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外科の新人の歩み1 人生の目標

 外科の新人は、田園風景が広がるのどかな村の家庭で三女として生まれた。

 外科の新人の家庭は両親と父方の両親、兄1人、姉2人の田舎の大所帯。彼女はその家庭の末っ子だった。


 4人目の子となると、両親の扱いもかなり雑になった。正直、望まれて生まれたとは言い難いのは事実だった。

 家庭では窮屈な思いをして幼少期を過ごしていた。


 家族の顔色を伺いながら、明るく振る舞うことで自分の居場所をどうにか確立し、彼女の人柄は形成されていった。

 外科の新人は、場で周りを観察し自分が邪魔にならない存在になる能力を身に着け、周りへの気配りも秀でていた。嫌味がなく好感を抱かせる性格になった。

 自分の疎外感は表には決して出さなかった。


 だが、そんな中でも、おばあちゃんだけは外科の新人を一番可愛がった。おばあちゃんになついて幼少期を過ごし、おばあちゃんは心のよりどころだった。



 そんな日々を過ごすうちに、中学を卒業し高校に進学する。

 外科の新人は深く考えることなく、授業料の安い公立高校の普通科に進学した。

 しかし、普通科に進学したものの、家庭からは大学進学させるお金はないと伝えられていた。

 卒業後に働くことになるが、自分が何をしたいのか分からず日々を過ごしていた。


 日ごろ明るく振る舞ってはいるものの、1人になり将来を考えると明確なビジョンは全く描けない。

 ただ、はっきり決めていることは卒業したら家を出ること。そして2度と戻らないことのみだった。



 そんな日々を過ごす中で、高校1年の冬に一番慕っていたおばあちゃんが病気になり入院した。


 毎日学校が終わると病院に通い、おばあちゃんの様子を見る日々が続いた。

 おばあちゃんの寿命はもう長くないことは、家族の会話の中から伝わっていた。


 日に日に弱るおばあちゃんの様子に心を痛める。そんな姿を見かねて、担当看護師が声をかけた。



 もう診察も無い、誰もいない待合室で看護師が話しかける。


看護師「あなたは毎日毎日凄いわね。関心するわ。」


外科の新人「おばあちゃんが生きている限り、おばあちゃんに元気な姿を見せたいんです。私は末っ子で家も裕福ではないの。私は、要らない子なんです。でも、おばあちゃんだけは私を一番可愛がってくれた。だから出来ることをしたい。」


看護師「そう。。まあ、家庭のことは私は知らないから言う資格はない。ただ、家族の中であなたが一番おばあちゃんを大切にしているのは分かるわ。他の人は月に1回くらいしか来ないものね。そういえばおばあちゃんの旦那さんは亡くなったの?」


外科の新人「ボケちゃったから。もうおばあちゃんも分からないと思う。だから、私だけでもおばあちゃんを大切にしたい。。おじいちゃんはボケていなかったら。。きっと世話したと思うんだけどな。」


看護師「そう。。」


外科の新人「ただ寿命を迎えるだけの人を看護するなんて凄いと思う。」


看護師「病院には様々な方が来るわ。私は生活のためにただ働く仕事は嫌だった。どうせ働くなら人の役に立ちたかった。でもあまり頭良くなかったからね。。私は看護師になれて自分が誇らしかった。日々に溺れる時もあるわ。ナイチンゲールみたいに立派になんてなれない。でも、1人の人生の最後を幸せに苦しまないように精一杯やりたい。もちろん治って元気に出ていく患者さんも精一杯やってはいるわよ。。でも、見送る患者さんには特に絶対に後悔するようなことはしたくないの。」


外科の新人「おばあちゃんの担当があなたで本当に良かった。」


看護師「さあ、遅くなったから帰りなさい。」


外科の新人「おばあちゃんをよろしくお願いします。」



 自宅に戻ると考える。あんなに仕事に誇りを持てるって凄いな。。大変な仕事なのに。。


※※※※※


 外科の新人が高校2年の秋におばあちゃんは家族に見守られながら、息を引き取った。


 家族の中で泣いているのは外科の新人だけだった。家族は葬儀の手続きなどで慌ただしく帰っていった。



 非常に悲しい気持ちで病院を後にしようとした時、待合室で担当看護師が号泣していた。


外科の新人「看護師さん。。」


看護師「ああ。。。残念だったわね。私は精一杯やったつもり。。私ね。人の死はいっぱい見てきた。でも見慣れて感情もなく淡々と処理なんて出来ないわ。。そんな人間になったら。。この仕事は辞める。あなたが一番悲しいわよね。残念ながら2番目は私みたいね。だから余計に辛いのよね。あなたはおばあちゃんを幸せにしたと思う。」


外科の新人「看護師さん。ありがとう。。あなたがいなかったら。。おばあちゃんは。。本当にありがとう。」


看護師「私の役目は終わった。今日で気持ちを切り替えるわ。生き続けないといけないからね。ごめんなさい。」


外科の新人「謝ることじゃない!感謝してます。」


看護師「そう言ってるもらえると。。ありがたいわ。自分だって迷いながら自分の信念を貫いている。何が正解かは分からない。でも正しいと信じてる。。さあ、あなたはまだ見送らないといけない。帰って出来ることをしなさい。」


外科の新人「ありがとうございました。」



 葬儀を終えて、自分の将来を考えた。あんな看護師さんみたいになれるなら。。私も努力したらなれるなら。。


 おばあちゃん。私、看護師を目指してみる。


 全く描けなかった未来に一つの目標が出来たようだ。


 

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