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10話 レイナルトに預けられたので魔法を見せてもらって……?



リディアの氷魔法を見たときのことは、その後も私の頭の中にはっきりと残り続けていた。


それはもちろん、その魔法の暴走を食い止めるためにも、『婚約破棄と破滅フラグを回避しなければならない』と、決意を新たにしたことも理由の一つだ。



が、単純に魔法が使える世界だったと思い出したことも大きい。


魔法が使えるなら、当然覚えてみたかった。

それは前世でファンタジー作品をたくさん読んできた身からすれば当然の欲求である。


原作でリディアが魔法を暴走させたことを思い返せば、魔法=光でないことは理解していた。ただ、それでも、その憧れはなかなか捨てがたい。



それに、魔法を使えるようになれば、それが巡り巡って、リディアの破滅フラグ回避にも繋がることもあるかもしれない。

効果は直接的ではないだろうけど、使えるようになっておいて損はないはずだよね……!


そう半ばこじつけ的に考えた私は、使用人が少し目を離しているすきに、魔法の発動に挑戦してみることにする。



その際に思い起こすのは、ゲームにおける魔法の設定だ。


と言って、そんなに複雑な説明はされていなかった。

『花の聖女が咲き誇る』の魔法は、一人につき一つの魔法が使える程度のもので、話全体の中の要素としてそう大きなものじゃなかったからだ。


使い方はたしか、こうだ。


まずは、身体の奥底にあるらしい魔力を意識する。

呼吸が落ち着いているときのほうがよりよく、はじめてやるときは、腹の底にコップがあるようなイメージをして、に水を貯めるような感覚がいいのだ、たしか。


そして、それが一定たまったら、手の先に行き渡らせるように意識して――



………って、全くなにも感じられないね。



そもそも魔力というものを知らないせいもあるのか、一歳半にはまだ早いのか。

そのあたりは分からないが、少なくとも魔法が使える感じはいっさいない。




ただ、『魔法が使える』という夢のような話は簡単に諦められるものではなくて。


それからというもの、私は隙を見ては、自分の魔力を引き出せないものかとチャレンジを繰り返す。


そのうちに感覚の分からなくなってきた私は、魔法を見せてもらうことにした。


誰にかといえば、


「まほ、みたい」

「魔法……? あぁ、絵本で見たんだね」


レイナルトにだ。


私は、魔法が使用されている絵本を見せながら、指をさして訴える。



たぶんリディアとレイナルト、二人の関係が少しずつにでも前に進んでいる証左だろう。

最近の私はたまに、レイナルトの屋敷に預けられることもあった。ちなみに王城ではなく、彼個人が所有する、城の脇にある屋敷だ。



本当は二人の仲が進展してほしいのだけれど、互いの公務の忙しさもあるのだろう。

なかなか二人が揃う機会はない。



ただちゃんと交流はとれているようで、リディアやエヴァン家全体が忙しくしているときは、レイナルトが私を屋敷まで引き取りに来て面倒を見てくれていた。



仕事の合間に子どもの面倒を見る。


なかなかいいお父さんぶりだし、今の私としても好都合だった。



レイナルトの使用人は、そのおつきの執事がたまにやってくる程度で、後の人は遠慮して入ってこないしね。


「うーん、その絵本みたいに派手なのはできないかな。龍なんて、このあたりにはいないし」


……少し見せる場面を間違えたかもしれない。

そう思って私はページをめくるのだが、その絵本に描かれている魔法はそれのみであり、なにもでてこない。


少しずつ喋れるようになってきたとはいえ、長文は無理だ。

それで私が落ち込んでいると、


「まぁアイのためだ。もう少し簡単な魔法なら、見せてもいいかな」


レイナルトのほうで、私の心を慮ってくれた。

言わずとも心の内を察してくれるあたり、本当に父親らしくなってきているのかもしれない。


「じゃあ、見ててくれるかい?」


レイナルトは、クローヴィス王家の第一王子であり、次期王になることを見込まれている存在だ。


そして、王家には王家たるゆえんがあって、彼はたしか、大抵の魔法を扱うことができる。


その中から彼がやってくれたのは、風の魔法だ。

彼が立てた人差指を軽くふっと振ると、それだけでその先からは小さな旋風が現れる。


「どうだい?」


かなり様になっていたし、格好いい。

なるほどこれは、ゲームプレイヤーたち数万人を虜にするわけだ。


私はそんなことを思いつつも、その魔法を使う瞬間をしっかりと確認していた。


はっきりとそれがなにかは分からないがたしかに、なにか空気のようなものがレイナルトの身体から湧き起こって、そして風魔法になっていた。


「うん、すごい」

「はは、それはよかった。本当はもう少し大きなものもできるんだけどね」

「もういっかい」


私は人差し指を立てて、レイナルトを真剣に見つめてお願いをする。


対してレイナルトは、室内でやるのを忌避しているのか、困ったように笑う。


「うーん、それはまたいつかね」


と言ってくるのだけれど、そうくるなら、こっちには秘技がある。

何度使ってもなくなることのない秘技だ。


「パパ、やって」


そう、やっぱりこれである。

そして、レイナルトはこれにめっぽう弱い! パパというだけで今も、明らかに口角が緩んでいる。


これはもう一押しすればいけそうだと思っていたのだが……

そこで、扉がノックされた。


「失礼いたします」


レイナルトが許可をすると入ってきたのは、彼の執事だ。

たしか名前は、カイルさん。


ぴっちりと掻き上げた髪が特徴的な、いわば仕事人だ。



その目には、そもそも私などほとんど映っていない。


彼はひたすらに、レイナルトの公務のためだけに、動いている。

言わば仕事人だ。


冷たい印象も受けるが、レイナルトも信頼を置いているくらいには、かなりできる人らしい。


「クローヴィス王が――」

「はぁ、また父上がなにか……」

「はい、弟君のこともございますから」


などと。


私は、二人が小さな声でなにやら会話を交わすのを見守る。


そういえば、弟が五人いるって設定があったなぁなどと思いかえしてみるが、あんまり盗み聞きするのもよくない。


私は魔法を見せてもらうのを諦めて、この間買ってもらったマラカスを軽く揺すって遊ぶのだった。


楽しいのかって?


そんなわけないと思っていたのだけれど、一歳半にはこれが結構楽しいのだ。









レイナルトに魔法を見せてもらったおかげで、少しイメージが湧いたこともあった。


私はそれからリディアとレイナルトとの仲を取り持つ作戦の傍ら、人の目を盗んでは魔法の発動に取り組んでみる。



それがやっと功を奏したのは、二歳になって少しした頃だ。



それなりに大きくなったこともあろう。


目を離してもらえる機会もだんだん多くなっていた。

だから、私は一人になった部屋でお腹に手を当てて目を瞑り、腹の底を意識してみる。


すると、どうだ。



これまでにはなかった、なにかが体の内側から湧き起こってくる感覚が身体を包む。


現世では味わったことのない感覚だったから、まず間違いない。


これがきっと魔力だ。


それは小さな箱の中から煙が吹き出すようなイメージで、一気に私の中で大きくなる。


あとはこれを外に、と思ったのだけれど、その時にはもう身体は思うようには動かない。


「あ、あれ」


……あ、あれ、なにこれ。


意識が遠ざかる。私はそれを手繰り寄せようとするが、うまくいかない。


そうして私は、そのまま倒れることとなった。

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― 新着の感想 ―
いわば仕事人、大事なことなので二回書かれてる?
二歳にして正座を覚える幼女
 魔力枯渇かな。そしてそれ、たぶん、お説教フラグ
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