◇0045_増殖ドラゴン
「待て、ここで俺たちが戦う必要はないだろう、どうしてこんな真似をするんだ」
「随分と必死な態度を取るのね。そういうところが私は好きだけれど、大丈夫よ。抵抗しなければ貴方は安全なのだから」
「ちっとも俺は安全だとは思えないんだけど、リステリア、お前は一体何なんだ?一体何が目的でこんな真似をする」
「別に目的らしい目的は無かったのよ」
何処か、一瞬ちぐはぐな言動になったような気がする。
目的が無いのなら、一体彼女は何だと言うのだろうか。
「私はこの街のことなんてどうでもいいと思っている。これから来る災厄に関しても、私は知らないつもりでいた」
「何だって?」
「災厄、恐らく貴方にとっては最後となる審判の日。私はそれを回避するために貴方を匿うつもりでいる。
あの日以来、ただ私は自分というものが分からなくなってきた。
私にとってはこの繰り返しが、恐らく貴方にとって大きな価値になるものだと信じている」
そう言って、赤獅子の直剣を向ける。
彼女は、やはりここで始末するつもりなのだろうか。
「魔術協会の味方をするつもりか?」
「勘違いしないでくれる?貴方は、国、世界、魔術協会、ギルド協会、そして女神。全てから守ってあげるといってるの」
「女神・・?」
「話していなかったから分からないわね。女神アリスティア、貴方にとっては重い呪いとなる一つの輝き」
どこまで、彼女は知って居るんだろうか。
下手をすれば、リッカの重要な部分までもリステリアは知って居ることになる。
「その輝きに満ちた時、結果は災厄の時を迎える。貴方を、死なせはしない」
「言ってる事とやってる事が逆な気がする。それを返してほしい」
「返すと思っているの?」
「少なくとも、君は敵じゃないはずだ」
「敵よ。そして、貴方を守る天使でもある」
「そんな無茶苦茶な事を・・!」
リステリアが持つ赤獅子の直剣を何とかして奪い取るべきか考えていた時だった。
突如、地震が起きる。
まさか、アーニャが更に強力な魔法スキルを使ったのだろうか。
「これは、一体・・?」
「リステリア・・!」
「きゃぁ!?」
彼女を押し倒して、何とか剣を奪い取る。
ただ、何故かそのまま彼女に抱きしめられる形になってしまった。
「そう簡単に行くと思っていたかしら。ここで一時を過ごすのもいいけれど」
「待て、そういう状況じゃないと思う・・?!」
突如起きた異常、外には謎の暗雲が広がって居た。
「これは一体?」
リステリアの知らない状況、
その奇妙な魔力の流動を感じたリッカは、外を確認する。
街の遠くから見るドラゴンの群れ。
一体何が起きているのだろうか、こんな状況が生まれるとは思ってもいなかった。
「どういうことなんだ?これも起きると分かって居たのか?」
「私には分からない。でも、イザムなら何か分かって居るかもしれない」
そのドラゴンの群れの向こう。そこに行くしかないだろう。
「待って、リッカ・・!?」
「話は今度だ。今はこの状況を何とかしないと!」
屋敷の外へ出ていくリッカ。
「何が起きているの、これは・・くっ?!」
ベランジェールと交戦を続けるアーニャ、ただ彼女にとっても困惑は続いていく一方だった。
しかし、問題はここで倒されるわけにはいかないことだった。
「さぁ、どんどん行くよー!?」
「貴方、この状況分かってるの!?」
自分でも訳が分からなくなっていく、ただそれ以上に混沌とするドラゴンの群れがあった。
破壊される町。
ある意味悲惨な状態だが、ここでベランジェールは彼女を逃がさないと考えていた。
街の中を移動する。
リッカが走って行くその場所に居たのは、イザム本人の姿だった。
「これは一体どういうことなんだ、お前の仕業か・・!?」
「盟約というものだ。これは」
「何だって・・?」
「お前たちが討伐したドラゴンと同種のものだよこれは、人類にとっては新しい叡智も刻まれる」
「この町を滅ぼす気か?!」
「これは事故みたいなものだ」
ただ、彼は武器を持っていない。攻撃する意思が無いのだろうか。
ふと、突如、城がある咆哮から巨光が吹き荒れる。
一閃によってドラゴンの一部が殲滅されたが、それだけで防げるものではなかった。
「姫君の宝具か。さて、どちらの少女かは私の知らぬことだが・・」
「イザム!」
彼に対し、剣で切りつける。
容赦なく斬られた彼は、そのまま地面に倒れることになった。
その後は、ドラゴンを倒し続けるしかない。骨の折れそうな戦いだが、今は頑張るしかないだろう。
荒廃した街並み。戦闘が終わった後、ただルリアは呆然と見ているだけだった。
自分が住んでいた屋敷や町。
ただ、こうなることは分かっていたつもりだが。
いざこうなるとやはり虚無的な感想を抱くかもしれない。
街の人々は、ただ嘆くしかにだろう。
でも、その中でも生きていく努力はしていく人もいた。
「結局、何が何だかよく分からなかったけれど。色々、やり直さないとな」
「大丈夫だと思います。リッカ様なら」
「そういうものなのかな。きっと、こういう世界を旅して、誰かを救っていくのが使命なのかもしれない」
「そうですね。きっと、私たちはそういうことを何度も繰り返していくしかないと思います」
理由はただよく分からなかったが、ドラゴンの討伐はなんとか終わらせることができた。
後は、二人で次の旅路を続けるしかないだろう。
女神から受けた、ある意味孤独な使命。その異世界の旅路は、ただ果てを感じさせrものではなかった。