27話 ぼーろがぽろぽろ転がります。
資格試験を受けていて遅れました( ; ; )
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それからも、私が外出する際の送り迎えは、レイナルトがやってくれた。
どれだけ忙しい時でも、朝夕だけ抜けてきて、私を送り届ける。
これにはリディアも「そこまでしなくていいのよ」と言っていたのだけれど、レイナルトは頑張って、それを継続していた。
しかしある日、それはついに途切れることとなる。
どういう形でかと言えばーーーー
「アイ様、それからジェフ様。お迎えに上がりました」
レイナルトの執事・カイルさんが代わりにやってくるという、まさかの展開で。
いつもどおりの帰り道が急にハードモードになった感覚だった。
ジェフも、恐ろしい人を見る目で、高いところから見下ろしてくるカイルさんを見つめる。
そのスタイルは、今日も変わらない。
相変わらずぴっちり髪はかきあげてあって、執事服にも乱れるところは一つもない。
「どうして?」
と聞けば、レイナルトはいきなり舞い込んだ仕事でどうしても手が離せなくなり、その時そばにいたカイルさんが遣わされたのだとか。
「どうぞ、お乗りください」
と、彼は目を瞑り、馬車の方へと手を広げる。
そしてそのまま、ぴたりとも動かなくなった。
「……すげぇ、せきぞうみたい」
これにはジェフがこんな感想を漏らす。
私は苦笑いしつつも、「ありがとうございます」とお礼を言って、その馬車に乗り込んだ。
そして、その空間に私とジェフは驚かされる。
「わっ、なんだこれ。見たことないおもちゃばっかり」
「うん。私もしらないのばっかり」
けん玉、パズル、さらには着せ替え人形セットみたいなものまで。
その片側の椅子には、たくさんのおもちゃが並べられている。
「ご自由にお使いいただき、ご自由にお過ごしください」
彼はそう言うと、自分は反対側の椅子の端に座る。
そのうえで、御者に命じて馬車を発進させるも、自分はお得意の壁と一体化する作戦で、気配を消そうとしていた。
……たぶんこれはあれだね。
よっぽど私たちと喋るのが嫌だったんだね。
おもちゃを与えておけば、勝手に遊んでくれるとでも思ったのだろう。
ただその考えは、甘い。
私はともかくジェフはそんなことで怯んだりしないのだ。
「これどうやって遊ぶんだ?」
なんて、けん玉を手にして、無邪気に尋ねてしまう。
私に聞いてよ! と思うのだが、同じ三歳児の私が知っているわけがないと考えるのは、むしろ自然か。
「これの遊び方ですか」
けん玉を手渡されたカイルさんは、その持ち手を握ると、球を垂らした状態でまたしても動かなくなる。
何かと思ったら、玉の揺れをじっと見極めるているらしい。
馬車の中だから難しいんじゃ……と私は思ったのだが、一発で皿に乗せてみせた。
さらにそこから間を開けず、棒の先端にも突き刺す。
これには私も思わず「おぉ」と声を上げる。
どうやら緻密キャラは、見た目だけじゃないらしい。
「……このように使います。これは子供用の軽いものですので、あなた方でも楽しめるでしょう」
ただカイルさんは誇るでもなく、あくまで平然としていた。
けん玉をジェフに差し返したら、再び背を正して、石像へと戻る。
ジェフはそれですっかりけん玉を気に入ったようで、カイルさんのことなど忘れて、熱中する。
私はそれに付き合いつつ、そのうちについつい一生懸命になる。
そんな折にふとカイルさんのことが気になって目をやれば……
彼はいつのまにか窓の方に身体を向けていた。
しかも、いつもはピンと張っている背中が少し丸められている。
珍しいこともあるものだと私が覗き込んだら、彼はそこでお菓子を口に入れていた。
それも、ボーロを口いっぱいに。
「か、カイルさん?」
見て見ぬふりをしようかとも思ったが、私は流石に声をかけてしまう。
すると彼は急いで噛み進めたあと、ぽろぽろとボーロをこぼす。
それらを必死に拾い集めてから、彼は口を開こうとするのだけど、そこで盛大にむせこむ。
「…………なんでしょう」
それから、まるでなにもなかったかのようにこう言うのだから、さすがに面白すぎた。
あのなににも関心を示さなかったカイルさんがボーロを食べていると言う時点で面白いのに、口いっぱいに含んでむせこむなんて、ギャップがありすぎだ。




