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外科の新人の歩み2 マロンケーキ

 外科の新人は、どうやったら看護師になれるのか一生懸命調べる中で、地方の大学病院の医療法人が経営する看護学校が寮も備わり条件も良さそうだった。

 看護についての授業を受け、夏休み等に研修生として働き、国家試験に合格すると、そのまま大学病院に准看護師として就職出来る可能性が高いようだ。


 学校の勉強は卒業出来る程度に抑え、アルバイトに明け暮れ、貯金を蓄えた。


 どうにか看護学校に無事合格し、家族には都会に働きに行くと告げ、予め決めた通り故郷を去ることにした。

 両親には連絡先が決まったら教えるように言われたが、決して教えないと心の中では決めていた。

 仏壇に手を合わせ、おばあちゃんに報告すると新しい世界に出発する。


 旅立つ直前。おばあちゃんを見送ってくれた看護師に報告するため病院を訪れた。


 自分の姿を見て看護師を目指すと伝えると、予想外の報告に看護師はとても喜んでくれた。


外科の新人「あの。私、家族には一切の援助はしてもらえませんでした。高校卒業させてくれたことは感謝していますが、もう戻ることはないです。連絡先も伝えません。今日が家族との決別の時です。この村ともお別れ。。でも看護師さんだけは尊敬していますし、相談もしたいから。。あの、これ連絡先と住所です。」


看護師「そう。。分かった。へー。。これは、ずいぶん遠いわね。。ありがとう。困ったら相談して。用事なくてもたまに連絡するからね。」


外科の新人「ありがとう。。生まれ故郷の唯一の大切な人。私、あなたのような立派な看護師になれるように頑張ります。」


看護師「応援してるわ。簡単にあきらめてはダメだからね。」


 故郷との決別で、唯一の辛い別れだったが、自分に生きる目標を与えてくれた人だ。外科の新人には彼女だけは別れにする気は全くなかった。


 こうして、故郷を捨てて新しい土地で目標に向かって努力を始めるのだった。


 全く知らない土地。故郷よりは遥かに都会だ。知り合いもいない。だが、ここには自分の存在を邪魔と感じる人もいないということ。

 外科の新人は心に常にあった追い詰められた感覚、疎外感から解放されたのだった。



 ここが本当の故郷と自分に強く言い聞かせ、看護師を目指した。

 自然と形成された持ち前の性格で、看護学校ではすぐに多くの友人も出来た。知らない土地の不安もすぐに消えた。

 ここには生きる目標と安らぎがあった。



 今まで看護師の勉強など、ろくにしてこなかったため他の人より成績も悪かったが、生き延びるために身に付けた持ち前の明るさと気遣いで、超低空飛行ながら、ギリギリ看護師という目標を目指している。

 だが他の生徒と違い、金銭的援助はない。懸命にアルバイトをしながら卒業を目指す。

 

 看護学校の寮生活が終わりとなる最後のクリスマスを迎えた。

 病院での最後の研修の初日だ。緊張から解放されると1人でクリスマスをお祝いしたい気持ちになり、仕事帰りに研修生として働く病院の近くのケーキ屋さんでケーキを選ぶ。


店長「あのー。お嬢さん。早く選んでくれないかな?もう店を閉めないといけないから。彼氏が待っているんでしょう?急がなくていいの?」


外科の新人「あっ、ごめんなさい。みんな美味しそうで悩んじゃって。。でもね、彼氏なんていないわよ。私は貧乏な看護学生なの!アルバイトに研修。彼氏を作る暇なんて全くないですよ。」


店長「へー。」


外科の新人「あーっ!ちょっと?あなた、このルックスなら仕方ないかって思ったでしょう!ひどいなー。」


店長「違う違う。誤解ですよ!いや。。あのね、僕は看護師さんって憧れでね。いいなってね。」


外科の新人「えっ!なに。ナース服に憧れってこと?変態?」


店長「失礼だなー。違いますよ〜。看護師さんが奥さんだったら。。調子悪い時にありがたいなって。結婚するなら看護師さんか医師がいいんだ。でもやっぱり看護師さんが一番だな。。まあ、ただの憧れなんだけどね。」


外科の新人「そうなんだ。。誤解しちゃった。ごめんなさい。あのー。ということは独身なんですか?」


店長「ええ。あなたと同じく、朝から晩までケーキ作って売ってたら出会う時間もないですからね〜。」


外科の新人「そんなの。。アルバイトの女の子でも、お客さんだって女の人ならいっぱいいるでしょう?」


店長「あのねえ。働く人もお客さんも失うでしょう!そういうイメージダウンがサービス業には一番命取りになるんですよ。」


 外科の新人は何故か良く分からないが、自然に言葉を発してしまう。


外科の新人「ねえ。。だったら。。私から誘うのは?私が2個買うから一緒にケーキ食べない?お家は遠いんですか?」


店長「えっ。。ああ、ここの狭い2階に住んでいるんです。毎日朝が早いから実家帰るのも面倒でね。ケーキは毎日試食しているから私は要らないです。」


外科の新人「もー。。あ、あのね?私。。男の人と付き合ったこともないの!もー、わ、私、ものすごく勇気出したのに!ダメなら早く断ってくれないかな!」


店長「んー。。だったら早くケーキ選んでくれませんかね?」


外科の新人「なんか気分悪い催促だわ〜。いいわよ1人でクリスマス祝いますよ!」


 外科の新人は、最初と気持ちが変わり、何故かマロンケーキを選んだ。


店長「うわ〜。それを選んだか〜。。ありがとうございます。210円です。」


 外科の新人はお金を支払う。


店長「さて。。2階で食べますか?お持ち帰りされますか?」


外科の新人「えっ?」


店長「い、いや。あの。。看護師と聞いたら。。しかも誘ってもらったら。。男として応えないといけない。あっ!もちろんあなただからですよ。ああ、門限とかあるのかな?」


外科の新人「今日だけは門限ないの。ただ、門限はどうにでもなるんだけどね。。あの。。本当に私なんかで。。」


店長「あなたの人柄は雰囲気で伝わりました。とても明るそうですし。でもね、なんか、ずいぶん自分のルックスに自身無さそうですけど。。僕思うんですよね。好きになった人のルックスが好みになる。もちろん綺麗で憧れる場合もあるでしょうけど。」


