03 勇者さまご一行?
日が傾いてきた頃村に戻ると、門には槍を持った門番の男がいて、声をかけられるが無視をする。
こいつは、女にはみんな色目を使うような不愉快で不真面目な男だからだ。
そんなヤツがなんで門番かというと、単純に強いから。
狩りで何度も魔物を倒してきた今のオレでも、あっさりと組み伏せられてしまうと思う。槍を使うまでもなく、あっさりと。
蛇が体を這い回るような不快な視線に晒されても、無視するのが精一杯の抵抗だ。
母親似のオレは、まだ未成熟な子どもであっても、村に女が少ないことであぶれてる連中からしてみれば、アリなのだという。
せっかく異世界に転生したっていうのに、攻略する側でなく、攻略される側だとは。
旧男♂で現女♀のオレは、本来安全なはずの村であっても、日々身の危険を感じて過ごしている。
しかもそれは、年々強くなっていっていると感じているので、成人と認められる15歳になる前に、この村を出ようと強く思っている。
それとこれとは別として、今日の成果を渡して報酬を受け取るために、食料庫の方へ。
村に提供するのは、ホーンディアーとファングボア1頭ずつと、ゴブリン6体。
魚やカニ、山菜などは出さない。もちろん、オークも。
なにせ、ホーンディアーとファングボアを肉にして各家庭に分けたとしても、数日分の食料にしかならない。
しかも、1頭につき1日分の小麦をもらえる程度にしかならない。
……元々、両親がよそ者だってこともあってか、足元見られてる感はある。
だが、それだけ村には食料の備蓄は余裕がないともいえるのだが。
なら、畑を増やせばいい。とはならず。
なぜなら、畑は太い木の柱を組み上げて作ってある頑丈な塀の内側にしかないから。
何度か塀の外側に畑を作ろうと試みたらしいが、魔物に荒らされてダメになったらしい。
それならそれで、塀を拡張すればと思うのだが、塀を作る職人が村にはもう居ないから無理の一点張り。
多少の補修程度ならできるらしいが、そんなんでこれからどうするつもりなのか。
村を出るつもりのオレには、関係ないけどな。
なんせ、現状でも、無知につけこまれて搾取されてる感はあるから。
不満しかない現状に若干ふてくされながら、狩った本人の権利としてどの部位を受け取るかと聞かれたので、ホーンディアーの角とファングボアの牙と言ってやった。
両方とも、そのまま武器として使えるほどの強度と鋭さがあるため、利用価値が高い。ついでに行商への売値も毛皮を抜いて一番高い。
忌々しげな食料庫の番人から角と牙を受け取り、食料庫から出る。
すると、熊のような巨漢と豚のような太った小男に見つかってしまい、声をかけられる。
熊のような巨漢がこの村の村長で、豚のような小男が村長の息子な訳だが、聞くところによると、今この村に《巡業勇者》という、大きな街を拠点として周辺の小さな町や村を巡り、魔物や盗賊の討伐などを行う小規模な武装集団が立ち寄っていて、魔物の分布や盗賊の拠点の有無などの周辺の状況を求めているという。
それと、謝礼は渡すから宿と食事を提供してはもらえないかと言われていて、少し困っているのだとか。
村長が困ろうが小豚がわめこうがオレには関係ないわけだが、彼らを一目見ておきなさいと半ば無理やり村長宅へ連れていかれて、なぜオレが呼ばれた……というか、有無を言わさず連れてこられた……かを理解した。
見目麗しく、姿勢良い立ち姿。
服装も、華美ではないが家紋と思われる装飾の施された、素人目で見ても立派と思える仕立ての良い服装。
身に付ける鎧や法衣は、遠目からでも名工の仕事と分かるような高級さを感じられる。手に持ち、あるいは腰に下げている武器も、きっとそうなのだろう。
端的に言って、彼ら彼女らは、貴族の生まれだ。
さらに言うと、この森の隠れ里のような小規模な開拓村では、お貴族サマを満足させるような宿や食事を提供することはできない。
だから、村の外に家を持つオレに、面倒ごとを全力でぶん投げようとしているのだと。
言われなくても理解した。
……だから、
「オレは、外の人とは接することも少ない田舎村の、礼儀もなってない田舎者な訳だけれど、オレなら、4人分の食事とベッドを提供できるぞ。滞在中、村の備蓄を切り崩すよりは、オレが諸々の世話してやるよ」
成人前の14歳にしては、大きく育った胸を張って、自信満々に宣言してやった。
うむ、頼むぞ。と、まるっきり他人事な村長に、ちゃんともてなすために、彼らの口に合いそうな良いワインを1本寄越せよ。と言ったら、今にも泣きそうな情けない顔をしていた。
ざまあ。