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呼ばれて寄ってきて。あーあ、

 こっくりさんやエンジェル様、これを小さい頃に遊んだ人はそれなりにいるのではなかろうか。

 来島(くるしま)みゆきも小学生の頃、友達に誘われて何度かやったことがあった。

 用意する物が小学生でも簡単に手に入る物だったというのも、流行った理由の一つだろう。



 それがまたみゆきの通う学校で流行っていた。

 右を見ても左を見ても女子しかおらず、教師の大半も女性ばかりの女の花園。中高一貫の女学園。

 おまじないや占いが好きな生徒が多く、教師陣もそういうことが好きな人が多かった。

 だからこそと言うべきか。校内にて不可思議で不気味な現象が起こっている現在、学年問わずこっくりさんが大流行していた。



 昼休み、放課後。教室内では毎日誰かしらがこっくりさんを行っていた。

 突然の非日常に誰もが浮き足だって、不安と恐怖と興味関心を抱いて。



「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」



 みゆきもその中の一人だった。

 二ヶ月前から校内で起こる様々な不可思議で不気味な現象。

 例えば誰もいない教室で悲鳴が聞こえたり、音楽室で授業中誰も触っていないピアノが一人でに音楽を奏でたり、誰かしらの持ち物や教室の備品がまるで人が持っているように浮き上がったり。

 ホラー映画に出てくるような怪奇現象。怖いと思うと同時に、その奥でむくりと湧き上がる好奇心。



 今起こっている事象の原因を突き止めたいと思った。今起こっている不可思議を知りたいと思った。

 不可思議を起こしている存在がどんなものか、知りたいと思った。

 そうして誰かが原因究明のためといつの間にか始め出したのがこっくりさん。

 オカルトを解き明かしたいために、同じオカルトに頼ろうとしたのだろう。



「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」



 怖い怖いと言いながら、こっくりさんをしている者たちは皆笑顔を浮かべていた。

 どこかで皆、楽観視していたのだ。確かに不可思議で不気味な現象が起こっているけれど、それは自分たちを傷つけたことはなかったから。

 大丈夫大丈夫と、保証も無いのに思っていた。信じ込んでいた。



 そうして保証も無い大丈夫を信じて、今日もみゆきは仲の良い友達二人とこっくりさんをしていた。

 おふざけ半分、面白半分。誰もいなくなった教室で、その遊びを行ってしまった。



「なーあーにー?」



 すぐ耳元で知らない女性の声がした。慌てて後ろを振り返る。他の二人も同じように動いたのが気配で分かった。



 誰もいなかった。確かにすぐ耳元で何者かが囁いたはずなのに。返事をしたはずなのに。

 元の位置に顔を戻して三人顔を見合わせた。恐怖に引き攣った、血の気の引いた青白い顔だった。

 きっと自分も同じような顔をしているのだろうと、ぼんやりと思う。全身の産毛が逆立って、ガチガチと歯が鳴る。

 教室内の空気がどんよりと重苦しくなって、なんだかひどく湿っているような気がした。



 ――とてもまずいナニカを、自分たちは呼び込んでしまったのではないかという、強い強い恐怖心が頭をもたげる。



 三人目を合わせる。「帰ろう」誰からともなく言った。

 その言葉に頷いて、十円玉から置いた指を離そうとした。



「手順通りにやらないとダメだよ」



 咎めるように、嗜めるように。

 感情が一切乗っていない無機質な声が制止の言葉を放ち、そっと静かにどこからともなく現れた白い手が覆い被さって、今まさに十円玉から離されようとしていた三人分の指を止めた。



