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22話 祝祭に参加して、サブヒーローの一人に会いました。



ドレスを見繕ってもらった日から、一週間。


私は三歳の祝祭に参加するため、王都内の西方に位置する大聖堂まで、リディアとレイナルトに連れられて、足を運んでいた。


大聖堂は、実に立派な佇まいだった。


それこそ前世にあったならば、なにかしらの史跡に指定されていそうなくらいその敷地は広く、王子であるレイナルトの屋敷よりも広い。


そのうえ、建物にもかなりのお金がかかっていると見えて、とくに最奥に聳える大きな時計台はその高さもさることながら、各所に細かい趣向が凝らされてあり、実に立派で圧倒される。


……が、しかし。

それ以上に私が気圧されていたのは、人の目だ。


当然だが、リディアとレイナルトの二人は大勢いる子連れの方々の中でも、飛び抜けて若い。

そのうえ容姿や身分もずば抜けているのだから、私への注目もかなりのものだった。



私が落ち着かずきょろきょろと周りを振り見ていたら、リディアとレイナルトが繋いだ手をぎゅっと強めに握ってくれる。


「心配しなくていいよ、アイ。アイがあまりに可愛いから見られちゃうんだ」

「ふふ、そうよ。気にしないで凛としていればいいわ」

「だね。ママを参考にしたらいいよ」


やっぱり子どもというのは単純だ。

それだけで緊張が和らいでいき、私は調子を取り戻す。


そのうえで本殿の中へと入った。


そこには正月の神社よろしく長い列ができている。


私たちがその後方につくと神官らしき人がすぐに駆けてきて、


「レイナルト様、リディア様、お先にどうぞ」


と、便宜を図ってくれようとしたが、二人は首を横に振る。


しばらくは粘っていた神官だったが、二人の意思が固いと知ると、恐縮しながらに引き上げていった。


「アイ、貴族なら必要な時以外は遠慮する度量を持つのよ」


リディアが、私に諭すように言う。

これはゲームと変わらない一面だ。ゲーム内でも彼女は傲慢なだけの悪役ではなく、貴族としての矜持みたいなものを持っていたっけ。


格好いいし、できれば同じようになりたい。


私が大きく頷くのに、リディアはにこと笑みを見せる。


「ははは、リディは厳しいね」

「こういうのは幼い頃から知っておいてもらうのがいいのよ」

「それはおおむね賛成するよ。でも疲れたら言うんだよ、アイ。パパが抱っこしてあげるからね」

「……あなたねぇ」


そうして二人と話しているうち、待ちの列は意外にさくさくと進んでいく。


どうやら三歳時の儀式は、時間のかからないものらしい。


「今回は神様への挨拶だけだからね。五歳になったら魔法診断があるからもう少しかかるよ」

「……しんだん?」

「うん。どんな魔法が使えるのか、神官が教えてくれるんだ。そこからは人によって練習していくこともあるね」


診断を五歳にしているのは、それより幼いと前の私みたく倒れてしまうからかしら?


