◇0005_スライム退治2
ルリアと一緒に、グラスリムから離れた山まで移動する。その場所で、スライムが規定以上の数に増えたため討伐する必要があった。
スライム。粘着系不系統型魔獣。変形可能なゲル状態の身体を持つモンスターであり、一定数増えるとより自然を破壊する危険因子とされる。
ただ、一体あたりの戦闘能力はかなり低く、少数であればほとんど無害のため放置されることが多かった。
一体だけであれば、経験値が1しか手に入らないモンスターだからだろう。
「正直、真面目に考えるとスライムも割と迷惑なやつなようだ」
面倒くさそうな言動をしながら、リッカは目の前にある惨状を確認する。まだ小規模ではあるが、木や草が長い時間をかけて溶かされているのがわかる。目の前に広がっているスライムの数はおおよそ50匹程度。集団となることでお互いを守っているようだが、集合体恐怖症には辛い絵になっていた。
「あぁして、魔力のある草を食べて生息している。見た目は可愛いけれど、自然にとっては悪影響を与える魔獣ですね」
「今、可愛いっていったか?」
「ゴブリンよりはマシという意味です。溶かして食べるとおいしんですよね」
そんなことをほんのりとした顔で言われてもこまるのだが、そもそも食べたことがあるのか。スライムを。
「問題は数の方だが、取り逃すと後で面倒だ。別々に別れて挟撃しよう」
「敵も複数居ますからね。くれぐれも、変な場所に行かないでくださいね。いくら私でも、行動できる範囲は限られています」
「分かっている。変な真似をするほど、何もできないわけじゃない」
その後、二人は別れて別の場所へ移動する。
多く居るスライムを左右から挟撃する作戦。指定された場所まで移動していくが、やはり一人だと心細い感じがした。
森の中、まず人工物などない世界では己の感覚が重要になる。
「迷子になって死亡することは避けたいな」
奥深くまで進んできたのだ。下手な移動をすれば、すぐに迷子になってしまうのは事実。
ある程度、スライムや今移動した通路を何とか覚えておくしかない。目印としていくつか用意したが。気休めでしかないだろう。
目的地へ到着。そこで、ユリアの合図を待つ。その静けさがどこか、もどかしい感じがする。過度に神経質になりそうなほどの世界。今はスライムのことを集中しなければいけない。
「っ!」
ホイッスル。ユリアの合図である音が鳴り響いた。
その瞬間、自分はスライムの所まで一気に走ろうとした。しかし、その木々を抜けようとした時だった。突然、目の前に居た誰かにぶつかってしまう。
こんな場所にも人が居たのか。奇跡的かどうかは微妙だが、こんな場所にいるとは思っていなかった。
「す、すまない」
ぶつかってしまった相手に謝る。ただ、相手は無表情のままこちらを見ていた。
色黒の少女。長い、グレイブと思われる武器を持った少女。
「何か、まずいことでもしたか?」
「・・・・」
無言でこちらを見続ける少女。その少女をよくみると、長い耳をもっているのが分かる。
視覚的な印象だけで言えば、ダークエルフのような少女だ。
「貴方は、剣士」
「え?」
「貴方は、よく匂う。いい、魔力の匂い」
「えぇと、今は急いているんだ、すまないがまたこん、」
長いグレイブがこちらに向けられる。そして、周囲に立ちこめる赤い瘴気がリッカの感覚を襲った。
「こ、これは・・!?」
振られるグレイブ。リッカの意識が朦朧としている隙を狙った攻撃だった。何とかその攻撃を院鉄のロングソードで受け止めるが、その衝撃で倒れ込んでしまう。
「えい」
グレイブが再度、リッカを殺すために振り回される。その、彼女の背後、物凄い速さで突進してきたルリアが彼女の攻撃を防いだ。
響き渡る鋼の音。ルリアが持つハルバートが見える。助けてくれたようだが、これでスライム退治は失敗したようなものだ。
「ルリア、よく分かったな・・」
