◇0004_スライム退治
受付嬢から、発行されたカードを受け取る。複雑な印が施されており、これで任務受付の手続きができる。
二人はソロギルダーとして、グラスリムのギルド協会で活動できるようになったわけだ。
ただ、そこには悪い人を倒すようなミッションは入っていない。国によって定められた制約上、警察機関や法廷以外の人間や組織が勝手に人を裁いてはいけないのだ。
そう、受付嬢に説明されたが。中世風とはいえ、三権分立がちゃんと成立しているのは褒めたいところではある。
もっとも、立法、行政、司法が明確に区分されていたところでルリアにはあまり興味のない話だったようだ。
ただ、法律を順守せずに姫君を救おうとして、山賊を私刑してしまうのもだめな話だ。
とりあえず、さらわれた姫君に関しては国のエリート剣士に任せるしかないだろう。
「現在、こちらで提示することができる任務はこちらの通りです。お二人の現在のランク帯はD、となっているため低級モンスターの調律が主な任務になるでしょう」
先ほどとは別の受付嬢から説明を受けているが、その討伐対象はゴブリンやスライムばかりだ。数だけは多いので、小金を稼ぐにはちょうどいいかもしれない。
「大したことのない任務ばかりですね。すぐに昇格試験を受けられないのですか?」
実際のところ、ロードスフィアによってリッカとルリアの二人の能力は調べ上げられている。
ただ、それだけではすぐにランクを上げさせてはくれないのだろう。
「昇格試験に関しましては、毎年行われるランク昇格試験をご活用ください。試験日時は10月となっております」
「随分呑気な試験ね」
「お二人の能力値についてはこちらも唸る程のレベルになっておりますが、実際に行われる仕事を完遂することとは別の話です。また、ギルドグループの特殊な法律をある程度熟慮する必要もあるでしょう」
「確かに、今日来たばかりの人間はランクDで十分ということかな。ルリアも、そうせっかちにならなくてもいいんじゃないか?」
「私たちにとってはわりと重要な話ですが。妙に気難しい規則に貴方はすぐに納得するのですね」
「別に、人間を万単位捌かないといけないシステムだからなぁ。そうだ、この町に居るギルド剣士ってどれぐらいいるんだ?」
そう、受付嬢に聞くと、彼女はすぐに答えてくれた。
「現在、グラスリム・ギルド協会にご登録されている剣士の人数は3000名程度とされています。非公認ギルドを足すともっと多いかもしれませんが、こうして自由な取引のなかでギルド協会は運営されているんですよ」
「非公認ギルド?」
ルリアも知らないようだった。
「錬金術師や、あるいは貴族に雇われた魔術師や剣士の事です。体裁上ギルドグループを名乗ったりしていますが、その代わりギルド協会からの融資等は行われない人たちです」
「それだと、かなりズブズブな感じになっていそうね。とりあえず私たちは、ギルド協会で名声をあげることを考えましょう」
そう言ったルリアは、色々な任務の書類をみる。そこで、後ろから二人程の女性が来る。髪が長い子と、短かい子の二人だ。とてもよく似ているが、格好からしてギルド剣士だろう。
「私たちも何か無いかな。できるだけ近いところがいいんだけど」
「お客様、まだこちらの方の任務選考がすんでいませんので・・」
「でも、こっちは任務完了したのに、相手の畑ごと爆破しちゃったせいで逆に弁償させられたんだよね。今すぐ稼がないと家計ピンチで」
聞いているだけでも世知辛いことを言っていた。見た目は可愛いが、恐らく無能なタイプかと思われる。
「姉さん、とりあえず落ち着いて。この人たちが終わってからでも遅くないわ。ガリッタおじさんから貰ったニンジンだけで我慢して」
「そんなの無理に決まってるじゃない。あのゴブリン、知恵だけは高いし。防衛対象を盾にするなど許すまじ」
