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たいせつな ぬいぐるみ - 外科の新人の歩み -  作者: ぴい


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24/24

外科の新人の歩み24 一人前

 8月に入り、盆休み前には特訓は手術になった。器具や機械の学習をして、盆休み直前に、いよいよ実践形式のシュミレーションを行うことになった。


部長「では、まず道具の名前と使い方を言いなさい。」



 外科の新人は既に全てを言えるようになっていた。


部長「すごいじゃないか。。今から切開手術だ。本来は全身麻酔と気管挿入があるが、今回は省略だ。メス。」


外科の新人「はい。」


部長「おい。汗を拭かないと。落ちたら大変だぞ。」


外科の新人「あっ、はい。あ、あの。警告音がずっと。。どうしたら。。」


部長「落ち着け!異常値に鳴るが、たいていの手術中はなりっぱなしだ。これが普通だ。いいか、状況が分からないからバイタルチェックは必ず定期的に読み上げるんだ。」  


外科の新人「90の60です。」


部長「心拍もだ。」


外科の新人「あっ。はい。えー85です。」


部長「あとな、そこの酸素濃度は90切ったら必ず伝えろ。85切ると対処が必死になる。」


 外科の新人はただ指示に従うだけではいけないと感じた。今の状況では、たった2人しか患者を救える人間はいない。

 自然と目の前の患者を助けるために自分は何が役立つのかを意識して行動する思考に切り替わった。


 汗を拭きながら、バイタルチェックをして読み上げると、部長のメスを受ける。


 突然、別のアラームが鳴る。


部長「いかん。大量出血だ。」

外科の新人「血圧55の37。。心拍が測定不能です。血管断裂ですか?」 

部長「そうだ。」

外科の新人「静脈ですね。」


部長「良く分かるな!これは重要な血管だ。下肢に影響を与えかねない。」


 外科の新人は輸血用血液や必要な器具を持って来て血液を吊るすと素早く針をつける。


外科の新人「部長。血液型はB型で間違いありませんか?」

部長「そうだ。」

外科の新人「輸血開始します。」


 外科の新人はコックを開き輸血を開始する。


部長「この場合は、まず、血を止めないと意味がない。」



外科の新人「65の40に回復。心拍が表示されました。53です。酸素濃度が88です!」


部長「分かった。酸素濃度を2ランク上げる。。直ちに血管を繫ぐから、あの。。」

外科の新人「はい。血管縫合用の糸は持ってきました。右においてあります。はさみと保護テープも。他に必要ですか。」


部長「えっ?。。ああ、足りているな。始める。」

外科の新人「待って下さい。」


 すぐに汗を拭き、バイタルチェックをする。


外科の新人「部長。血圧データ大きな変化なし。酸素濃度は91です!」


 外科の新人はライトを当てながら汗を拭くと、身体の縫合用の針と糸を用意し、全力で走って戻る。


外科の新人「血圧85の60。心拍82。」


部長「よし、繋がったな。」


外科の新人「部長。血液の吸い出しをしないと。ノズルです。」


 部長の汗を拭くと吸引装置の主電源をオンにして、部長の元に戻る。


外科の新人「吸引大丈夫です。針と糸をもらいます。身体を閉じる糸は右に用意してあります。血圧心拍共に安定しています。」


部長「おお。大丈夫だな。よし閉じるぞ。」


 外科の新人はすぐに片付けをするとバイタルチェックをする。


外科の新人「まだ閉じないで下さい!部長。輸血はどうしましょうか。」


部長「んー。血圧が上がり切っていないから追加だ。」


外科の新人「部長。B型で間違いないですね?」


部長「大丈夫だ。なあ、何故閉じない。」


 外科の新人はコックを閉め、血液を交換するとコックを開ける。すぐさま空の血液の袋を片付ける。


外科の新人「本当に出血が止まったか、2人で確認しましょう。目は私のほうがいいと思います。」


部長「おお。そうだな。。どうだ。良さそうだか。」

外科の新人「はい。大丈夫だと思います。すごい技術ですね。あっ!念のために血管を保護テープ巻くほうがいいと思います。」


部長「これなら要らないと思うが。。」


外科の新人「確かに要らないかも知れません。より安全になります。血管とテープはやがて馴染んで血管の一部になります。邪魔にはなりません。あと、今もし震度5の地震が来たら。。弱い部分ですし。」