「近くに人の気配がするのはわかっていたので。早めにホイッスルを鳴らしました」
「だとするとかなりの察し方だけどさ」
目の前に居るダークエルフの少女と対峙するルリア。
「何者かは知りませんが、攻撃するのであればこちらも容赦しません」
「何だ。とても残念な結果になったわね。久しぶりに人を殺せそうだったのに」
「貴方は、正規の剣士ではないようですね」
「えぇ。山賊に正規もなにもないでしょう」
「山賊・・?」
はっとするルリア。相手が山賊だとしても、相手はルリアと同じ少女だ。
「待て、ここで戦うのはよそう」
「襲われておいて呑気ですね。そんなにおっぱいが好きなんですか?」
「それはこの際関係ない」
「その人は私と会った瞬間、私の体をすみから隅々まで見ていた嫌らしい人間」
「話が混沌とするから止めてくれ、大体、山賊ならどうしてこんな場所に居るんだ」
「スライムを大量発生させていたのは私」
突然、彼女はそんなことを言い出した。この惨状を作り上げていたのが彼女だというのだろうか。
「つまり、スライムを誘導してこの場所を荒らしていたのですね」
「だから、悪気はあるわけじゃないわ。メイドの子も落ち着いて話を聞いて」
「聞けるわけないでしょう?貴方はここで捕まってもらいます。今なら正当防衛で貴方を捕まえられるんですから」
「そう。仕方ないわね。でも、貴方が私を止められると思っているの?」
「やってみますか?」
ハルバートを向けるルリア。相手の少女もまた、大きなグレイブを構え直す。
「山賊のクラーナ。覚えておくといいわ。メイド騎士」
「・・私はルリア、貴方を倒して今後の名誉にしてみせます」
お互いに名乗った後、二人の武器がぶつかりあう。その後、向こう側へ移動していってしまった。
「待て、二人とも・・!?」
見ている場合ではなかったようで、二人がそのまま向こうへ行って戦闘を行ってしまった後が問題だった。クラーナ、と名乗ったダークエルフの口笛が聞こえると、リッカの方へスライムの群体が雪崩れ込んでくる。
「なんだこれ・・!?」
数十体のスライムが固まって攻撃してくる。お互いに魔力が結束しあっているのか、周囲の木々を破壊しながら進んでいるようだった。
その攻撃を回避し、隙を狙ってロングソードを叩きつける。
しかし、その部分だけ強化されたのか、スライムの体が非常に固くなって貫通させることができなかった。
スライムの回転するような攻撃にあおられてしまう。固まったスライムの防御力もそれなりだが、これではルリアのところまでいけない。
「これなら・・!」
魔力の濃度をたかめ、ロングソードの攻撃力を高める。それによって一撃で伸びる触手を切断させることができた。しかし、どういうわけかスライムは異常な早さで回復するのだった。
「面倒臭い敵だな・・」
そのスライムにはコアはあるが、それも複数存在するせいで強化されているのだろう。
お互いの結束力が強まるほど、スライムの防御力が高まっていくようだ。
「全てコアを破壊するしかないのか・・?」
伸びる大きな職種が、木々を薙ぎ払って移動する。出鱈目にも見えるスライムの攻撃を回避しつつ、攻撃する方法を考えていた。
その鈍重な攻撃を回避し、スライムのコアにロングソードを直撃させる。
だが、それだけではすぐに倒すことはない。複数のコアが機能しているのだから、すぐに全て破壊しなければならないのだろう。
「不思議パワーで増殖されても困るんだが・・無駄に動きが鈍いだけマシなのかもしれん」
何とか早く倒して、ルリアとクラーナの戦闘を止めなければいけない。スライムの集合体を相手に、リッカは集中してコアの全壊を目指す。スライムは50体居たから、少なくとも数分以内に50個全て破壊すればいいだけの話だ。
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・クラーナ