 弾かれるように三人揃って手の主を見る。

 一体いつからいたのだろうか。ガラス玉のような感情の伺えない真っ黒な目をした女性がみゆきたちを見ていた。



「だ、だれですか……?」掠れた声で問いかける。きょとり黒い目が瞬いて、彼女は不思議そうにこてんと首を傾げた。

「呼んでたでしょ」静かな返答に友達の一人が反応する。「誰が?」訳がわからないという顔をして。もう一人の友達も、そして自分も同じだった。



「? 呼び続けてたでしょ。誰であろうと、何であろうと。君たちも、他の子たちもみんなしてそれ使って」



 彼女視線の先には、こっくりさんを行う為に用意した紙が置かれている。

 言葉の意味を理解したくないのに理解してしまって、ひゅっと喉の奥が鳴った。



 手が離れていく。誰も動けなかった。動いたらダメだと思った。

「質問しないの?」問われて、友達二人と顔を見合わせた。

 彼女は言った。手順通りにしなければダメだと。もしも手順通りにこっくりさんを終わらせなければどうなるのか。



「い、いま、この学校で何が起こっているんですか?」



 震える声でみゆきは問うた。十円玉はぴくりとも動かない。



「変なことが起こり始める前に生徒が一人死んでるでしょ。中等部の子」



 十円玉が動かない代わりに彼女が質問に答える。彼女の言う通り、校内で起こっている不可思議な現象は中等部のとある女子生徒が亡くなった後に起こるようになったという。

 みゆきたちは高等部であるのと、教師陣が混乱を招かないようにという理由でその当時の話は一切してくれず、また中等部の生徒たちも緘口令が敷かれているのか話を聞いても誰も口を開かない。



 ただ噂で聞いた。その亡くなった女子生徒の死はあまりにも不可解かつ、凄惨なものであったと。

 そしてその女子生徒の死後、校内で不可思議で不気味な現象が起こり始めた。

 だから事情をよく知らないみゆきたち高等部の生徒も、そして何かしら知っているだろう中等部の生徒たちも、それを起こしているのが死んでしまった女子生徒だと。



 彼女がまだ霊となって校内を彷徨っている。理由は分からないけれど、成仏することができずに。

 もしかしたら心のどこかで、その理由を知りたいと思っていたのかもしれない。

 そして今、その知りたかった理由が知れるかもしれない。

 ――誰よりも早く。正確な答えを。



「その死んだ子がなんかポルターガイスト起こしてるって言われてるけど違うよ。いやまあ、原因の元ではあるのだけれど」

「……え?」



 思わず声を上げてしまった。友達二人も同じように。

 驚きのあまり彼女から外していた視線を戻してしまった。

 ひたりと、無機質で感情の伺えない真っ黒な目に見つめられる。



「君たちさぁ、誰がこんな馬鹿な遊びをしようなんて言ったか覚えてる?」



 問いかけにみゆきは二人の友達に顔を見合わせた。



「えっと、誰だっけ? 知ってる?」

「し、知らない……」

「誰かがやり始めて、それでいつの間にかみんなもやるようになってたけど……」

「ひとりかくれんぼって知ってる?」



 三人で確認しあっていたら、唐突にそんなことを聞かれた。彼女の方へ顔を戻せば、真っ黒な目がみゆきたちを見下ろしている。

 なんだか返事を急かされている気がして、疑問は飲み込んで「い、一応……」と答えた。

 彼女は他の二人にも顔を向けて知っていると返事を貰うと、こくりと頷く。



「死んだ子はちゃんと終わらせなかったんだよね。だから取って代わられたんだよ。で、好き勝手してるんだよね。こっくりさんもそう。これも降霊術の一種だからね」

「えっと……?」

「呼び込んだんだよ。みんなして。偶にダメなのを呼ぶことだってあるのに馬鹿だよねぇ」



 にぃっと口角を上げて、彼女はそう言った。

 ぽかんとしながら笑みの浮かんだその顔を見ていると、「質問は終わり?」また無表情になってそう尋ねられた。

 みゆきはこれ以上聞きたいことはなく、二人の友達も特に無かったようで三人揃って首を横に振る。



「そっか。なら、終わりでいいね?」



 確認の言葉にこくんと小さく頷いて。

 ちゃんとこっくりさんを終わらせた。十円玉は最後まで動かなかった。



 ずっと教室内を覆っていた重苦しい空気がふっと軽くなる。

 ようやくしっかりと呼吸ができるようになった気がして、大きく深呼吸をした。

 ふと横を見ると、あの真っ黒な目をした彼女はもうどこにもいなかった。



「帰ってくれたんだ」安堵の息を吐く。それと同時に『本物』に自分たちは会って、しかも会話までしてしまったとひとしきり盛り上がって。

 机の上の紙と十円玉を片付けて、三人揃って教室を出てふとなんとなしに廊下の窓からグラウンドを見た。



 ばちりと、目が合った。

 何か、人程の大きさの物がすっと落ちていって。



「まあ、今更遅いんだけどね?」



 耳元で彼女が囁いた。

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