外科の新人「えっ。。本気?私なんかで。。」


店長「毎日毎日生きるために働き、そんなことは忘れていましたよ。あなたが勇気出してくれたし、条件を満たしてしまったから。。絶対に期待には応えないとと思いましてね。ちょっと店を閉めてきます。」


外科の新人「終わりは早いのね。。」


店長「見舞いの時間終わるとお客さんは滅多に来ないから、いつもなら1時間前に閉めてます。たまたま今日はクリスマスだから、少し延長したのですが。。延長したけど、お客さんはあなただけだった。まあ、僕にはあなただけで最高のクリスマスプレゼントになりましたけどね。とはいえ。。はあ。。クリスマスケーキ結構余ったな。明日までに売れるかなー。明日は値下げしないと。」



外科の新人「もしもし。あのさー。クリスマスケーキ買う人いないかな?1個2500円らしい。。うん。。なんだ。みんな彼氏と過ごすんじゃないんだ。結構いるのね。」



 店長がシャッターを閉め戻ってくる。


外科の新人「はい。。7個かー。。何とか8個にならないかな?。。いい?。。でも、かなり遅くなるかも。いいかな?。。分かった。今日中には持っていくからね。」


外科の新人「店長。寮の人が欲しいって。8個買う。完売ね。1個2000円みたいだけど2500円って伝えたよ。今日届けないと。。ねえ、店長は明日何時?」


店長「本当ですか!なんて素晴らしいお客様。サンタさんだな。。毎日朝は4時かな?でも、あと1日頑張るだけだからね。毎年クリスマス過ぎたらあまり売れないから正月まで休むんですよ。」


外科の新人「そうなんだ!じゃあ。。今日は食べたら帰ります。けど。。あの。。えーと。。あ、明日の閉店後にまた来てもいいですか?あの。。わ、わ、私、明後日が休みだから!」


店長「本当ですか!信じられない。ええ、是非。では2階へどうぞ。」


外科の新人「へー。。確かに狭いなー。」


店長「夕食は?」


外科の新人「えっ?まだですけど。。」


店長「じゃあ軽く作りますよ。一緒に食べましょうか。」


 店長は夕食を作りテーブルに並べる。


外科の新人「うわ〜。私より全然上手ね〜。ねえねえ、お店出せるんじゃない?」


店長「一応それなりに修行はしましたから。ケーキ屋を最終的に選びましたが。さあ食べましょう。」


外科の新人「うわっ!美味しい!凄い。。」


店長「2人で食べるからじゃないかな?」


外科の新人「それもあるかもしれないけど、間違いなく美味しい。尊敬しちゃうわー。」


店長「んー。実は。。もし、あなたがマロンケーキを選んだ場合は勇気を出すと決めていたんです。」


外科の新人「えっ!そうなんだ!不思議なのよね〜。私、最初からイチゴのショートケーキと決めてたんです。何で選んだのか未だに分からないの。」


 美味しい食事のあと、不思議とお互いに過去の話がすらすらと出来た。2人は急激に距離が縮まっていった。

 あっという間に2時間近く経ち、外科の新人はマロンケーキを食べる。


外科の新人「へー。。マロンケーキ。いいかも!」


店長「自分の一番の自信作だからね。これを選んだらねえ。。ああ今日中にケーキ届かないといけないですね。食べたら車で送りますよ。」



 店長と立ち上がる。突然、外科の新人は店長にキスする。



 店長はびっくりした。



外科の新人「あの。。怒ったかな?私、初めてで。。どうしたらいいか分からなくて。いや、あの。す、好きになっちゃったみたい。。私、こんな気持ち初めてなの。どうしてもクリスマスの思い出が欲しかったし。。」


 店長は外科の新人を抱きしめ「僕も好きなんだと思う。すごく嬉しかった。夢みたいなクリスマスになったよ。ありがとうね。」


外科の新人「あの。。明日も会いたい。」


店長「もちろん僕も。じゃあ、あなたが来るまでずっと店開けてますよ。邪魔されないように、あなたが来たらすぐに閉めますけどね。」


外科の新人「うん。明日来るね。もし仕事で行けない場合はお店に。。いや、あ、あの。携帯番号交換して下さい!」


 連絡先を交換し、車にケーキと彼女を乗せて寮に運ぶと店長は帰っていった。



 寮のみんなは大喜びでグループごとに楽しいクリスマスパーティーになっていった。



 結果的に外科の新人はイチゴのケーキを食べることが出来たようだ。



 パーティーを終えて、ベッドに横になると店長の電話番号を眺めながらファーストキスの体験に頬が赤くなるのが分かった。


 こんなに突然恋に落ちるんだ。。すごく不思議だわ。



 今までの人生で一番幸せなクリスマスになったようだ。


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