面倒くさそうに感じたルリアはすぐに、スライム退治の任務書類を手に取った。それを受付に渡して、そして承諾が成立したことになる。
「よし、次は私の番ね!全部やっつけちゃうんだから!」
「前に一度仰いましたが、ランクD帯のギルド剣士は任務を掛け持ちすることはできないことになっています」
「そこを何とか、こっちは夕飯がかかってるんだよ!?」
「姉さん、落ち着いて。周りの人が見てるから」
そう、妹と思われる女の子が止める。そして、その姉と思われる女性と目が合ってしまった。
「今、私を見て笑ったでしょう」
「いや、笑ってないと思うけど」
「私を馬鹿にしているんでしょう。そう、本当はかなり魔力推定値が高いのに無能すぎるせいでランクDを突破できない奴がいるだなんて、貴方にとっては暁光しかないわね」
「いや、だからまだ何も言ってないし。別にそんな卑しいことも考えていないから妹さんのいう通り落ち着いてくれ」
「私を一体何だと思っているか知らないでしょうけれど、エーレンフェルト家の秘匿魔術を受け継ぐ人間なの。少なくとも、ここで終わっていい人間じゃないんだわ」
「あの、お客様・・」
困り果てる受付嬢。ただ、燃え上がるギルド剣士(姉)は目の前にいるリッカを敵対する人間として見ているようだった。
「とにかく、あまりなめた態度を取ったら承知しないわよ。このギルド協会の争いは根深いんだから。そんなノーてんきな顔をしていると一発でやられるわよ?」
「まぁ、能天気なのはともかく、今度は畑を邪魔されないように頑張ってくれよ。こっちは邪魔しないし、それでいいんじゃないか?」
「当然よ。このエーレンフェルト家の長女を邪魔する人間はここであっても排除するわ」
例え相手が誰であっても容赦しなさそうだが、ただ本人の迷惑な自己主張は同族嫌悪にも近いのだろう。
「なるほど、能力が高いけど無能だから試験を受けられなかったか・・」
「な、何でそれを知ってるの?」
「お前が言ったんだよ」
「姉さんが言いました」
凡骨過ぎてだめだった。向こうで待っているルリアも、巻き込まれないように待機している。助けてくれないようなので、リッカは自分で考えるしかない。
「まぁ、お互い運が悪いと思って頑張るのが妥当か。こっちは経験が浅いからすぐに活躍できない。そっちは不勉強なせいでよく失敗する。うん、悪くはない」
「貴方と一緒にしないでくれる?私はとにかく、今以上の戦いをしなければいけないのに。本当にむかつく人間ね、どこか見ているだけでイライラするわ」
「なんでさ」
「見ただけでも貴方の魔力推定値が高い。そのくせしてランクD帯の任務を受けるだなんて」
「お前と同類みたいなもんだろうが。仲良くしようぜ女騎士さん。俺はとりあえず、適当に仕事をするからさ」
「待ちなさい、私は貴方に言うことが・・!?」
突然怒り出した女騎士(姉)。しかし、その彼女に対し、一本n剣が首元に当たった。そう、その人はリッカとルリアが最初に会った受付の人だった。
「お客様?ギルド協会での私闘は犯罪と見なされる場合があります。気をつけて他者とコミュをするか、言動を謹んで行動しましょう」
「ひ、ひぎぃ」
間抜けな声が響いていた。
別に困ることは無かったが、あの受付嬢も相当大変だと思った。変な書類を書いていたり、あの騎士みたいに変な人を相手にしなければいけないのだから。
「あの人、結局何が言いたかったのですか・・?」
「恐らく、自分と同じレベルの人間に対してどこか嫌になったんだろう」
「迷惑すぎますね。あの見た目のわりに三流みたいなことをするなんて」
「そうだな。人は見た目によらないっていうのはアリスティア様で経験済みだから」
「そうですね。世の中不条理すぎます。あのような嫉妬深い変な人と会うばかりじゃなけれあいいのですが」
ルリアと一緒に、スライム討伐の予定地まで行く。向こうで女騎士が暴れ出しているみたいだが、それは無視しておくことにした。受付嬢に頑張ってもらうしかないだろう。