07 朝
日の出に合わせて目を覚ます。
一階の自室から出れば、すぐにリビング。
誰かが起きてきた様子もないし、まだ起こすのは忍びないので、できるだけそっと家を出る。
物置小屋の馬が気になったので、様子を見にいけば、腹ばいになっていた馬が顔を上げてこちらを見てくる。
寒くはないか、体の調子はどうか、水や野菜は足りていたか、小声で声をかけながら、ブラシで背中を梳いてやる。
特に反応はなかったが、かゆいところはないかと聞いたとき、微妙に体をずらしてきた。……尻の辺りがかゆかったらしい。
馬の手入れの仕方なんて分からないが、この馬は賢くて人の言葉を理解しているようなので、積極的に声をかけるようにする。
ブラッシングが終わったら、二つの桶を一度綺麗にしてから、水と干し草、野菜を与える。
それから、一度外に出してやると、止める間もなく駆け出して柵を飛び越えて、……用を足していた。
……実は、一晩中我慢していたようだ。
物置小屋ではしないように遠慮していたのか。賢い。本当に賢い。
そして、用を足したらまた柵を飛び越えて戻ってきた。
「小屋の中に戻るか。……あ、柵の中なら、自由にしていて大丈夫だぞ」
オレがそう言うと、家の周りをカポカポと歩いてから、駆け出していた。
なんだか気分良さそうに走り回っているので、柵の外に出るんじゃないぞと声をかけてから家の中へ。
さて、気持ちの良い朝って、どんな日だろうな?
窓から朝日が差し込む晴れの日?
しっかりと疲れがとれて、自然に目覚めたとき?
元気で楽しそうな声が聞こえたとき?
オレの思う、気持ちの良い朝は。
「……おはよう。……あ、」
「おはようヨシュア。もう少しで朝ご飯できるから、顔を洗ったら三人を起こしてきてくれ」
パンの焼ける匂い、スープの煮えた匂い、ベーコンの焼ける匂い。
そう、オレの思う気持ちの良い朝は、朝食の匂いで目を覚ました、腹ぺこの朝だ。
バタートーストとジャムトーストを1枚ずつ、焼きたてのベーコンエッグ、野菜スープ、酢漬けの野菜を、テーブルに座る4人の前に並べてやる。
「さあ、冷めないうちにお食べ」
笑顔で食事を促せば、
「朝からこんな贅沢してて良いんだっけ……?」
まだ寝ぼけてるのか、カティアが呆然と呟いていた。
さすがに二度目ともなると、貴族として育てられたというにふさわしいマナーで食事をしていたが。
ベーコンエッグが乗っていた、空になった皿を寂しそうに見つめるヨシュアに、
「お代わりほしいなら、焼くぞ? 少し時間かかるけど」
と聞けば、
「ぜひ」
と短い返事が。
「他にも、お代わりしたいものがあれば遠慮なく言ってくれ。用意するから」
4人して、あれをこれをとお代わりしていたが、なにげにフローラが一番お代わりしていた。酢漬けの野菜を。
野菜ばっかりで、からだが持つのか気にはなったが、満足そうな顔で食後のお茶を飲む様子から、まあいいかと思うことにした。
肉が苦手か食べ過ぎを気にしてるのかも。
食後のお茶を出して、しばしまったりしてると、ヨシュアが突然声を上げた。
「そうだ、聞いてなかったんだよ。きみの名前」
その言葉に、三人娘が、あ、やべっ。って感じの表情になる。
そりゃあねえ。世話になる相手の名前、聞きもしないのはどうなの? って、ちょっと思ってた。
オレも、あえて名乗らなかったけどさ。
というかむしろ、4人の疲れ具合が深刻で、それどころじゃなかったってのもある。
でも、まあ、聞かれたなら、名乗るか。
「カリン」
女みたいで嫌なんだよな、この名前。
いやさ、転生した今のオレは、紛れもなく女なんだけどさ。
それでも、親がくれた名前だ。本当は嫌いじゃない。
「カリンか……。良い名前だね」
ヨシュアは微笑みながら褒めてくれる。
カティアも、ミシェルも、フローラも、口々に褒め言葉を並べるが、名前も聞いてなかった気まずさから褒めてるっぽく感じられて、なんだかなー。
でも、悪い感じはしない。
村の連中は、オレのこと、おい、とか、お前、とか、そんな風に呼ぶし。
あるいは、舌なめずりするような表情で名前を呼ばれて、身の毛のよだつ思いもしたことあるけれども、ヨシュアたちから呼ばれる分には、不快さは全くない。
この差はなんなんだろうな。
それだけ、村の連中のこと嫌ってるのかもしれないな。
オレの方が。




