表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の旅路  作者: にくまん
Volume_2
42/45

◇0042_宮廷会議

「ですから、何度も申し上げているはずですよ。フェルディナンド様。私たちができることはより深淵の道を突き進むのみ。

ただ、現状のセインレムにおいて存在しているS級ダンジョン。それらの管理については国だけで行えるものではないのなら。

可能な範囲であれば、魔術協会である魔女のカルネヴァーレが探査を実行できると考えていますから」

ある施設に存在する会議室。そこで、王族と魔術協会の話し合いが行われていた。

現時点で魔術協会が起こしていた一連の行動や事件、後にどう落とし前をつけるか議論を続けていたが、まだ答えらしいものはない。

王族たちの前に居るのは、魔女のカルネヴァーレの一人、アダルブレッド・ゲアハルト。

こうして王族たちを前に一人で交渉に出ており、長い議論を何度も繰り返してきている。

ただ彼の冷静沈着な態度と言動によって、その議論は長期化する一方ではあった。

「S級ダンジョンの管理についてそちらに一任させるのは無理筋だ。外国から出て来た人間に任せられるものではない。

私たちにとって大切なのは法の正確な実行だ。すぐに他者の利益によって曲げられるものではないが。

それとも、アルビオンの人間がそれほどお前たちに屈しているのなら。それは露骨な判断だ」

「確かに、アルビオンの現時点の国力は、戦争と自然破壊によって一時的なダメージを負っている。

私たちにとって可能な努力はしてきたつもりでしたが、やはりセインレムによる交渉も必要になって来るでしょうか。

本当であれば、私たちもすぐにアルビオンの民を救う手立てをしたいところですが。より他の勢力が邪魔をしているんですよ。

魔術協会も一枚岩ではない。他の奴らとの争いもあって、一時的に私たちは追いやられていたんですから。

聖域のオブリビオンに関しては、この際お互いに譲歩しあう方がいいかと思われますが」

「それについては考慮しない。私がお前たちに要求しているのは、街からの撤退だ。その代価も用意しているはずだが」


「ですが、それではまだ足りない。魔術協会にとっても、ギルド協会にとっても、やはり自分たちの力は運用しにくいものです。

魔法というものは常にそうだった、私たちには、まだやるべきことがあるのですからね。

新しく発見されたダンジョンがあと三つあると聞きましたが。それも高ランクであれ、やはり貴重な性質を持っていると思われる」

フェルディナンドにとっても、そのダンジョンはある程度、管理しやすいものにしておきたかったが。

ギルド協会同士の抗争・・それによって起きた事件によって人員が削減されてしまっているせいで、彼等に助力を要求するしかなかったのだ。

「全てAランクのダンジョンですが、ある程度調律環境が整えれば私たちにとってよい成果になる。

こうして、お互いに築きあげられる勢力はそう無駄にはしたくはないはずですが、やはりまだ問題はあるでしょうか」

「問題があるとすればあるだろう。お前たちが町で起こしていることはこちらも知って居る。

そう簡単には解決しない問題かもしれないが、だからこそお前たちはここに居るのだろう。

自分たちの力に限界があったから、結局自分たちにとって活動しやすい方を選んだだけのことだ」

「それは承知しております。結局、組織といっても中身は人間ですからね。ただ、だからこそ私たちは上に上がらなければならない」

アダルブレッドは交渉の中で、ある程度不利であった内容を撤回させようとしている。

ここで魔術協会、魔女のカルネヴァーレは他の魔術協会のグループとの抗争に有利に立ちたいと思っていた。

敵が多い、そういった環境の中で出来る事は。パワーバランスの整理ということになるだろう。

「それはいけませんね。魔術師として才能がなければいけないのに、人間としてあたりまえなことに足を引っ張られてしまうだなんて」

そう、カタリナは言う。王の隣に立つ、宮廷騎士の一人。

アダルブレッドにとっては、少しばかり厄介な人物ではあった。


「血生臭い競争を回避する以上は、私たちもまた冷静でいなければならないのですから。えぇ、分かって居ますよ。カタリナさん」

「本当にそれで理解しているのであれば問題はないんですけれど。でも、だからといって仲間を自由にしすぎではないですか?」

「私たちが認知している町での事件のなかで、魔女のカルネヴァーレによる暴走はある程度抑制しています。

おかしい状態になったと思われる魔術師が居れば、私たちがある程度コントロールしているつもりですから」

