可愛い顔して!可愛い顔して!
ぬいぐるみが動くと聞いて、普通の人はどう思うだろうか?
大体は気のせいの一言で済ませられるだろう。オカルト好きな人なら呪われていると言うかもしれない。
実際のところ呪われていようがなんだろうが、こちらに何の害も無ければ動くぬいぐるみというのは可愛らしいものである。
見た目がテディベアであるから余計に。あと服をあげるとすごく喜ぶ。
ぴょんぴょん小さな体で飛び跳ねて全身で喜びを表現してくれるのだ。例えるなら、お散歩に喜んではしゃぎまくっている小型犬を見ている気分。
なんともほっこりするというか、癒される。
まさかオカルト関係でそんな気持ちになる日が来ようとは、全く想像していなかった。
よく見る幽霊とか怪異的なあれそれは大体怖いやつなので。癒し要素はどこにも見当たらない。
「ねえくーちゃん、今日の夕飯は何がいい?」
出かける準備をしながらテーブルの上でお絵描きをしているテディベアこと、くーちゃんに声をかける。
くーちゃんという名前は不動が教えてくれた。昔の持ち主に付けてもらったものらしい。
その前の持ち主はどうしたのかと聞いたら、じっとくーちゃんを見ていたのでそれ以上は聞いていない。
くーちゃんは無害で、可愛いぬいぐるみだと信じていたいので。
絵を描くのをやめてくーちゃんは悩むように首を傾げると、持っていたペンを動かして紙に字を書いた。
書き終わると紙を持ち上げて見せてきた。
『おやこどん』
「分かった。それじゃあ買いに行ってくるから、留守番よろしく」
両手を上げて頷くくーちゃんに見送られ、栗原は買い物に出かけた。
自転車で近所のスーパーまで行き、食材を買ってマンションまで帰ってきた。
夕飯の材料以外にも色々と買ったので、いつもは階段で四階にある部屋まで戻るのだが、荷物が重いからとエレベーターに乗ることにした。
ボタンを押して少ししたらエレベーターが降りてくる。
静かにドアが開く。中に入って、四階のボタンを押した時知らない女性が乗り込んできた。
ボタンはドア横だけでなく、壁側にもあったので行きたい階層を聞かずに『閉』のボタンを押した。
エレベーターが動き出す。女性は他の階のボタンは押さなかった。
四階に着く。栗原が降りると、女性も降りる。同じ階の人だったんだと思いつつ部屋まで行き扉の鍵を開けた。
扉を開けた瞬間、顔の横を茶色い物体が通り過ぎていった。後ろを振り返ったのと同時に、見慣れたテディベアが女性を手にした彫刻刀で滅多刺しにしている光景が目に飛び込んでくる。
「く、くーちゃん……?」
飛び散る鮮血。がくがく体を震わす女性……の姿をしていたナニカ。真っ赤に染まる彫刻刀持ったテディベア。
どこのホラー映画のワンシーンだろう。鼻の奥に届く腐った肉のような臭いに頭がくらくらした。恐怖で。
そっと静かに部屋の中に入って扉を閉め、へなへなと玄関に座り込む。
あまりにもグロい画像をお見せされて吐きそうだった。
(可愛い顔して怖いんだよなぁ……)
ちょっとだけ遠い目になりながら、これまでのくーちゃんの行いを思い返す。
ヘドロみたいな謎の液体纏う肉片とか、有名なホラー映画のようにやべえ奴の魂が宿った人形とか、頭が魚で体が人とか。
色々な人じゃない何かを彫刻刀で滅多刺しにしていた。
不動から「怖がりだけど、そこそこ強いんだよねー」という評価を受けているだけはある。
それからきっと装備の彫刻刀にも何かあるのだろう。不動直々に渡した物らしいので。
「あんなに可愛いのに……」
見た目は、本当に見た目だけはあんなにも可愛らしいのに。
大きく息を吐いて、震える足を叱咤しどうにかこうにか立ち上がる。
扉の向こうではまだ大変グロテスクなあれそれが続いているらしく、絶叫が絶え間なく聞こえてきた。
リビングに行きテレビをつけて音量を上げる。それでも悲鳴が何故か届いてくるけれど多少声が小さくなった。
台所へと行き買い物袋から食材を取り出し、手を洗って調理を始める。
親子丼ができあがる頃、「お仕事おわったー!」というように血塗れ肉片塗れの赤黒く染まったテディベアがてとてと部屋に入ってきた。
そっと抱き上げ、手に伝わる感触に内心悲鳴を上げながらお風呂へと連行して洗った。




