32話 秘密基地でかくれんぼです!
引き続きよろしくお願いします!
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私の立てた作戦はまず、みんなで『石蹴り』をすることから始まる。
一応は、三人でもできなくはないが、できれば、その参加人数が多い方がいい。
私はそれくらいに考えていたのだけれど、その日集まった子たちはみんなが参加してくれた。
「この間、別の集まりでもやったんだよね」
まさか私の知らないところにまで広まっていたとは思わない。
どうやらいつのまにか、かなりポピュラーな遊びになっていたらしい。
そのおかげもあって、なんら疑われることなく、私たち三人は作戦の実行に入る。
「すごい場所ね、ここ」
「でしょ? でも外れにあるし、人が来ないんだ」
なにをするかといえば、子どもには到底見つけられない場所に隠れるという、至極単純な行動だ。
他の人の家ならいざ知らず、勝手知ったるレイナルト邸の中ならば、難しいことじゃなかった。
隠れたのは、魔法鍛錬場だ。
ここはそもそも、ほとんど人が来ない。ただ換気のためか、鍵は開きっぱなしで、倉庫もある。
隠れ場所としては、ぴったりだった。
「なんだか楽しい」
「たしかに。なんかいいな、ここ」
ビアンカちゃんもジェフも楽しそうにこう言う。
たぶん秘密基地を見つけたみたいな気分なのだろう。
たしかに、その感覚は分かった。
鍛錬場内は、すごく静かで、壁に特殊な素材が使われているのか、声が反響する。
その空間はそれだけで、気分の高まりを感じる。
試しに「あ」と声を出してみたら、二人も真似して、それが響いて残るのに三人で笑い合う。
これくらいしても、人は来ないのだ。
そうしてしばらく、作戦通りにビアンカちゃんは、鍛錬場を後にする。
「一人でいけるか?」
とのジェフの声かけには、
「あたりまえよ」
と、両手を腰にやりながら答えていた。
強がっていないといいけど。
そう思いつつも、あとはもう、彼女に任せるほかなかった。
ここからの勝負の相手は、三歳児ではなく、大人だ。
だから私は口元に手を当てて、ジェフに静かにするよう伝える。
そのうえで二人、鍛錬場内にある倉庫に身を潜めることとした。
二人で扉を引っ張ってどうにか中へ入ると、積み上げられた木箱の下にちょうどいい隙間を見つけて、私たちはそこに入る。
ただし倉庫内には明かりもなく、太陽の光もぜんぜん届かない。
「うわぁ、暗いな」
「こわい? 少し扉開けようか」
「こ、こわくないって」
「ううん、開けようよ。あと、こわかったら、手にぎっていいからね」
「だから、こわくないから!」
ジェフはそう強がっていたが、扉を少し開けてもなお、怖かったらしい。
控えめに、私の着ていたワンピースの袖を掴んでくる。
私はそれを微笑ましく思いながら、彼が怖くないようにと、小さな声でなにげない話を続ける。
それで少し落ち着いたのか、
「……ビアンカ、だいじょうぶかな」
ジェフはこう口にする。
なんだかんだで気にかけているのだから、可愛らしい。
「ふふ、やさしいね、ジェフは」
「そういうのじゃないって。ただーー」
と。
なにやらジェフが言いかけたところで、鍛錬場の扉が開けられる音がしたから、私はその口を塞ぐ。
「アイ様、ジェフ様〜。うーん、こんなところに来るわけないしなぁ」
そこへ聞こえてきたのは、レイナルト邸の使用人さんのこんな声だ。
それで私は、作戦がうまく動いていることが分かって、ひとまずほっとする。
だが、ここで見つかったら、意味がない。
私は隣のジェフにまた人差し指を立てて、口を閉じるように伝える。
暗いのに目が慣れてきたのもあって、彼が頷くのが、さっきよりしっかりと見えた。
結局その使用人さんは、すぐにその場を後にする。
それでひとまず、私たちはほっと息をついた。
どうやらビアンカちゃんは、うまくやってくれたみたいだ。




