あめあめふれふれ、ふらないとぉ、
明日が晴れることを祈っててるてる坊主を作る、というのは子どもの時に誰しもがやったことがあるのではないだろうか。
逆に雨を降らしたかったら、てるてる坊主を逆さ吊りにする。運動会とかの前日とかにやってる子が多かった。
わたしは作ったことないけど。人形なりぬいぐるみなり作ると変なのができるから。作られたのを見る専である。
さてこのてるてる坊主だが、元ネタとなったのが人身御供となった少女の話だとか、変わった力を持ってた坊主が首切られた話だとか、そんなあるあるな諸説があるためか歌が結構物騒。
お天気になったらご褒美をたんとあげるけど、できなかったら首を切るぞって脅してる。
虫の羽をちぎったりして遊ぶ子どもの無邪気な残酷さを表した歌詞とも言われてるが、真相は知らないし別に知ろうとも思わない。
所詮歌は歌、である。今じゃ人身御供なんぞやらないし、変わった力がある坊主だってまずいない。
現代の常識だとそうなるのだが、まあ偶にそういうのから外れた場所があったりはする。
「終わってんなぁ」
近畿地方のとある山奥にある、ほとんど知られていない今にも消え去ってしまいそうな小さな小さな山村。
人口は家屋の数からして百人にも満たないだろう。もしかしたら五十人前後かもしれない。
そんな山村のあちこちに頭の無いてるてる坊主と、同じように頭の無い失敗した者たちが軒先や木の枝に吊るされている。全部逆さ吊りだ。
失敗した者たちの一割が残りは山村の住民で、あとはここに迷い込んでしまったり、わざわざこんな場所に足を運んできたオカルトマニアなどの余所者だ。
この山村はその界隈では知ってる人は知ってる心霊スポットなので、頑張って調べたら来れる。入った人間は二度と帰ってこないって言われてるのに来る。
まあ実際は生還者は全くのゼロというわけではなく、極々稀に帰れてる人間はいる。
その数少ない生還者たちは皆病院にぶち込まれてるか、帰ってきた数日後に自殺してるみたいだが。
赤黒く汚れた道を歩いているとあちこちから視線を感じる。新しいのが来たという喜びに満ちた視線だ。それが段々近づいてくる。
鬱陶しいので手を軽く振って払うと、全身が潰れたらしくて金切り声を上げた。
びちゃびちゃと音を立てて周囲に臭気を放つ肉片が転がるが、気にせず目的地に向かって歩く。
山村にはもう生きているものはいない。山に棲む命あるものたちは一切ここへと近づかないから、台所の悪魔すらこの山村には存在しなかった。
まあこんな場所で生きていられるのはわたしのような耐性のある者くらいだろう。そうでなければ一時間と経たずに発狂する。
ここはそういう場所だった。ここはそういう場所に作り変えられた。
捧げることが可能な相手がいないのに、長い間人身御供なんぞをしてきた結果だ。
「お邪魔しますよっと」
山村の中でも一番大きなボロ家の古びた戸を蹴り開け中に入った。
最早人が生活していた気配は無い。家財も床も腐り、壁には穴が空いていて、家の中のあちこちにきのこやら雑草やらが生えている。
元は相当立派な作りの古き良き日本家屋だったろうに。
馬鹿なことをしでかすから守りたかった先祖代々受け継いできた家も財も失う羽目になるのだ。
つーか、捧げるべき相手を捨てたの元凶だな? もうとっくの昔に他所の所で祀られてるのを知ってたはずなのに。
「あったあった」
おそらく当主の部屋だったろう場所にあった朽ち果てた神棚の中、禍々しい気配を纏っている翡翠の原石がぽつんとボロボロになった布の上に置かれていた。
大きさはわたしの顔とほぼ同じ。かなり大きいが、元々あったのはこれよりさらに一回りは大きい。
それなりの存在が宿っていたというのに、元凶は金に目が眩んで売り払いやがったのだ。大事な家守であったのに。
まあ売られた先の方がよっぽどいい感じの扱いしてくれたみたいで、元凶のことを祟るような真似はしなかったんだけど……厄を払い除けてた存在がいなくなったらまあ、当然払い除けられていた厄が押し寄せてくるわけで。
それはそれは色々と酷かったみたいだ。
多くの災害や獣害、飢饉に見舞われたみたいだが、なにより酷かったのが旱魃だ。
一年間まともに山村がある山周辺では雨が降らないなんてこともあったらしい。
とはいえ、何でなんも宿ってないものに捧げ始めたんだろうか?
大きさが同じくらいだからって言っても、輝き具合とかそもそも存在感が全然違うから、見えない人間でさえなんも宿ってないのははっきりと分かるだろうに。
それとも捧げ続ければ帰ってくると思ってたのか、もしくは新しく宿ると思ったのか。
まあ確かに空っぽの依代であれば何かしら宿るけども……それは守ってくれる存在ではなく、呪いを振り撒く怨霊なんだよなぁ。
そしてその宿った怨霊に元凶はパクッと食べられ、ついでとばかりに元凶の家族も食べられ、そして山村を完全に自身のテリトリーとした。
その際に山村に残っていた住民は死亡したようだが、当然怨霊のテリトリーと化した場所から死んだ程度で逃れられるはずがなく。
背負ってる業もだいぶ重かったもんだから、見事に悪霊と化した。
結果、雨乞いを成功させなければ即首チョンパからの逆さ吊り心霊スポットができあがった。
生還方法は一つ。雨乞いを成功させること。空のご機嫌次第なので、まず助からない。
しかも死んだら悪霊たちの仲間入りだ。お迎えの方もこういう場所にはそう簡単に来れないから、わたしみたいに身軽なのが駆り出される羽目なる。
「それにしたってさあ、便利に扱いすぎだと思わない? 君たちみたいなのの処理って面倒なのに」
もう少し信仰を集めて格を得てくれていたらもっと処理が楽だったのになぁ。
そうぼやきながら、ちょんちょんっと依代を指先で突く。
うっかり砕かないように、ちゃんと全部追い出せるように調整して、ちょんちょんちょんっと。
ぞわり、と。依代の影が動いた。
逃げるように、戸惑うように、恐るように。
もがき苦しんでいるような様子で蠢いて、ずるりと依代から出てきた。
ばきりと音を立てて依代が真っ二つに割れる。どす黒く澱んでしまったそれはもう宝石としての価値は皆無だ。
「意外と頑張ったねえ」
むんずと逃げ出そうとした影を掴んでボロ家から出る。
影はずっと人には聞き取れない声で命乞いをしていたが、無視して山村に残っている者たちも回収して山を降りた。
待ち合わせ場所にいたお迎えの方は、なんか心底憐れむような目で影たちを見ていた。




