はとある思惑を抱きながら、二人と一緒に雪だるまづくりに励む。
雪が降るのは、今年初めてのことであった。
そして、雪の中で外に出してもらえるのも今年が初めて。
前世でも雪の多い地域に住んでいたわけではなかったから、雪は少し降るだけで、なんとなく気分が上がる。
それがうっすらとはいえ積もるほどとくれば、かなりだ。
私ははじめ、なんの考えもなく雪で遊ぶ。小さな球を作ってはレイナルトとリディアに投げてみたり、あえて新雪に踏み入れて足跡を作ってみたり。
そんなことをしていて、しばらく。私は唐突に目的を思い出して、はっとした。
せっかく雪というイベントがあるのだ。
これを活かさない手はないだろう。そう考えた私は、雪だるまづくりに切り替えて、二人もそれぞれ作ってもらうようにお願いをする。
それで三人、庭でしゃがみこんで、ころころと雪を丸めているが、三人揃ってなかなかうまくいかない。
「……いびつな形になるな」
レイナルトの作る雪だるまは、その不器用さのせいか、でこぼことした見た目になっていた。
「……すぐに溶けていくわね」
一方のリディアはといえば、その体温が高いせいか、玉自体が半分溶けてしまっている。
私のものはといえば、その両方だ。
溶けているし、手が小さいせいで、丸になりきってくれない。
ただこの作戦自体は別に、雪だるまがうまくできなくたって問題はない。
だから私は諦めずとりあえず雪をかき集めてきては、丸く成形するのを繰り返していく。
そうしてしばらくして、一応は三人ともなんとなく形が見えてきたところで、レイナルトは手袋を外して、自分の手に息を吹きかけた。
白くけぶったそれは、もわもわと空気中に消えていく。
「かなり冷えるね」
来た! とそう思った。
私としては、待ち望んでいたといってもいいセリフだ。
「私、あったかいよ」
私は自分のつけていた手袋も外して、レイナルトのほうに開いて差し出す。
それをレイナルトが掬いあげるようにして触るのだけれど、その瞬間、かなりひんやりとした。
それこそ、氷そのものを手に持っているのと変わらないくらいの冷たさだ。
「はは、本当だね。あったかい。でも、あんまり握っていたら、アイの手が冷たくなっちゃうな」
「……前も思ったけど、どれだけ冷たいのよ、あなたの手は」
「はは、前に握ったときよりも冷たいかもしれないね」
流れは完全に想定通りだった。
リディアとレイナルトの手がそれぞれ温かいことと冷たいことは、この間聞いていたから、それを活かした作戦だ。
あとはうまく誘導して、二人にはまた手を繋いでもらおう――。
そんな寸法だったのだけれど、私がなにを言うまでもなく、リディアは自身の手袋を外して、レイナルトの手の甲の上に軽く重ねる。
「たしかに、前よりも冷えているわね」
「だろう? リディアの手は相変わらず温かいな」
「自分で氷魔法使って冷やそうかと思うくらいよ」
「はは。ちょうど間ならいいのかもしれないね」
……なにも誘導せずとも、二人は自然と手を重ね合わせていた。
そこに、恋人が初めて手を握るようなドキドキ感があるかといえば、ないけれど、誰かの手を取るって、かなりの親密具合でなければできないことである気がする。
いくらここがゲーム世界で、前世とは違うと言っても、この間まで二人が手を握り合うことを恥ずかしがっていたのを思えば、間違いない。
そんなことをさらりと、二人はさも当たり前のようにやっている。
私はそれに驚かされつつも、
「アイとリディの間にいると温かいな」
「パパ。じゃあ、左手もやろ?」
一応、追加の仲良し作戦を実施して、しばらく三人で三角形を作るようにして、手を重ねあう。
よっぽど、私が抜けてしまえば、恋人でしかありえない光景になるでしょ! と思うのだけれど、レイナルトの手はひんやりとして気持ちがよかったし、それにだ。
「これ、素直に家に戻ったほうがいいわよね」
「はは、たしかにそうだね。でも、雪だるまは完成させたいよね、アイ?」
「うん! 大きいの作りたい」
大好きな二人の顔がどちらもすぐ近くにあって、しかもその会話を耳元で聞くことができる。
そんな幸せは簡単には手放せなくて、結局はそのまま二人の間に残り続ける。
それから少し私たちは雪だるまづくりを再開した。
今度は三人で一つの雪だるまを作ることとして、苦労しながらも、手のひらサイズよりは少し大きいくらいのものを作り上げる。
まぁそれも、その場でどろっと溶けてしまうくらいの不完全なものだ。
どうやら、そもそも雪の量が足りていなかったらしい。
ただ、そんなことはどうでもよくなるくらいには、私としては前進を感じられる一幕だった。
♢
少し体調崩し気味で遅れました……!
引き続きよろしくお願いいたします。