「はぁ。十分今もおかしいと設けれど。いいです、これで本当にあなた達がA級ダンジョンの制覇に協力してくれるのなら問題ありませんね。

ただ、ここで交渉は成立するわけではないです。あなた達がそこである程度、誠意をみせてくれないと」

「そうなると私たちがタダ働きになるのですが。まいったものですね」

「人聞きの悪いことを言わないでください。一応、金は払っているつもりですが」

金の問題ではないが、と言おうとしたところでアダルブレッドは止める。

イザムから指示された通り、今はある程度議論を長引かせる必要はあった。交渉決裂にならないようにする文、技術が必要になるが・・。

「えぇ。分かって居ます。ただ、私たち魔術師にとって重要なのは魔術の中に潜む深淵たる秘儀であって、俗物的な価値ではない。

そういった慎ましい生活をしてきていた私たちには、やはりどうしても金だけでは足りなくなる一面性があるんですよ。

それはお分かりしていただけるでしょうか?私たちは魔術師として生きているからこそ、過度にセンチメンタリズムを倍加させてしまうと」

「はぁ。私も一応魔術師なのですが。やはり、魔術協会のあなた達もそれなりに努力はしてきているのでしょうか」

「努力という一言だけで言い表せるものではない、私は少なくともそう思っているつもりです。一言で説明できるほど価値の低いものではないと。

だからこそ、私たちは私たちなりの光と聖性に満ちた魔術の在りかたを塾講しなくてはいけなかった」


「アルビオンに迫害された魔術師の言う事だ。あまり真剣に悩む必要はない、カタリナ」

辛辣な言い方をフェルディナンドはしていた。実際、その通りなのだろう。

目の前に居る魔術師も、その言葉の通りかなり厳しい修練を積んでいるはずだ。

だからこそ、そういった言動に関してそこまで疑問を感じることはないのだが。カタリナにとっては歪な生体にも感じる。

そう、強いて言うのであれば、彼等にとって最大の目的が魔術であって人生ではないのだ。

「困った人ですね。確かに魔術そのものは大切ですが、それで町で暴れていい理由にはなりません。

魔術師は、戦うために生きているわけじゃないのですから」

「では、戦いとは何なのでしょうか、剣と剣であれば普通の人間でも表現できるでしょう。そこに魔術が絶対視されるわけじゃないのだから」

「魔術師同士の、と言った方がいいでしょうか。魔術師は魔術師であることに意義があるからこそそういった話をされているのでは?」

「私は一度たりとも、自身を一流の魔術師だとは思っていません」

だとしたら三流ですね、とカタリナは内心つっこんでしまう。正直、ここまで来ると押されたほうが負けだ。

あるいは、先に殴った方が負けともいう。そんなルールなど最初から無いというのに。

「では、その一流ではない魔術師さんにとっては、その戦いは一体なんだったのでしょうか。

殺し合いではなく、喧嘩でもなく、そこに義憤があるわけでもない行動にどのような行動理念があったのか教えてくれますか?」

「簡単な話です。イザム・アストレアの思うがままに」

「忠誠心で動いているのでしょうか。どうやら、私には手が負えないようです」

「女性には刺激的な言動でしたでしょうか」


そういう問題じゃないかと重されるが、やはりこのままではいけないと感じられてくる。

相手に乗せられてはいけない、そう思ってカタリナは集中した言動を言う。

「別に、貴方の言っていることに関して悪いとは思っていませんん。ただ、組織のリーダーにいちいち反目するわけにもいかないですから。

結果的にはそうなってしまった、成り行きというものを否定できるわけでもないでしょう。

ですが、その魔女のカルネヴァーレのリーダーであるイザムさんがこの場所に居ないせいで、議論に穴が出てきているのでは?」

「えぇ、私も大変残念に思っているのですが、彼は前に出てくるタイプの人間ではないですから。

本来でれば、王と直接会談する方がいいと思っていたのですが、彼はそれを拒否致しました」

「ある意味無礼とも取れる、イザムという人の理念については?」

「彼は魔術師としても別の側面を持った人ですから。その力は扱い方次第では周囲に危険が及ぶのです。

安全を考慮した以上、、むしろ直接話し合うよりは、私のように代わりの人間を使うことがあるのですよ」

「はぁ。随分、魔術に関してかなりの自信があるのですね。どういった力なのですか?」

「彼は重力・・その力に関連する魔術を扱えます」

重力、という聞きなれない単語にカタリナは首をかしげていた。