部長「あっ!分かった分かった。おい、ちょっと血管を持ち上げてくれ。」


外科の新人「はい。」


 外科の新人は部長が血管を繫ぐ時に使った器具を使い、慎重に血管を持ち上げる。


部長「上手いじゃないか。非常にやりやすいぞ。」


外科の新人「離してもよろしいでしょうか?」


部長「ああ。おい。」

外科の新人「はさみです!」


部長「いや。えーっ!ありがとう。」




 部長は再び状況を確認すると、身体を閉じる。外科の新人に点滴の指示をし、外科の新人は反対側の手に素早く注入する。


外科の新人「点滴投与開始しました。血圧110の75です。心拍は100前後で安定しています。輸血は終了しますか?」


部長「そうしよう。」


 外科の新人は輸血した針を抜き、止血をする。


部長「10分血圧に変化ないか確認して問題無ければ出血はないと判断し手術を終える。この先のアラームは異常だから、必ず注意だからな?」


外科の新人「分かりました。五分経過。問題ありません。」


部長「座れ。」


 輸血用の器具を戻し、輸血用血液とチューブを廃棄袋に入れて着席する。


外科の新人「はい。」


部長「10分経ったことにしよう。終わりだ。」


外科の新人「分かりました。。シュミレーションの人形とモニターすごいですね!」


部長「何パターンかあるんだ。しかし。。最初以外は全く文句無かったな。。いや、むしろやりやすかった。さすがあのむちゃくちゃ忙しいケーキ屋さんを回す人間だな。君はもう誰にも負けてないさ。一人前だ。婦長〜。降りてこーい。」


外科の新人「あっ。見てたの!」


部長「最初からな。」


 扉が開くと婦長が入ってきた。


婦長「あなた。ついに外科ナンバーワンね。何よ!あの立ち回り。。1人で出来る範囲を超えているわ。私には絶対に出来ない。部長、ホンモノに育てたわね。後半部長が指示に従ってたじゃないですか。全く。。」


部長「今日のオペで気に入らない動きは全く無かった。しかし、驚いたな。。1人では絶対に無理なはずなのだが。。これ、本来は失敗するシュミレーション設定なのだが、勉強にならなかったかな。。」


婦長「一人前になるまでは、敢えて受付しかやらせなかった。盆明けからガンガン頼むからね。あなた、あっという間に出世ね。良く見ないで評価した人間を見返してやりましょう。」


外科の新人「そんな人達はどうでもいいです。大切にして頂いた婦長や部長に喜んでもらい、患者さんが幸せになるほうが大事。」


部長「婦長。片付けを手伝ってくれ。。あれ?片付けも終わってるのか。メスとか再利用するやつだけか。」


婦長「気づいてなかったの?びっくりしたわ。片付けながら手術やってたわよ。あんなこと1人で出来る看護師は見たことがない。私、自分が手術ならあなたを指名するわ。」


部長「良し。本日をもって特訓は終了だ。お疲れ様。気をつけて帰れ。」


外科の新人「えっ?あの。。いえ。ありがとうごさいました。」


 帰ろうとした外科の新人が立ち止まりながら考え、振り返り部長に本能的に抱きつく。ハッとした外科の新人は高まる気持ちを押し殺し、笑顔で言う。


外科の新人「たまには若い女に抱きつかれたら気分いいでしょう?サービスよ。ありがとう。。ごさい。。ました。」


 外科の新人は帰っていった。好きでたまらなくて涙が止まらない。だが、決して気持ちを悟られるわけにはいかない。



部長「サービスか。。悪くないな。」


婦長「全く。。頭いいし、人を見る目も素晴らしいのに。。本当に馬鹿ね。メスとか片付けますから、私も帰ります。」



 更衣室に婦長が入ると、外科の新人は涙を拭き明るく振る舞う。


外科の新人「こんなにして頂いて、すっごい嬉しかった。」


 婦長は気持ちを察し、外科の新人を抱きしめる。


婦長「馬鹿ね。本当に馬鹿。辛いよね。」


 婦長の胸で号泣する外科の新人。


婦長「一番大切な人をまず大切に。辛いでしょうけど。私はうらやましいわ。あなた、初日に印刷待ちの時に気づいた。それなのに、未だに自分の気持ちに気付かない馬鹿な人もいる。」


