13話 ピクニックに行きますが、戦いはその前から始まってます?
リディアとレイナルトの二人や、使用人さんたちによる懸命な看病のおかげか。
数日ののち、私の熱はしっかりと下がり、そして身体も元通りに動くようになった。
魔法はといえば、それ以来使っていない。
制御できない魔法の恐ろしさを知ったことが、その理由だ。
いずれは使ってみたいけれど、今ではない。そう、割り切ることができるようになっていた。
それになにより、魔法なんてどうでもよくなるくらいのイベントが私の目の前には迫っていた。
それがなにかといえば……
「ぴくにく、たのしみ!」
これ。初夏らしいイベント、ピクニックである。
このお出かけを提案したのは、私じゃない。
なんとレイナルトとリディア、二人からの提案で行くことになったのだ。
これまでも、リディアとだけ、レイナルトとだけなら外出したことはある。
二人揃って、というのは初めてのことだった。
もしかすると、あの熱の際に発した「仲良く」という言葉が効いてくれたのかもしれない。
なんにせよ、私としてはこの機会を活かさない手はない!
二人の距離を近づけるには、またとない好機だ。
そしてその勝負は、行く前から始まっている! 戦いは準備がなにより大切なのだ。
その日、私はレイナルト邸に預けられていた。
レイナルトはわざわざ日程を開けて、本を読み聞かせてくれるなど、私の相手をしてくれる。
彼の膝上に乗ってのおやつタイムに、私は後ろを振り返りながら直接聞いてしまう。
「パパ、おかしなにすき」
と。
いつもは、用意されるものを食べるのがほとんどの彼だったから、そのあたりを知らなかったのだ。
「はは、そうだなぁ。あんまりおかしは食べないね」
「じゃあ、ごはん」
「うーん、クロケットかな。他にはあんまり思いつかないよ」
なるほど、クロケット。
たしかコロッケの原型で、クリームコロッケみたいなものをさすんだっけ。
いきなり難易度高すぎるね……。
熟練の主婦でも手を出しにくい奴じゃん……。
私はそう思いながらも、さらに調査を続ける。
ピクニックのみならず、今後のために使える情報もあるかもしれないと考えてのことだ。
食べ物の話題が尽きたら、趣味、好きなこと、得意なこと。
それらを、うざいと思われないだろう範囲で、「なぜなぜ期」ということにして、質問を繰り返す。
その内容は、大方はゲームの設定と同じだ。
読書と勉学が趣味で、好きなのは熱中できるもの、得意なのは運動や魔法。ただし、本番に弱いのが玉に瑕。
ゲームでは、たしかそんな説明だったと記憶していて、返ってきたのもそれとほとんど同じ答えだった。
「でも、趣味なら最近はもう一つあるよ」
「それなに?」
「アイと一緒に遊ぶこと。アイは楽しいかい?」
そのセリフに私は、はっとする。
そういえばゲームの中で彼が主人公・エレナに、
『趣味なら一つ増えたよ。エレナに会うこと』
と格好いいセリフを言うシーンがあって、そこはわざわざ書下ろしの絵が使われていたっけ。
そんなシーンが今は私に置き換わっている。
できればリディア相手ならば、なお嬉しいセリフだが、確実に未来は変わってきている。
私はそう確信しながら、一つ大きく頷く。
「たのしい」
「ならよかった。パパだけ楽しいんじゃあ意味がないからね」
頭を撫でられる。
その心地よさに私は一瞬目的を忘れかけるが、すぐに思い出す。
それからすぐまたしても、「他にある?」と聞くが、その答えはなかなか出てこない。
だから私は、
「ママ、味の濃いもの好き。あげもの、たべてる、とりのかわ」
二つの狙いを持って、こんな情報をリークしておく。
一つ目は、レイナルトがなにか思いつきやすくするため、二つ目はピクニックへ向けての布石だ。
ピクニックといえば、やはりお弁当であって、その恋愛的な展開の王道はといえば、やっぱりお互いの手作り弁当だろう。
リディアもレイナルトも身分の高い貴族だ。
自分で料理など普段しないだろうが……。
まぁ最低でも、お互いの好きな料理をお互いが準備するという状況を用意したかった。
「それは知らなかったな。夜会では、いつもあんまりなにも食べないんだ。口に合わなかったのかもしれないね」
なんというか、リディアらしいエピソードだ。光景が目に浮かんでさえきて、私はくすくす笑う。
「他にも、なにかママのこと知ってるかい?」
作戦は大成功と言えそうだった。
レイナルトはリディアの話をいろいろと聞いてくれるから、私はその知る限りを伝える。
そうして、エヴァン家に戻ったら、今度はリディアの膝上を占領して、仕入れた情報をさりげなく伝える。
「パパ、クロケットすき。ママ、つくれる?」
そして、子ども特有の無知を活かして、だいたんにもこう尋ねてしまう。
これにリディアはといえば、目を丸くしてから、首を横に振る。
「ママはやったことないわ。そもそも調理場に立たないから」
「じゃあ、こっくめいどさん」
「それくらいなら、お願いできる気がするわ」
まぁさすがに作ってもらうのはハードルが高かったから、持ってきてくれるだけで十分及第点だ。
私はそう思っていたのだけれど……
「よければ、お教えしますよ! お任せください。クロケット、得意ですから」
コックメイドのサラさんから、まさかの助け船が入った。