ただ、そういったレアスキルを本当に持っているのだとしたら、そう間違いではないのかもしれない。

「だそうですが、どうしましょうか?」

「私が聞きたいのは魔術師としての理念ではない。ただ、お前たちが退くまでは交渉を続けさせてもらう」

複数回行われた会議、ただその中でフェルディナンドは、魔術協会の考えを見極めようとしている。

少なくとも、そう無駄にすることはできない時間だった。



宮廷にある一室。エゼルは濃いめの紅茶を飲んで仕事の休憩を楽しんでいる。

遠い山地から取り寄せられた名品だが、ただエゼルはそれをあまり美味と感じた事は無かった。

父親が魔術協会との交渉を終えるのには少しばかり時間がかかるだとうと考えて、少しばかり仕事に集中していたが。

恐らくこれから先戦闘は必須になるだろう。キサラギ・リッカにはもう少し努力して成果を出してもらいたいものだった。

「不思議なものだな、結果的には、外の世界から招かれた魔術師を信頼するとは」

本来であれば、ついこのあいだギルド協会に登録されたばかりの魔術師にそう簡単に協力を養成したりはしないだろう。

本来なら、エゼルの行為もまた逸脱した行為の内に入るかもしれない。

ただ、リッカはそれなりのポテンシャルを持っている、利用してやらない道理などないのだ。

「やはり、彼の力は魅力がある。それを、手中に収めるのも、政治の中枢に居る人間の役目だ」

そう自分に言い聞かせるように、ただ無駄に凝って居る油絵を見る。

黄金の縁、過度に彩色されている壁や床。彼の居る場所は、ただ王族の居る場所として定義されている空間だ。

その中に、迷い猫のように一人少女が入って来る。

「お兄様、お仕事は終わって居たのですね」

セフィーリア。実際には、ユーリィが入れ替わって居るが、エゼルにとってはまだセフィーリアのままだ。

「あぁ。いつまでも書斎の中には居られないからね。そういえば、セフィーリア」

「はい?」

「リステリアを見なかったか?」


首をかしげるセフィーリア。少なくとも、彼女はリステリアを見ていないようだった。

「何か、用事があるようでしたら。私が探しますか?」

「いや。目を話していたすきに何処かへ行ってしまっただけだ。他に何か用事があれば言ってくれると助かるのだが」

「やはり、色々と大変なようですね」

「我が妹からしてみれば、滑稽なことだろうか。昔は、ただ騎士になることを夢見ていたが・・」

「お兄様にできることがあれば、私もお手伝いいたします」

「それはいい。君は君なりのことを考えているほうがいいだろう」

「やはり、私のような少女が政治に関わることは、不健全だと思っているのでしょうか」

「そういう話では断じてないのだが・・」

「お父様もそうですが。結局、いくら魔術師であってもそう多くの汚れ仕事をしたいわけではない女性もいますから。

私も、結局はその中の一人かもしれない。もっと女神のような、魔法の力がつかればいいけれど」

「女神、か。それは壮大な話だが、ただ悪い一面はある。そういう大きな力ほど、その女神は不自由な生き物になるだろう。

人の形を保っている以上は、人間の倫理でしか動くことはできない。その外へ出る事を、人間は逸脱と呼んでいる」

「では、結果的には、私はただ少女のように過ごさないといけないのですね」

「少女のように、というよりは。ただセフィーリアは多くのことをまだ知らないだけだ。

世の中には危険が多すぎる。その危険な道筋をどう考えて生きていくか。難しいことだらけだが考えてみてくれ」

ただ、リステリアがエゼルの目から離れたということはどういうことなのだろうか。


エゼルのことを放置して独断的な行動を取る、宮廷魔術師としては少し目立つ行動だった。

ただ、今は時を待つしかない。ユーリィは、屋敷に居るセフィーリアのためにも、ただ彼女の代わりを果たすことに集中する。




「無論、私は国に目を光らせるようなことばかりをして、ただあなた達を苛正せているわけじゃないんです。

魔術協会というものは、魔術をただ学ぶだけの集会所じゃない。それは一つの宗教的なサークルであり、そしてコミュニティである。

人間が何故魔術に魅入られるのか、それは魔術そのものが神に与えられた一つの秘儀だからでしょう。

古代からえた魔力とその意義、私たちは星刻の神秘に守られて生きているだけのヒヨコだけではないと証明するために生きているはず。

その中でイザムはただ、この世界の内側に潜む神秘に絶対的な確信をもって行動し、思考しているのです。フェルディナンド様」

「ご高説は理解できそうにないが、そのイザムがどうしてそこまで外国のダンジョンに熱中する?