外科の新人「えっ?見てたの!」


婦長「時間ある日はずっと見てたわ。気持ちを消して集中して。。あなたはホンモノのプロよ。そんなことは研修生の時から知ってたけどね。」


外科の新人「誰も幸せにはならない。やっぱり彼が大事。。1人しか愛してはいけないから。」


婦長「そんなことは自分が勝手に決めてるだけよ。秩序が乱れるから法律で縛る。それが正解とは限らない。愛にはいろんな形がある。正解などない。みんなが幸せになる愛ならばね。。盆休み。リフレッシュしなさい。いい?あなたが幸せになるのが一番大切なのよ?」



 帰宅すると盆休みでしばらく会えないのがさみしかったようで、内科の新人が泊まりに来ていた。


内科の新人「遅かっ。。ねえ、泣いてるの?大丈夫?」


外科の新人「お風呂入ってくる。」


内科の新人「ねえ、何かあったのかな?」


同僚「そっとしなさい。友人でしょう?あっ電話。」


 同僚は隣の部屋に行くと外科婦長から、本人に言わない条件で特訓と部長との関係を伝えた。


同僚「そうだったの!だから毎日。。本当に部長は自分の気持ちに気づいてないの?。。んー。それは辛いわね。。分かった見守るわ。」



 複雑な気持ちで、部屋に戻ると内科の新人は落ち着かず心配そうだ。


内科の新人「イジメだよね。私。投げ飛ばすから!」


同僚「まあまあ。冷静に。お風呂出たら切り替えて戻るわよ。」



外科の新人「今日は疲れた〜。美味しいの作った?お腹すいたのよねー。」


内科の新人「うん。あの。」

同僚「さあさあ食べよ。。ねえ。たまには飲むか!明日両親に会うから少しだけね。」

外科の新人「そうだね。飲むか!あなたは?」


内科の新人「わ、私は。。」


同僚「お子ちゃまでちゅからねー。」


内科の新人「の、飲む!」


外科の新人「だーめ。いただきま〜す。。ん!美味しい。あなた。やるわね〜。」


内科の新人「ねえ。明日は早いの?」


同僚「午後からよ。」

外科の新人「仕方ないから、あなたのために合わせましたよ。午後からに。」


内科の新人「ねえねえ、いっぱい一緒にいれるの!」


同僚「いいから食べなさいよ。美味しいよ。」

内科の新人「知ってるわよ。」


外科の新人「まあ。。生意気な子。」


内科の新人「もー。私が一生懸命作ったのに。」


外科の新人「かわいいわね〜。」



 食事が終わり2人も風呂に入ると布団に移動する。


内科の新人「ダメ。今日はあなたが真ん中。」


外科の新人「そう?まあ。。従うか。」


 2人が外科の新人の腕に抱きつく。特に話はしないが、ずっと抱きつく。


 外科の新人は考える。彼を愛しているのは間違いない。部長は。。ちょっと愛してる。。みんな幸せか。。それが絶対条件だわ。しっかりしないと。


 同僚は思った。自分の愛情に気付かないで3ヶ月近くも毎日毎日。愛してるに決まっているじゃない。どうするのかな。辛いよね。私が支えるからね。


 経験のない内科の新人に理解させるのは無理な話だろう。


 

 翌日、朝から買い物に出かけ、お揃いのTシャツを買うと無邪気に喜ぶ内科の新人を愛しそうに眺めながら、まず同僚が出かけた。



外科の新人「ねえ。もう9回なの。。未だに妊娠しないの。どこか悪いのかな。」


内科の新人「えっ。妊娠。。あっ。確率的にはちょっと調べたほうがいい段階かも。私の学校にはその分野のトップクラスの先生いる。紹介しようか?彼と、2人で行かないといけないわよ。盆休みもやってる。」


外科の新人「そろそろ調べるべきよね。彼に相談してみる。連絡するわ。」


内科の新人「ねえ。あの。。妊娠したら。。仕事辞めるの?」


外科の新人「私は、尊敬する看護師を見て看護師になった。だから辞めない。」


内科の新人「そう。。あっ!時間大丈夫?」


外科の新人「そうだね。そろそろ出かけますか!あなたは旅行って言ってたわね。」


内科の新人「うん。明日から台湾。」


外科の新人「海外なの?」


内科の新人「ええ。でも先生の紹介は海外でも出来るから心配しないで。時差もほとんどないし。先生に貸しがあるから、最優先に対応してくれるわ。」


外科の新人「ありがとう。気をつけて、楽しんできてね。」


内科の新人「あなたも。3人で無事再会しましょうね。」



 外科の新人はケーキ屋さんへ。内科の新人は自宅に向かっていった。


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