私はそんなふうに考えながらふと、リディアの方を見上げる。


その眉間には、やや皺が寄っていた。

明らかに険しい表情をしており、


「別に受ける理由もないのよ」


彼女はぶっきらぼうに、ぼそりと呟く。



単に教えてくれた、という感じではなかった。

どちらかと言えば、忌避している。そんな雰囲気だ。


なにか思うところでもあったのだろうか。


「あー、えっと、とりあえずもうすぐだね。今は先のことは考えなくていいよ」


レイナルトも明らかになにかを誤魔化すように言うのだから、とても怪しい。


私がなにかと勘繰っているうち、順番が回ってきた。



私は二人とともに神官の前に立ち、リディアの所作を真似てカーテシーをする。

すると頭の上にぽふりと、なにやら柔らかいものが乗せられた。


「神様に感謝しながら、願い事を思い浮かべるの」


とリディアに言われたから、素直に仲睦まじいリディアとレイナルト、それからその間で幸せに過ごす自分を思い浮かべてみた。


すると、胸の奥が不思議とじわり温かくなる。


もしかして神様が聞き入れてくれたということなのだろうか。


そう思いながら、しばらく浸るように目を瞑って、私はぱちりと目を開けた。


「ずいぶん長く祈ってたね、アイ」


いつのまにか結構な時間が経っていたらしい。

私は後ろの人に謝りながら、二人とともにその場を後にする。


「謝れるなんて偉いわね」

「いい大人になるよ、アイは」


なんて褒めてもらいながら、神殿の外へと出た。


その後も記念品を貰ったり、貴族同士の挨拶をしたりと、順々に行程を済ませていく。


そうして全てが終わったので、お昼ごはんの話をしながら大聖堂の敷地の外へと出たところでーー


「おぉ、レイナルト! 来てたんだな!」


誰かがレイナルトを呼び止めた。


その快活な声には聞き覚えがあって、私もその方向を振り見る。


「いやぁ、同年代がいないから探してたんだよ」


そこにいたのは、『花の聖女が咲き誇る』におけるヒーローの一人、アシュレイ・クロウフォードだ。


ややゲームで見た時より幼いが、朱色の髪にオレンジの少し角張った目は間違いない。


レイナルトとは同級生で、身分に関係なく、友人関係なのだ、たしか。


「お、この子がアイちゃんか。可愛いなぁ」


彼は私の前で屈んで、顔を覗き込み、にかっと笑う。


かなりの格好よさだった。

彼は人懐っこい笑顔で、私の頭をわしゃわしゃと撫でやる。


私は別によかったのだが、リディアはといえば、蛇のような目になってアシュレイを睨みつけていた。


「おいおい、せっかくリディが髪型セットしたんだから、あんまりやらないでくれよ」


レイナルトが彼女の意図を汲んでこう言うのに、アシュレイは慌てて手を引き立ち上がる。


「おっと、そういうことか。リディア様、ご勘弁ください!」


それから、ぺこぺことリディアに頭を下げていた。

このあたりが、実に彼らしい。

面倒見がいいがお調子者で、やらかし癖があるのだ。


「……もういいわよ。で、あなたは弟を見ていたんでしょう?」

「えぇ、はい。ジェフ……って、あれ、ジェフは!?」


アシュレイは慌ててあたりをきょろきょろと振りみる。

それで私も少し探してみていると……


「わっ!!」


いきなりに後ろで声が上がった。

私はびくっと跳ねて、そちらを見る。

すると、「へへっ、おどろいてる」といたずらっぽく笑う小さな子がいる。


背丈は私と大きく変わらない。


「こら、ジェフ。いきなり失礼だろうが」


やっぱりこの子がジェフ、アシュレイの歳の離れた弟のようだ。


イメージ的には、アシュレイをそのまま幼くした感じで、髪色含めて、よく似ている。


「だって〜」

「だってじゃねぇよ。おっかない目に遭うだろ、兄ちゃんが!」

「にいちゃん、こわい。このおねえさんみたい」

「なっ……!?」


……余計なことを言ってしまう点も含めて。


アシュレイがわなわな震えながら、リディアの方を振り向く。


が、リディアはといえば、腕組みをしながら軽くため息をつくだけだ。


「子どもの言うことにいちいち目くじら立てないわよ」

「助かります……! って、え、ほんとに?」

「はは、アイと暮らしてリディも変わってきてるんだよ」


前までのリディアならどんな反応をしたのだろう。

私がそんなことを考えていたら、右肩を突っつかれる。


「さんさい?」

「うん、さんさい」

「じゃあ、おなじ! おいかけっこしよ」


え、やだ。せっかく買ってもらったドレスだし!


私はすぐ思うのだけど、ジェフはといえばもう走り出してしまう。


怖い、パワフルだ、三歳男児。


私が唖然としていたら、


「ドレスじゃあ走りにくいだろうが! 今度にしな」


と、またアシュレイに注意されていた。




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― 新着の感想 ―
あーてぇてぇがすぎるこの作品好き
模範となるべき貴族なら、便宜を図ると言われても毅然とする必要がある立場ですね。その辺り下級貴族の方がオイコラで横柄に振る舞ってそうです。 ママが魔法診断に思う所がありそうなのは、闇属性とかそういうアレ…
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