元はアルビオン出身の魔術師だろう?それとも、向こうの魔術学園で迫害されたからここに居るのか?」

「彼は非常に優秀であり、近づける人間などまずいませんでした。反攻できる人間など居るはずがない。

彼の力によって屈することになった魔術師は多い、彼はアルビオンという狭い世界にはもう興味がないのです。

彼が見ているのは世界全体であり、セインレムのダンジョンはその中の一つとして定義されている。

だから、だから彼はこうして今もまた思考を張り巡らせることで、最適解を常に探していると思ってください」

「ふん。最適解か。随分遅い決断力だな。話にならん、そんな青二才のことをどう信じろというのだ」

「陛下、もう少し慎重になさってください。アダルブレッドさんは、少なくとも情報を自ら出しているのですから」

会議室の中、アダルブレッドの長いご高説に、ただフェルディナンドは苛つきをみせている。

時間稼ぎとして言葉を選んでいるのは分かって居る、ただそれでもイザムの過去についてなど興味はないのだ。

魔術師として破綻している以上、彼は魔女や吸血鬼と同類なのだ。

人間という範疇から逸脱した、そこに神秘性などなければ後はただの獣になるだろ。

アダルブレッド本人は、ただ冷静に笑みを浮かばせているだけだ。本心では、どう思っているかは分からない。


「そう、彼の魔術理念は美しい」

「・・・・」

魔術理念、強いて言えば一種の魔術に対する家訓めいたもの。

ただそんな物を持ち出されたところで、フェルディナンドは聞く耳などないだろう。

「彼の思考はより完璧に近いイデアによって収束されていく。といったところでしょうか。知的というよりは、ミステリアスと言った方が良い」

「そのミステリアスな、ばかげた魔術師がどういった命令を部下にしているか。気が知れたものではないな」

「部下の暴走に関しては、本当に私からも謝罪をしたいところです」

部下の暴走、と口では言っているが。本当に暴走していたのかどうかは不明なままだ。

既に、リッカがレオルグを殺害してしまった以上は。

早合点してしまった結果、ただアダルブレッドの口上にうまく利用されているだけに過ぎない。

「魔術理念として最大の美学をイザムは解き放とうと努力してきた。魔女のカルネヴァーレにとってその本質は、まあさに戒律とも言える。

ただ、その中に聖域のオブリビオンに眠る秘宝が必要になったことで、より状況は暗く映し出されるようになった。

魔術協会側が身勝手だと、陛下が弾劾したいのであれば、それでよいのです。しかし、私たちはそれでは満足できていないのだから。

本来、私たちにとって考えるべきことは一つ。聖域のオブリビオンを新しい魔術協会の総本山にすること。

その一つとして絶対候補として挙がったのが、山脈中枢にあるサクラメント。

その場所の在処を教えていただければよいのですが、陛下にとってはまだ足りないことがあるのでしょうか」

「足りないかどうかという問題ではない。更に厄災を生み出す原因になっている以上お前たちは不要だと言いたいんだ」


「不要ではあっても、私たちは動くことはできないのです。要求が多いことはまことに承知していますが、どうか冷静な判断を」

「冷静な判断か。成程、なら冷静でなければよいのだろうな。

また後日、話を改めよう。魔術協会側から提示されたいくつかの要件に関しては、こちら側で考えて置く。

ただ、一つ聞いておくが。結局、イザムという男は自ら動くことが出来ない程度には。別の儀式で手一杯なのだろう?」

「儀式、というか。ある一種の精神修行だと思ってください」

「自ら手を出さない、王のつもりで動いているのか?その男は」

「王、そうですね。陛下のような、正しい血統を持つ王族にとっては、無礼極まりないことをしているかもしれません。

ただ、断じてそれは違うのです。彼の魂は今もまだ修行で苦しめられている、だからこそ彼を助ける弟子が必要になった。

ですから陛下」

眼鏡のズレを直す。アダルブレッドの心中を推し量るには、かなり慎重に考える必要があるような。

「私たち魔女のカルネヴァーレは動くことはできません。私たちにとって重要な物がまだ見つかって居ないのですから」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