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俺のAIするこの世界  作者: 螺旋
序章 運命の幕開け
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第3話 灯の果て

 光が砕け、風が唸る。

 振り下ろされた爪を、まばゆい障壁が弾き飛ばした。


 その中央に立つのは、アルバート・ライトフット。

 鍛え抜かれた体に風をまとい、鋼の眼差しで黒き巨躯を睨み据える。


 相対するのは、漆黒の鱗に覆われた災厄――シャドウグリーム。


 その漆黒の体躯は、ただの魔物ではない。

 突如として姿を現し、燃えるような炎と異様な咆哮で威圧する異形の存在。

 アルバートは、今まさにその災厄と対峙していた。


 ザシュッ!

「……くっ!」


 鋭い爪が肩を裂き、鮮血が舞う。

 アルバートは歯を食いしばり、即座に光壁を展開する――はずだった。

 だが。

「…またかよ…!」


 確かにエーテルは流れている。

 けれど、光が立ち上がる感触が虚空に吸われる。

 発動すべき壁は、そこにはない。


 一瞬の遅れを埋めるように、アルバートは長剣を振り抜いた。

 斜めに閃いた刃が鱗を裂き、火花が散る。浅い。

 深追いはせず、すぐに飛び退いて距離を取る。


(発動が不安定だ……何かが干渉してやがる)


 巨体に似合わぬ速さで、シャドウグリームが再び跳ぶ。

 尾がしなり、鉄の鞭のように襲いかかる。

 寸前、アルバートの左腕が煌めき、光壁が展開。

 重厚な音と共に尾が弾かれた。


「—光輝矢ラディアント・ショット!」


 瞬時に光壁が砕け、閃光の矢となって放射される。

 無数の光が巨体を貫き、シャドウグリームが吠える。

 その隙を逃さず、アルバートは足を滑らせ、剣を突き上げた。


 が――。


 バチィィッ!


 横合いから雷が奔り、肩を焼く。

 視線を向ければ、いつの間にかそこに“少年”がいた。


 フードに覆われた顔は影に沈み、表情は見えない。

 炎と煙の中、ただ彼の立つ場所だけが、焦げ跡ひとつなく静まり返っていた。


(こいつが、シャドウグリームを使役してるってのか?)


 男の表情は深いフードに隠れ、読めない。

 思考、行動を想定する事は困難そうだ。


 男の背後の祠に目を向ける。2、3度、男の攻撃を受けると倒壊しそうだ。

(……ここで戦闘続けるのは得策じゃねぇな。)


 そう判断したアルバートは、意図的に後方へ跳躍しながら叫んだ。


「——こっちだ!」


 囮となって木々の間を駆け抜ける。シャドウグリームはすぐに後を追った。男も静かに歩きながらその後をつけてくる。


 やがて、森が開け、燃え広がる草地に出た。風下に火が広がっていたが、アルバートは臆することなく剣を構え直す。


「…光輝結界ラディアント・リング

 足元に展開した光が円形に広がる。


 謎の男の力は、俺の力を完全に無効化するものじゃない。じゃなきゃ、とっくにやられてるはずだ。タネはわからないが、タイミングを指定して妨害しているのだろう。

 この光環結界は、一定距離内に侵入したものを自動的に弾く対多数用の障壁だ。試す価値はある。


 シャドウグリームが突進する。今度は障壁を利用して迎撃。すれ違いざまに一閃。長剣が胴体を裂くが、致命傷には至らない。炎に包まれた尾が横なぎに襲いかかるも、再び光の壁がそれを防ぐ。


 そして、炎と煙に包まれた草地の中心には黒衣の少年が立っていた。

 その手には、何も持っていない。だが空気が、ビリビリと震えている。


 次の瞬間、少年の周囲に淡い光陣が浮かぶ。

 青白い稲光がいくつも矢の形を取り、虚空に連なった。


「……雷迅散矢(ヴォルト・スプレッド)


 少年が囁いたその声とともに、

 虚空に描かれた魔法陣が、ギリギリと回転し始めた。


 青白い雷光がいくつも矢の形をとり、空中に浮かび上がる。

 一つ、二つ、五つ、十……。

 まるで星座のように連なるそれらは、次の瞬間――放たれた。


 シュバァン――!


 空気を裂き、光壁を穿つ。

 数本は弾かれた。だが一部の壁が、まるで意図的に“消された”かのように霧散する。

 その隙間から放たれた一矢が、アルバートの肩を貫いた。


「ぐっ……!」


 体勢が揺らぐ。息が荒い。

 炎と雷が入り混じり、草地はすでに火の海と化していた。

 その瞬間——。


「グァァアッ!」


 シャドウグリームが猛然と突進。炎を纏った前肢が、アルバートを正面から貫かんと振り下ろされる。

 咄嗟に剣を構えて防ぐも、その質量に吹き飛ばされる。体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


 (まずい!)


 光の壁を再展開しようとした瞬間、再び雷の矢が飛んできた。アルバートはとっさに避けるが、背後の地面が爆ぜる。


 焦げた草の匂い。焼け焦げた空気。あたりはすでに火の海だった。


「この野郎…」


 アルバートは最後の力を振り絞り、地面に剣を突き立てて立ち上がる。


 光の壁が薄く広がる。その中心に立ち、再び突進してくるシャドウグリームを正面から迎え撃とうとした——その時。


「——もらっていくよ。」


 穏やかで冷たい声が耳元に響く。いつの間にか男が距離を詰めていた。そして、彼の右手には、どこからともなく生成された、透き通る蒼いエーテルの剣があった。


「な……っ!」


 振り返るより早く、蒼い刃が振り下ろされる。

 光壁は、刃を拒まず――すり抜ける。


 スローモーションのように、左腕が切り離された。


 バサッ——。


 血飛沫と共に腕が地面に落ちる。


「ぐっ……ぁあああっ!!」


 絶叫が炎と雷鳴に混ざり、世界が暗転していく――。

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