02 帰り道
崖の上の畑の様子を確認してから村に帰る最中、また魔物が姿を見せる。
群れで暮らす森オオカミのはぐれ個体で、腹を空かせてふらふらしていたところに、処分に困っていた魔物の内臓類をくれてやったら、なんか懐かれた。
といっても、野生のオオカミなわけだから、すり寄って来ることはない。
代わりに、自分で仕留めたと思われる魔物の皮や骨や魔石をくれることがある。
こちらも、人間では食べられない内臓類を中心とした部位や、食用に適さない魔物を与えたりする。
今回は、爪が発達した猿クロウモンキーを丸々与えてやる。この猿の爪は役に立つので、取り外した状態のものを。
相手は野生のオオカミなので、与えるエサを地面に置いたらその場から離れる。
固そうだけどフサフサな毛並みを撫でてみたいとは思うけれども、そこは我慢だ。
森で出会ったら協力はするけれど、馴れ合いはしない。
このオオカミは、それを態度で示してきたから。
「今日は、これを持っていきな」
声をかけて、アイテムボックスから爪猿の死骸を《出庫》する。
最初は驚いていたオオカミも、今ではすっかり慣れていた。
オレが離れたのを確認してから、オオカミが寄ってきて、なにかを持ってきてくれたときは、その場に置いてから。なにもない場合は、そのまま獲物を持っていく。
今回は、なにも置かず、獲物もスルーして寄ってきて、顔を服に擦り付けてきた。
……でも、背中とか撫でようとすると、オレを睨み付けて自慢の牙を見せつけてくる。
……ツンデレさんか?
仕方ないので、マーキングされている木のような気分で好きにさせた。
グリグリと頭を押し付けて顔を擦り付けてきているのに、撫でたらダメとか、それなんて拷問だよ。なんて思いながら。
しばしの間、頭や顔や背中を擦り付けられたら、満足したようで、爪猿の死骸を咥えて去っていった。
……なんだったんだろうな?
村への帰り道、まだ上手く走れないような仔オオカミを追い回しているゴブリンが二匹ほどいたので、投石でサクっと仕留めて仔オオカミを解放してやる。
ゴブリンは《入庫》して、仔オオカミはケガをしているみたいなので、周りに誰もいないことを確認してから、回復魔法 《ヒール》でケガを治してやる。
それから、《出庫》した肉を手に乗せて差し出してやると、警戒しながらも少しずつ寄ってきて、肉だけをはむはむしだした。
手をガブリといかない分、賢いのではないかと思える瞬間だった。
肉を食べ終えた仔オオカミは、警戒していた気持ちもどこへやら、尻尾をフリフリしながら指をペロペロしてきたので、頭や顔や背中をナデナデさせてもらった。
さっきのオオカミを撫でられなかった分、仔オオカミを存分に、しかし優しくナデナデする。すると、お尻を見せて後ろ向きにお座りしてきたので、背中をかいかいしてやる。
……ああ……至福の時間だ……。
くあー、とあくびをする仔オオカミを見て、魔物が出る危険な森の中であるにも関わらず、頬が緩んでしまった。
フスッと鼻を鳴らした音で我に返ると、目の前には、あきれたような表情の成体のオオカミが。
どうやら、頬と同時に、気も緩んでしまっていたようだ。
仔オオカミの母と思われるオオカミに、正面からジト目で見られていることにも気づかない程度には。
仔オオカミを撫でるのをやめると、仔オオカミも母に気づいたようで、嬉々として母に走り寄っていった。
そんな母オオカミには、手土産として、以前仕留めた大カラスのレイブンの死骸を与えてやった。
獲物を咥えて仔オオカミと一緒に去っていく母オオカミを見送ってから、村への帰路につくことにした。